次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2014年6月号

No. 146 心臓CTによる冠動脈支配灌流域の定量評価

倉田 聖(愛媛大学医学部放射線医学/エラスムス医療センター)

●はじめに

狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の治療において,薬物治療と血行再建療法(カテーテル治療,バイパス術)を選択する際に,冠動脈狭窄とその支配領域の虚血心筋量を評価することが重要である。multi detector-row computed tomography(MDCT)は,近年の目覚ましい技術的進歩によって,冠動脈狭窄病変やプラーク性状を非侵襲的に評価できるようになり,冠動脈CT angiography(CTA)として日常臨床において急速に普及している。近年の診断精度に関する報告を受けて,核医学やMRIを用いた心筋虚血評価とともに,虚血性心疾患の重要な評価項目として位置づけられ,日本循環器学会の慢性虚血性心疾患の診断と検査法に関するガイドラインの基軸の1つになっている1)
ボロノイ図とは,数学的アルゴリズムの1つであり,主に科学や工学の分野で用いられている2)。二(三)次元の面(空間)の中で与えられた点または線に基づき,その面(空間)を二等分していく計算手法であり,医学においては,血管を定点(定線)と見立てて,その支配領域を算出できることから,肝切除の術前計画への応用が報告されている3)
現在,われわれの施設はAZE社と共同で,このボロノイ図を応用した「心臓CTを用いた冠動脈狭窄とその支配灌流域領域を自動分割する解析ソフトウェア」の開発を行っており,本稿ではこの解析方法の可能性について概説する。

●冠動脈の解剖と冠循環

冠動脈は,心臓の表面に沿って走行する心外膜動脈から,心筋を心外膜から心内膜へ穿通するように,前細動脈〜細動脈へと枝分かれして心筋に血液を送り込んでいる(図1)。心臓CTは,心外膜動脈を冠動脈CTAが描出し,それ以降の血管は心筋の造影剤の染まりとして描出していると考えられるが,その三次元的な解剖学的情報は,冠動脈とその支配灌流域の把握に優れた特長を有している。

図1 心臓CTにおける冠動脈の解剖

図1 心臓CTにおける冠動脈の解剖

 

●解析方法

再構成アーチファクトなどによるブレが少ない良質な画質の心時相データを解析ソフトウェアに転送し,1つの心時相データから冠動脈と左室心筋をそれぞれ抽出する。この解析アルゴリズム(ボロノイ図)は,冠動脈が左室心筋に接触する地点から冠動脈枝(狭窄セグメント)ごとの支配灌流領域を選別するように演算を開始するため,左室心筋を3D region growingという機能を用いて,ボクセル単位で左心室を均一に数ボクセル拡大させて冠動脈と左室心筋が接触するように調整を行い,冠動脈と左室心筋の2つのデータをソフトウェア上でもう一度統合する(図2)。そして,知りたい冠動脈枝・狭窄部位を指定すると,その下流にある支配灌流域の左室心筋の容量(全左室心筋に対する割合)を自動で算出することが可能になる。

図2 解析方法のシェーマ

図2 解析方法のシェーマ

 

●心筋SPECTとの比較

この解析方法を用いた心臓CTによる冠動脈狭窄の支配灌流域と,薬剤負荷心筋灌流SPECTが示す心筋虚血領域を比較した。負荷心筋灌流SPECTが示す心筋虚血のリスク領域は,心臓核医学の国内多施設研究の1つであるJ-ACCESS研究のデータベースを基に作成された自動解析ソフト「Heart Risk View」(日本メジフィジックス社)4)を用い,負荷像もしくは負荷-安静差分像において,標準17セグメントに分類される左心室に対して欠損スコア1点以上(5段階,0点:正常〜4点:血流欠損)の血流異常を示すセグメントの割合〔0〜100%,5.9%(1/17)ごと〕と定義した。
心臓CT,負荷心筋灌流SPECT,そして冠動脈造影の検査を受けた連続17症例の後ろ向き検討では,冠動脈造影で50%以上の狭窄部位に対する心臓CTでの心筋リスク領域と心筋SPECTのリスク領域は有意に相関し(R=0.718,P<0.05),心臓CTでのリスク領域は,14症例(82%)の負荷心筋SPECTのリスク領域を±10%の誤差で予測することが可能であることが示された5)

●まとめ

ボロノイ図を用いた冠動脈支配灌流域の定量評価は,心臓CTの高い空間分解能を基礎に冠動脈の走向の個体差に対応した解析方法と考える。負荷心筋SPECTは負荷時の心筋虚血の重症度を広がりと深さ(欠損スコア)で評価できることに対して,ボロノイ図を用いた心臓CTによる支配灌流域の定量評価は,冠動脈病変が影響を及ぼす最大リスク領域を左心室容量比として評価している(図3)。この評価方法は,心臓CTの画質,冠動脈CTAの描出精度に影響を受けやすい評価方法ではあるが,近年のMDCTの技術的な進歩は画質の担保に十分な役割を果たしており,この解析方法の立証研究については今後の報告を待たなければならない。
心臓CT検査で冠動脈病変を検出したときに,その狭窄病変や高リスク病変とされる低輝度プラーク病変が影響を及ぼす支配灌流域を定量評価することは,後の負荷検査や血行再建療法の適応決定の一助になりうると,われわれは期待している。

図3 陳旧性心筋梗塞と狭心症の合併例

図3 陳旧性心筋梗塞と狭心症の合併例
過去に右冠動脈#3に急性心筋梗塞(ステント治療による再灌流療法に成功)を発症し,最近狭心痛が見られたので,心臓CT,負荷心筋SPECT,冠動脈造影検査を受けた。負荷心筋SPECTでは,広範下壁と前壁の一部に血流低下を認め,冠動脈造影所見と一致していることが判断される。心臓CTでは個々の冠動脈病変に対応する支配灌流域(心筋リスク領域)を算出することが可能であり,この症例では第二対角枝の治療意義について検討することが可能であった。

 

●参考文献
1)山科 章・他:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007−2008年度合同研究班報告);冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン. Circulation Journal, 73(Suppl. Ⅲ), 1091〜1114, 2009.
2)Guibas, L., et al.: Primitives for the manipulation of general subdivisions and the computations of voronoi diagrams. ACM Trans. Graphics, 4, 74〜123, 1985.
3)Debarba, H.G., et al.:Efficient liver surgery planning in 3D based on functional segment classification and volumetric information. Conf. Proc. IEEE Eng. Med. Biol. Soc., 4797〜4800, 2010.
4)Nakajima, K., et al.:Cardiovascular events in Japan ; Lessons from the J-ACCESS multicenter prognostic study using myocardial perfusion imaging. Circ. J., 76, 1313〜1321, 2012.
5)Kurata, A., et al.:Coronary CTA Based 3D myocardial segmentation using voronoi’s
 method. J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 7(suppl.), 2013.

【使用CT装置】
Brilliance iCT SP(フィリップス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace(AZE社製)

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