次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2014年4月号

No. 144 MIDCABの術前3D-CTナビゲーション

横山 泰孝/森田 照正(順天堂大学医学部附属順天堂医院心臓血管外科)

●はじめに

冠動脈バイパス術のゴールドスタンダードは,左内胸動脈を左冠動脈前下行枝へ吻合することである。その有用性は,開存率,生命予後改善の両方の観点から,数あるバイパスの中で最も重要と考えられている1)。冠動脈バイパス術の手術侵襲を少なくする目的で,人工心肺を使用しないOPCAB(off-pump coronary artery bypass grafting)や胸骨正中切開を避けて肋間の小さい切開創で行うMIDCAB(minimally invasive direct coronary artery bypass grafting)が行われている。MIDCABは,きわめて低侵襲ではあるが,胸骨正中切開の冠動脈バイパス術では容易に見えていたものが,手術野が狭くなるために視認困難となり,加えて高度制限下での操作は手術の難易度が上がるため,内胸動脈グラフト損傷などの合併症を起こし,胸骨正中切開へ移行せざるを得ない症例がある2)。そこで当科では,術前評価として造影CTを積極的に活用し,内胸動脈の詳細な評価や肋間開創部からの手術野のイメージングをあらかじめ行うことで,手術をより安全に行うことができると考えている。本稿では,当科で実際に手術を行った症例の造影CTを用いて,術前3D-CTナビゲーションの有用性を報告する。

●内胸動脈の走行・分枝形態の評価

術前造影CTのデータを,ワークステーション「AZE VirtualPlace 雷神」(AZE社製)を用いて内胸動脈を解析した(図1)。CT水平断で内胸動脈起始部をプロットし,ストレートビューで自動抽出された内胸動脈を,冠動脈の場合と同様に回転させて末梢まで追跡し,内胸動脈の本幹を描出する。再度ストレートビュー上で本幹から出る分枝をプロットし,おのおのを末梢まで追跡することで内胸動脈の分枝を描出する。内胸動脈抽出確定後に3D表示し,カラーマップメニューから心臓を選択する。内胸動脈抽出後,胸腔内面での3D構築,胸骨・肋骨透見像との融合,内胸動脈のみを表示させ,詳細な評価を行った(図2)。この操作により,内胸動脈が第6肋間で筋横隔動脈と上腹壁動脈に分かれていることが容易に判読できる。

図1 内胸動脈解析ソフトによる抽出工程

図1 内胸動脈解析ソフトによる抽出工程
a:CT水平断上にて内胸動脈の起始部をプロットする。
b:ストレートビュー上に自動抽出された内胸動脈を左ドラッグして左右に回転させ末梢まで追跡する。
c:再度,ストレートビュー上で抽出血管を回転させ,本幹から出る分枝をプロットし末梢まで追跡する。
d:内胸動脈抽出確定後,3D表示してカラーマップメニューから“心臓”を選択する。

 

図2 内胸動脈の3D構築

図2 内胸動脈の3D構築
a:内胸動脈を胸腔の内側から見た3D像
b:内胸動脈と透見させた胸骨・肋骨の3D像。筋横隔動脈と上腹壁動脈が第6肋間で分枝していることがわかる。
c:内胸動脈のみの3D像。径1mm以上の分枝(→)が描出されている。

 

●MIDCABのイメージング

実際の手術は,左第5肋間から左胸腔内に入り,右片肺換気下に左肺を虚脱させ左内胸動脈を剥離した後に,心膜を切開して左冠動脈へ左内胸動脈の吻合を行う。実際には存在する左肺や心膜を除去した3D-CT画像は,左内胸動脈と左冠動脈前下行枝の位置関係を把握することや,内胸動脈の分枝形態と分枝部位の目安を事前に把握することで手術イメージングに役立てた(図3)。手術アプローチルートに従って仮想視点を進め,手術操作を想定しながら皮膚切開し,左第5肋間から左胸腔内に入り,左内胸動脈と左冠動脈前下行枝を確認した。続いて,左内胸動脈の分枝がどこから出ているのかを確認することができた。これは,バイパス術の成功のポイントであるグラフト採取の際に,グラフトのクオリティ低下の要因となる分枝損傷を回避することに貢献する。

図3 MIDCABのイメージング

図3 MIDCABのイメージング
a:左乳頭の左下外側に皮膚切開する。
b:左第5肋間より左胸腔に入る。
c:胸腔に入ると心臓が見える(左肺,心膜は画像処理にて消去)。
d:左内胸動脈と前下行枝の位置関係が評価される。
e:のぞき込めば回旋枝まで同定可能である。
f :内胸動脈の枝(↑)が画像から確認される

 

●グラフトを剥離する範囲により到達できる冠動脈の算出

内胸動脈の終末枝である筋横隔動脈と上腹壁動脈に分岐するまでをバイパスグラフトとして使用できる末梢側として設定し,中枢側の剥離範囲を仮定することにより,バイパスに用いる内胸動脈グラフトの長さを計測した。その上で,直線で到達できる冠動脈の範囲を算出し,冠動脈吻合予定部まで到達が可能かの判断を行った(図4)。内胸動脈中枢側を第2肋骨まで剥離したと仮定した場合の長さは101.6mmであり,剥離中枢端より前下行枝吻合予定部までの直線距離が70.9mm,回旋枝までが83.2mmとなり,左内胸動脈は両方の枝へ到達可能であった。しかし,第4肋骨までしか剥離しなかった場合のグラフト長は54.8mmであり,前下行枝までは直線距離で35.5mmなので到達可能であったが,回旋枝までは65.1mmとなり到達不可能であることが術前に読影された。このことは術前に吻合予定部を決めることで,逆に剥離範囲を設定することができる。剥離範囲を最小限にすることで,不必要な剥離操作による出血などの合併症を回避し,グラフト損傷による胸骨正中切開への移行のリスクを低減させる可能性がある。実際の手術では,直線距離分だけではなく余分の剥離も必要となるが,術前のプランニング,剥離の目安やバイパスデザインのナビゲーションとして有用である。

図4 内胸動脈の剥離範囲の算出 a,b:第2肋骨まで剥離した内胸動脈の長さは101.6mmであり,前下行枝も回旋枝も直線距離では到達可能である。 c,d:第4肋骨まで剥離した内胸動脈の長さは54.8mmであり,前下行枝までは直線距離で到達可能であるが,回旋枝までは到達不可能である。

図4 内胸動脈の剥離範囲の算出
a,b:第2肋骨まで剥離した内胸動脈の長さは101.6mmであり,前下行枝も回旋枝も直線距離では到達可能である。
c,d:第4肋骨まで剥離した内胸動脈の長さは54.8mmであり,前下行枝までは直線距離で到達可能であるが,回旋枝までは到達不可能である。

 

●まとめ

術前に十分な手術のイメージングをすることで,術者のストレスが軽減され,より円滑な手術が可能となる。特に,分枝を明瞭に描出した内胸動脈を,どこまで剥離すれば吻合予定部に到達できるのかを算出することで,余計な剥離を減らし,グラフト損傷を回避できることが期待され,より安全で低侵襲な手術が可能となる。加えて,術前に造影CTを行い,ワークステーションを用いて3D構築することは,特に経験の少ない若い外科医にとって,手術をより安全に行うための強力な一助となる。

 

●参考文献
1)Loop, F.D., et al. : Influence of the internal-mammary-artery graft on 10-year survival and other cardiac events. N. Engl. J. Med., 314, 1〜6, 1986.
2)Subramanian, V.A., et al. : Minimally Invasive Direct Coronary Artery Bypass Grafting ; Two-Year Clinical Experience. Ann. Thorac. Surg., 64, 1648〜1655, 1997.

【使用CT装置】
Aquilion ONE(東芝社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 雷神(AZE社製)

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