次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2014年3月号

No. 143 心臓CT画像データを用いたAS評価

水原麻季生(医療法人社団蘇生会蘇生会総合病院画像診断センター)

●はじめに

大動脈弁狭窄症(AS)の画像評価には,心エコー検査が最も簡易的で有効である。私自身も,現在当院で心エコー検査を実践している。しかし,患者の状態や撮像体位などによっては,画像の描出不良が生じ,十分な診断ができない場合がある。そこで,これらのことを踏まえ,64列CTによる心臓CT画像データを用いたAS評価を試みた。「AZE VirtualPlace 風神」(AZE社製)での画像の構築方法や症例,診断について紹介する。

●大動脈弁(AoV)のMIP,VR画像の作成(4次元解析,ダブルオブリーク)

心臓CTでは,心電図同期にて画像データを収集しているので,CT装置本体にて心電図のR-R(0〜90%)を10分割し,それぞれのフェーズの画像を構築する。
この画像データを用い,AZE VirtualPlace 風神のソフトウェアにて,大動脈弁(AoV)の画像再構成・解析を行う。
“4次元解析”はAoVの動態観察に,“ダブルオブリーク”は,長軸像と単軸像を作成し,大動脈弁口面積(AVA)計測,および器質性評価に利用する。
心エコーと心臓CT画像との相関性を調べるため,エコーとCTの両方を施行し,特に心エコー画像がクリアなAoV画像データ50症例を用いて,心電図同期のフェーズ (1) Q波90%時のバルサルバ洞径,(2) T波20〜30%最大開口時のAVAの2項目で比較を行った。
その結果,(1) バルサルバ洞径の誤差4%,(2) AVAの誤差8%以下であったことから,心エコーと心臓CTは相関性ありと判断した。

●症例提示

■症例1:mild AS(86歳,女性)

表1 当院におけるAS重症度分類

表1 当院におけるAS重症度分類

大腿骨頸部骨折の術前で,心雑音によるASの疑いがあったため心エコーを実施したが,体位の問題でAoVの観察ができなかった。そこで,CT画像データを用いて評価を施行した。当院でのAS重症度分類を表1に示す。正常なAVAは約3cm2であり,1.5cm2以下になると臨床症状が出現する。4次元解析でAoVの開閉状態(図1)の観察が,ダブルオブリークでは,石灰化の付着状態の観察やAVAの計測(図2)が可能となる。
この患者は,石灰化の付着も少なく,AVA=1.50cm2でmild(軽度)ASと評価された。後日,大腿骨の手術が施行され,ASに関しては経過観察となった。

図1 症例1:“4次元解析”によるAoVの観察

図1 症例1:“4次元解析”によるAoVの観察
a:MIP b:VR

 

図2 症例1:“ダブルオブリーク”による器質性評価とAVA計測

図2 症例1:“ダブルオブリーク”による器質性評価とAVA計測
a:MIP,石灰化の付着 b:MIP,AVA計測

 

■症例2:severe AS(69歳,男性)

胸痛で心エコーを実施。AVA=0.493cm2で大動脈弁逆流(aortic regurgitation:AR)も強いため,severe(重度)AS-ARと診断し,大動脈弁置換術(AVR)術前検査として心臓CTを施行した。ダブルオブリークにて強固な石灰化付着(図3 a)と,RCCとLCCが癒合し二尖弁形成(図3 b)となっていることが認められた。CTのAVA=0.51cm2で心エコーと近似値を示した(図3 c)。AoV開口時VR像を示す(図3 d)。MPRでの計測(図4)を行った。さらに大動脈の3D画像を構築することにより,石灰化や冠動脈起始部などの観察が可能となる(図5)。AVRを施行する際には,弁の石灰化の状態や冠動脈起始部の位置などを把握することが重要であり,心臓CTを施行することにより,これらの有用な情報が得られる。心臓CT画像からも重度なASであると判断でき,後日AVRが施行された。

図3 症例2:心臓CT解析結果

図3 症例2:心臓CT解析結果
a:ダブルオブリ-ク,MIP(閉口時70%) b:ダブルオブリ-ク,MIP(開口時30%)
c:CTと心エコーのAVA計測比較(約0.5cm2:severe AS) d:4次元解析(開口時)

 

図4 症例2:“ダブルオブリーク”による計測

図4 症例2:“ダブルオブリーク”による計測
a:MIP,短軸像 b:MIP,長軸像

 

図5 症例2:大動脈3D再構成画像

図5 症例2:大動脈3D再構成画像
a:VR b:MIP c:VR,RCA起始部 d:VR,LMT起始部

 

●まとめ

今回の検証にて,心臓CT画像データをワークステーションで処理することにより,AVAだけでなくさまざまな情報が得られた。本来,心エコーでAoVが正常に稼働していることがわかればわざわざ心臓CTでの評価は不要であるが,AS症例において心臓CTでの術前評価は非常に有用であると考えられる。
現在,AS外科手術としてはAVRやTAVI(経カテーテル的弁植込み術)が挙げられる。そこで問題となるのが,PPM(patient-prosthesis-mismatch)である。PPMとは,患者AoVと人工弁のサイズが合わないことを示す。心エコーでもST junctionやバルサルバ洞の計測は可能だが,2D画像であるためAoVの弁輪径を過小評価してしまう可能性がある。しかし,心臓CTは3Dデータなので,あらゆる角度からの計測が可能となる。心エコーの計測にCT画像の計測値を加えることで,PPMの減少にもつながると考えられる。さらに,CT値を利用することで石灰化などAoVの器質性評価,3D画像による立体構造の観察が可能となり,術前情報が大幅に増える。

【使用CT装置】
Brilliance CT 64(フィリップス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 風神(AZE社製)

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