次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2013年11月号

No. 139 腹部血管走行に変異のある上部消化管出血に対するIVR術前シミュレーションの有用性

福島 啓太(杏林大学医学部付属病院放射線部)

●はじめに

interventional radiology(IVR)支援を目的とした画像を作成する上で重要なことは,用いるソース画像および画像処理(MIPまたはVR)の特性,さらに目的部位の局所解剖などを十分に把握することである。特に,緊急度の高い場合においては,CT検査から血管撮影までの限られた時間内で,有益な情報を提供しなければならない。本稿では,当直帯で遭遇した消化管出血に対して,AZE VirtualPlace雷神を用いて画像処理を行った結果,簡便で,かつ役に立つ情報提供ができた症例を紹介する。

●症例提示

本症例は,吐血にて緊急搬送された70歳代の男性である。内視鏡検査で胃体部小彎側から動脈性出血を認め,クリップ止血術が施行された。手術は成功と思われたが,数時間後に出血性ショックを起こし,造影CT検査を施行した。止血部位より再出血を認めたため,緊急IVRにてTAEが施行された。

●短時間・簡便・役に立つ

当院の夜間診療では三次救急まで対応しており,診療放射線技師(以下,技師)は当番制で月に2,3回当直勤務を行う。スタッフの中にはワークステーションに触れる機会が当直のときだけで,その操作に不慣れな者もいるのが実情である。そのスタッフがワークステーションでの画像提供を求められたときに重要なことは,画像処理作業が簡便に行えることだと考える。
まず,ワークフローとその時間を図1に示す。本症例では,CT検査を施行してからIVR開始までの時間は10分であった。制限時間内で,医師とコミュニケーションをとりながら有益な情報を提供しなければならない。CT検査後,画像再構成を経て横断像配信までに1分30秒ほどかかった。この過程は,患者がCT検査室から退出するころには終了している。医師が横断像を確認している間に,AZE VirtualPlace雷神を用いてslab MIPを作成するのに3分を要した。さらに,骨除去をしてVRを作成するのに6分を要した。計10分ほどで行えるこの一連の画像処理は,当然簡便な手順でなければならない。

図1 短時間でのワークフロー

図1 短時間でのワークフロー

 

slab MIP作成の実際の手順は,画像を読み込んでMIP表示に切り替え,スライス厚とスライス間隔を調整するだけの単純なものである。しかし,MIPの表示法や表示厚,観察部位の角度は,医師と十分に相談しながら設定する必要がある。医師と相談の上,画像処理を行った結果,図2に示すように横断像だけでは観察困難な血管の把握や,出血源へのアプローチルートの確認,周囲血管との関連が明瞭な画像作成ができた。

図2 slab MIP最大値表示 5mm厚としたことで,主要血管との関係や右胃動脈の変異,クリップから出血源までが明瞭に分離して表示できている

図2 slab MIP最大値表示
5mm厚としたことで,主要血管との関係や右胃動脈の変異,クリップから出血源までが明瞭に分離して表示できている

 

続いてVRの作成だが,こちらも骨除去をして,腹部血管用の画像処理のテンプレートを使用するだけの単純なものである。さらに,MIPを重ね合わせることにより,VRで欠落してしまう細い血管の描出も可能である。また余裕があれば,時間はかかるが全体像のVRを作成しておくと,IVR中のリファレンス像として有用な画像となる。
本症例では,限られた時間の中でIVR支援に有用な画像を提供することができた。図3は,IVR術前に血管走行の変異を把握でき,その血管を描出するためには,術中に入射角を変える必要があることを示している。また,アプローチルートの蛇行が強いことも明らかであったため,カテーテルの選択にも役立った。総じて,手技時間の短縮,被ばく低減につながり,技師の一手間が臨床に大きな効果を生んだ症例であった。

図3 実際の血管撮影との対比 左肝動脈から前方に分枝する変異した右胃動脈は,入射角を変えて初めて描出される。

図3 実際の血管撮影との対比
左肝動脈から前方に分枝する変異した右胃動脈は,入射角を変えて初めて描出される。

 

●おわりに

緊急度の高い場面でのIVR術前シミュレーション画像の有用性について述べた。今回提示したslab MIPなどは,決して難しい処理をしているわけではない。重要なのは,症例ごとに本当に有益な情報とは何かを考え,医師との十分なコミュニケーションを大事にすることである。
今回,本症例はAZE展2013に出品したが,このような経験は,われわれが提供する画像の重要性を知ることができ,技師として向上心を忘れないための好機であると感じた。

【使用CT装置】
Aquilion ONE(東芝社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 雷神(AZE社製)

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