次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2013年6月号

No.134 AZE VirtualPlace 雷神による肝切除前シミュレーションの経験

所 隆昌/加藤悠太郎/香川 幹/棚橋 義直/新田 隆士/杉岡 篤(藤田保健衛生大学肝・脾外科)

●はじめに

肝臓手術において,術前画像の評価は手術成功の鍵を握る重要な作業であり,かつては術前のCT画像を見ながら脈管を頭の中で構築し,プレゼンテーションのためにシェーマを作成することに肝臓外科医は膨大な時間を費していた。MDCTの進歩により撮影時間が大幅に短縮されると,詳細な3D画像を作成できるようになり,3D画像を回転することで通常では観察不可能な方向から解剖を確認したり,残肝容積や機能を予測した手術計画を立てることができるようになった。さらに最近では,術前シミュレーションからナビゲーションの方向に開発が進んできている。
われわれの施設では,以前より「AZE VirtualPlace 雷神」(AZE社製)のソフトウェア“肝臓解析”を用いて系統的肝切除予定の患者を中心に術前評価をしてきた。本稿では,その肝臓解析ソフトウェアの最新バージョンの使用経験について報告する。

●症例提示(図1〜5)

38歳,男性。スポーツ外傷で入院した際に施行された腹部超音波検査で,偶然肝腫瘍を指摘された。肝細胞がんの手術のため,当院に紹介受診となった。身長172.5cm,体重62.7kg,BMI 21.0。血液検査所見ではHCV抗体陰性,HBs抗原陰性,Child-Pughスコアは5点でChild Aであった。ICG検査はk値0.172,R15が7.8%であった。腫瘍マーカーはPIVKA-Ⅱ 65mAU/mLと軽度高値であったが,CEA,CA19-9,AFPはいずれも正常であった。CTでは,S8/4を中心とする径8cmの腫瘍を認めた。造影CT早期相で腫瘍内部は不均一に造影され,後期相では周囲と比較して低吸収を呈していた。
AZE VirtualPlace 雷神で3D画像を作成して術前評価を行った。腫瘍は右肝静脈と中肝静脈の間に位置し,右肝静脈とは離れていたが,中肝静脈と広く接していた。腫瘍の栄養血管は肝動脈前区域枝で,ほかの領域からの血流は認めなかった。全肝容積は1383.13mLで,標準肝容積(1231.31mL)と比較して10%程度大きかったが,腫瘍容積が391.03mLであり,非腫瘍部肝容積は992.1mLであった。腫瘍の中心は前区域であったが,腫瘍が中肝静脈に広く接しており,さらに内側区域に張り出していたことから,根治切除には中肝静脈合併切除が必要であった。拡大右葉切除の場合の切除容積は888.04mLで,全肝容積の64%で肝予備能的には可能であったが,右肝静脈とは接していなかったため拡大前区域切除で十分根治切除となると考えて手術を施行した。

図1 術前CT 肝S8に径8cmの腫瘍を認める。早期相(a)で濃染し,後期相(b)では低吸収を呈して中肝静脈を越えてS4に張り出している。

図1 術前CT
肝S8に径8cmの腫瘍を認める。早期相(a)で濃染し,後期相(b)では低吸収を呈して中肝静脈を越えてS4に張り出している。

 

図2 3D画像 肝実質の透過性を調節することで,腫瘍の肝内での位置関係の把握が容易となる。肝動脈と門脈の関係も位置のズレがなく正確に表示できている。

図2 3D画像
肝実質の透過性を調節することで,腫瘍の肝内での位置関係の把握が容易となる。肝動脈と門脈の関係も位置のズレがなく正確に表示できている。

 

図3 術前シミュレーション 右肝静脈は腫瘍と離れておりintactであることがわかる(a)。前区域切除では腫瘍が切離面に露出する(b)ため,中肝静脈を切除する拡大前区域切除(c)の予定となった。dは切除後の肝切離面。

図3 術前シミュレーション
右肝静脈は腫瘍と離れておりintactであることがわかる(a)。前区域切除では腫瘍が切離面に露出する(b)ため,中肝静脈を切除する拡大前区域切除(c)の予定となった。dは切除後の肝切離面。

 

図4 術中写真 肝切除終了後の切離断面を示す。術前画像どおりに右肝静脈の末梢枝を認める。

図4 術中写真
肝切除終了後の切離断面を示す。術前画像どおりに右肝静脈の末梢枝を認める。

図5 切除標本割面 腫瘍が露出することなく切除できた。腫瘍に沿って中肝静脈が走行していることが確認できる。

図5 切除標本割面
腫瘍が露出することなく切除できた。腫瘍に沿って中肝静脈が走行していることが確認できる。

 

●新・肝臓解析のImpression

今回バージョンアップしたAZE VirtualPlace 雷神を使用した感想について述べる。多相位置合わせが自動で簡単に行えるようになり,脈管の相互関係の再構築が容易になった。特に,肝動脈と門脈を同時に表示しても位置のズレがほとんど気にならなかった。血管の抽出については,精度が向上したため,画像の条件が多少悪くても門脈と肝静脈をストレスなく抽出可能であった。特に肝動脈は,任意の2点を決定するだけで,修正する必要がないほどのレベルまで瞬時に描出可能である。解析画面ではポリゴン表示とサーフェス処理により,脈管が肝臓の中でどのように走行しているかを,以前のバージョンと比較してイメージがつかみやすくなった。
結論的には,今回のバージョンアップにより肝実質や脈管の抽出精度が向上したことで,以前のものと比較して作業時間が大幅に短縮された印象であった。

●おわりに

MDCTの登場と進歩に伴い,術前のCTから得られる情報量は飛躍的に増加した。手術の安全性の確保や切除肝容積を考慮した治療方針の決定,画像情報をチームで効率良く共有するために,術前の3D画像による手術のシミュレーションの必要性は,今後ますます高まると考えられる。また,機能画像とのフュージョンも可能となり,機能肝容積を考慮した肝切除の術前評価も可能となった。
今後さらに改良を重ねることで,AZE VirtualPlace 雷神は肝臓外科医にとって必須のツールになっていくであろう。

【使用CT装置】
Aquilion(東芝社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 雷神(AZE社製)

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