iPod touchを用いた認証・記録による業務効率向上と安全性の確保
小野 律子(大阪警察病院 看護部)
2019-7-1
医療や介護の現場において,タブレット・スマートフォンなどの利用が進んでいる。本シリーズでは,毎回,モバイルデバイスを有効活用している現場からの事例を報告する。シリーズ第9回は,大阪警察病院の小野律子氏が,看護業務におけるiPod touchの活用事例を紹介する。
施設・看護部の概要
大阪警察病院は,地域医療の中核的な病院として,大阪市天王寺区で80年来,“愛・熱・和”の精神と,人を思いやり慈しむ“仁”の心で病める人中心の医療を提供している。2019年4月には同地区内のNTT西日本大阪病院と合併し2病院体制を開始,新病院建築を目標に前進している。看護部は約700名の看護師が医療チームの一員として最高の医療を提供できるように日々研さんし,凛として,優しく,心を尽くして安全で質の高い看護を提供している。
導入の経緯
当院がオーダリング・看護支援システム・電子カルテといった医療業務のシステム化を図る目的は,情報・物流・人動線のスリム化であり,業務の効率向上と安全性の確保である。しかし,PDAによる照合システムは,情報量や費用対効果に難があると判断し,導入には至っていなかった。そこで,電子カルテの導入時に実装されている照合機能(注射・輸血・検体検査・手術)を無線端末で活用することにした。電子カルテの安定運用が定着する一方で,ルール違反や警告無視,照合過程を省略する行為が散見された。医療安全管理センターとともに運用周知と啓発を強化していったが根絶には至らず,検体採取の直前照合もたびたび未実施が報告された。要因の一つに,無線端末の可動性の問題で,緊急時や繁忙時に対応しづらいことが考えられた。携帯性に優れたモバイルデバイスの活用を模索したが,既存システムに満足できるものはなかった。
そこで,システム更新に合わせてイードクトルの協力の下,OPH Medical Mobile(大阪警察病院モバイル照合システム。以下,OPH-MM)の開発に至った。開発に際しては,照合機能のみならず,看護師の業務負担改善対策を盛り込むこととした。
システム構成
OPH-MMは,ICカードリーダ・二次元バーコードリーダを装備したジャケットにiPod touchを装着したモバイル機器を使用し,採血管・注射・輸血などの照合実施,バイタルや計測数値の登録,医療機器の使用終了の登録,写真撮影などの機能を具備したモバイルシステムである。OPH-MMは,院内無線LANで照合システムサーバと通信する。また,照合システムサーバは職員認証サーバ,電子カルテIFサーバ,画像システムサーバと連携する(図1)。
OPH-MM起動後に職員ICカード・ICタグを読み込ませると,メニュー画面が展開。選択すると患者バーコード読み取り画面に遷移,患者リストバンドを読み取ると,各登録画面が展開するが,エラー表示された場合はメニュー画面に戻る(図2)。
「照合」は,検体・輸血・注射バーコードを読み取ることで,患者・オーダを照合。「輸血・注射」は,実施登録画面が展開する。この時,実施容量の変更も可能とした。
「計測」は,電子カルテフローシートに患者個々で設定している計測・IN・OUT項目を取得して展開し,NFC対応計測機器(体温計・パルスオキシメータ・血圧計・血糖測定器)の読み取り値や入力値をフローシートへ登録する機能を持たせた。さらに,フローシート未作成の外来カルテではSOAP記録に書き込むこととした。
「医療機器」は,生体モニター,人工呼吸器,輸液・シリンジポンプを選択し医療機器バーコードを読み込むことでSOAP記録に書き込む。開始・終了に応じて処置オーダを自動発生させ,医事課へ機器使用を通知する。また,生体モニターよりフローシートへの自動取り込み機能を持つ生体情報管理システムへの自動入退室機能も持たせた。
「写真」は,撮影機能とともに,画像に職員・患者IDを付けて画像サーバに転送。患者カルテより画像サーバを閲覧し,コピー・アンド・ペーストを可能とした。
システムの評価
2018年1月2日に電子カルテを更新し,OPH-MMは1月9日より稼働を開始した。モバイル機器の初期配布は,検証期間と故障対応を考慮して14病棟に98台,予備機67台とした。安定稼働確認後,10月に病棟以外にも拡大して129台を再配布,貸し出し用8台,検証用12台,予備24台となっている。電子カルテ端末との併用下の2019年1〜3月OPH-MM稼働実績は,注射照合・実施が最も多く,次いで検体照合,計測実施であった(図3)。
注射実施登録におけるOPH-MM使用率は3か月平均64.5%で,電子カルテ端末と比べ全時間で優位であった。特に0時の使用率が高いことからも,携帯性・機動性に優れているOPH-MMの効果が表れている(図4)。デバイスにかかわらずエラー検出率は1.4%であったが,照合システムを介さない実施登録が8.2%存在した。多くは病棟配置薬使用後の実施登録のため,照合は不要である。しかし,通常の注射実施時の照合過程を省略しているケースも認めるため,さらなる啓発が必要である。
検体採血管照合は,準備段階に電子カルテ端末で全数を実施し,採取直前にOPH-MMで照合することとしている。しかし,デバイスを問わず未照合が2.5%存在しており,OPH-MM照合率も平均27.9%と低い(図5)。OPH-MMのエラー検出率は0.4%存在しており,採取直前照合の意義は大きく,実施率向上への働きかけが重要である。
OPH-MM導入のタイミングで,全病棟の体温計・パルスオキシメータ・血圧計をNFC対応計測器に入れ替えた。血糖測定器は製品検討中であるが,導入予定としている。経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)のOPH-MMでの登録は平均5.1%。1ベッド1電子カルテ端末が設置されている重症系病棟では2.2%,一般病棟では5.8%と差が生じていた(図6)。また,一般病棟間においても1.3〜16.2%の開きがあった。時間別で比べると日勤外での使用率が高く,OPH-MMの携帯性・機動性に加え,計測行動プロセスの省略化やリアルタイム記録など,看護業務の効率化に効果を発揮している(図7)。
医療機器の生体情報管理システムへの自動入退室機能や写真送信機能により,データの誤登録防止と登録作業の省略化も果たせている。
今後の展望
院内では無線インターネット環境を提供していない。そのため,プリインストールされている標準アプリケーションすべてを使用することはできない。ライトや計算機,タイマーなど使用可能な機能は便利に使用している様子だが,拡張の余地はある。また,OPH-MMの機能追加や通信機能拡張など,さらなる業務の効率化と安全性の向上対策に役立てていきたい。
現在,2病院の電子カルテはベンダーが異なっているが,統一への検討にはOPH-MM稼働も視野に入れている。
(おの りつこ)
1989年大阪警察病院就職,2005年より電子カルテ導入準備室を経て,総合情報システム担当師長として看護部から情報管理課へ出向。2007年の電子カルテ導入,2012年,2018年のシステム更新における改修や運用整備など,診療業務全般の管理に従事する。
- 【関連コンテンツ】