医用画像参照と放射線部門システムでのタブレット活用術
池田 龍二 氏(熊本大学医学部附属病院 医療技術部)
2013-10-4
池田 龍二 氏
■はじめに
2011年の“タブレット端末元年”当初は,画面サイズ9.7型が主流であった。しかし,2013年は画面サイズ7〜8型のシェアが急速に拡大している。そして,今年後半,タブレット端末の台数がラップトップPCの台数を抜くと予想されている。
タブレット端末は一般家庭のみでなく,医療分野においても,導入する動きが急増している。タブレット端末のみを導入し,すぐに業務に効率的に使えるとは限らない。インフラの整備が必要不可欠である。レスポンスが悪いと,自然と使用頻度も少なくなり,システム自体が陳腐化していく危険性がある。
2012年,「放射線部門におけるタブレット導入のノウハウ」〔インナービジョン6月号,インナビネット
〕1)のタイトルで,放射線部門におけるタブレット導入の方法やタブレット端末の画面特性,液晶保護フィルタに関して紹介したが,今回改めて,医用画像参照と放射線部門システムでのタブレット活用術について切り口を若干変えて紹介する。
■タブレット端末が必要なケースとは?
どのような場合に,タブレット端末が必要とされるのだろうか。逆を考えると,タブレット端末がどのようなメリットを持ち,どのような使い方ができるかということになる。ラップトップPCに比べるとはるかに携帯性が向上している。しかし,携帯電話と比べると,やはりポケットに9.7型クラスのタブレット端末を入れて業務を行うのは,仕事内容にもよるが少し厳しいようにも感じられる(図1)。そのほか,安価で起動時間が速いのもタブレット端末の大きな魅力である。
放射線部門内の業務において,RIS(放射線部門システム)とモダリティとの関係性は強く,常にモダリティとRISが1セットとなっているケースが多い。しかし,利用頻度などを考えると,必ずしも端末の台数が適切であるとは限らない。フィルムレス化が進み,画像データやそのほかの共有情報をハードデバイスで参照する機会が増えたが,MWM,MPPSの普及により,フィルム枚数などの数値を入力する機会は減少した。文字入力などを得意としないタブレット端末にとって,入力操作をあまり必要としない状況下では,タブレット端末でも十分効果的に利用可能である。
病棟ポータブル撮影において,いままでラップトップPCの大きさやバッテリなどを考えると,持参するケースは想定されなかった。小型で携帯性に優れたタブレット端末になり,導入を検討している施設が増加している。病棟ポータブル撮影に関しては,近年ワイヤレス型FPDとX線装置を組み合わせたシステムの普及も進んでいる。ポータブル装置側に小型化したコンソール装置を装備し,検査の実施から画像処理までが,一般撮影室同様のワークフローで可能なシステムも存在する。
放射線業務に役立つアプリケーションの増加も,タブレット端末の導入を希望する要因の1つである。「造影CT検査サポートアプリ『iCECT』for iPhone/iPad」2)は,私が監修を務めたアプリケーションである。CT造影検査時に必要な,eGFRや造影剤注入条件の算出,TDCや注入圧曲線の比較が可能となっている(図2)。このほか,DICOMビューワや,CTの被ばく線量を算出するアプリケーションなどもある。
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■デバイスの充実
タブレット端末が普及する要因の1つとして,デバイスの充実が挙げられる。これまで,選択肢が少なかったタブレット端末も,現在では,画面サイズからOSの種類まで用途に応じた選択肢が少しずつではあるが増加している(ただし, ラップトップPCのように,メモリやハードディスクの増設など細かなカスタマイズできる仕様は少ない)。
タブレット端末を部門内に導入する際の選択肢として,OSに関しては,iOSか,Androidがほとんどであったが,近年はWindows OSを搭載したタブレット端末の種類も増え,10型クラス以上において,魅力的な端末も数多く存在する。先日,マイクロソフト社のSurfaceのPro版が発売された。これによって,病院内タブレット端末のOSのシェア争いに変化が表れることが予想される。特に,部門内システムのアプリケーションはWindows OSで動いているものが多い。そのため,部門内でのタブレット端末を利用する場合,無線LAN環境を構築することによって,仮想環境を作らずに既存アプリケーションが利用できるシステムも可能となる。当院においても,ワコム社のWindowsタブレットを3台導入し,RISなどの業務部門システムをインストールして利用している(図3)。本端末は,病棟ポータブル撮影時以外に,核医学検査部門にも導入している。核医学検査においては,薬剤の投与と撮像を行う部屋は別であり,これまで撮像を行う部屋のみに部門システムの端末が設置されていた。そのため,患者情報の確認などに紙が必要であったが,タブレット端末を導入することによって,必要な時に,必要な場所で情報が確認でき,より安心で効果的な運用が可能となった。
まだ,本原稿の執筆時点で参考出展であるが,パナソニック社の20型4K(3840×2560ピクセル)タブレット端末も高精細の画像を参照する場合や,複数のアプリケーションを同時に使用する場合などへの利用が期待できる。
■インフラ整備
タブレット端末のスペックが高性能でも,それを支えるインフラがしっかりと整備されていないと作業効率が悪くなり,スタッフ全員が積極的に利用する期待は少ない。
タブレット端末で部門システムを利用する手段は,大きく3つに分けられる。(1) クラウドコンピューティングサービスを利用したシステム構築,(2) 仮想環境を利用したシステム構築,(3) 既存アプリケーションが稼働できるOSもしくはミドルウエアに合わせたシステム構築となる。
これらを活用するためには,必ずネットワークの環境が整っていることが条件となる。しかし,画像を参照する場所が不特定など,オフラインでの運用が想定される場合は,タブレット端末側に画像をキャッシュできるシステムが必要となる。
■放射線部門に特化した運用
画像参照や放射線部門システムでの利用を想定した場合,押さえておきたいポイントがいくつかある。医用画像は電子カルテなどのテキストデータと比較してデータ量が大きく,1検査あたりの画像枚数に応じてデータ量がさらに大きくなる。これらのデータをすべて取得して表示する仕組みなのか,それとも表示する画面の情報だけを送信して参照する仕組みなのかで,ネットワークにかかるトラフィック量も異なる。前述の仕組みで,DIOCM規格を用いてサーバとクライアント間で画像の送受信を行う場合,IPアドレスとAE Titleによる認証を行うなどの方法がある。タブレット端末での運用の場合,固定IPアドレスではなく,DHCPによる運用が多く用いられている。その場合に,タブレット端末が取得するアドレスが固定されていないと,サーバからうまく画像の送受信ができないなどの問題があるので注意が必要である。
画像参照に関しては,いかに速やかに必要としている画像にアクセスできるかが重要なポイントである。そのために,アプリケーションの検索やリスト表示機能を通常の画像ビューワとは別に検討する必要がある。その際,タブレット画面に標準で表示させるキーボードを利用すると,画面半分がキーボードで占有されてしまい,入力欄にうまく入力できないなどの問題が発生する可能性がある。アプリケーションで別途,テンキーを表示させるなどの工夫も必要である。
画像ビューワには,拡大縮小,計測,比較読影などさまざまな機能が備わっている。これらもマウス操作を想定したGUIのアプリケーションとなっているので,タブレット端末の操作を想定したGUIの設計が重要である。
画像参照において,画面の明るさによって,コントラストが変わり,見え方が変わってくる。画像を参照する場合,できるだけ輝度の高い方が,コントラスト比が高くなるが,画面の輝度を上げると当然,バッテリの消費量もアップし,連続稼働時間が短くなるので注意が必要である。また,液晶面に貼る液晶保護シートの種類によっても,映り込みや反射の度合いが変わってくるので,利用する環境条件を考慮した選択が必要となる。
■まとめ
タブレット端末を利用した医用画像の参照は,院内で利用する以外に,院外から画像を参照する場合などさまざまなケースが想定される。ほかの運用と同様に,デバイスのセキュリティ対策と管理が必須となる。Androidに至っては,マルウエアが急増しており,早急な対策が必要である。
また,画像を参照する環境において,画面の輝度設定や表示条件,検索対象にいかに速くアクセスできるか,タブレットの操作にマッチしたGUIであるかなどのユーザビリティを十分に検討し,システムを導入していただきたい。
●参考文献
1)池田龍二 : 放射線部門におけるタブレット導入のノウハウ. INNERVISION, 27・6, 64〜67. 2012.
2)造影CT検査サポートアプリ「iCECT」for iPhone/iPad.(http://www.eisai.jp/medical/region/radiology/icect/
)
●施設概要
〒860-8556 熊本県熊本市中央区本荘1-1-1
TEL 096-344-2111
URL http://www.kuh.kumamoto-u.ac.jp
病床数:845床 診療科目:30科
●略歴
(いけだ りゅうじ)
熊本大学医療技術短期大学部診療放射線技術学科卒業後,熊本大学医学部附属病院,佐賀大学医学部附属病院を経て,熊本大学医学部附属病院医療技術部主任診療放射線技師。重粒子医医科学センター融合治療診断研究プログラム客員協力研究員,熊本大学医学部講師を併任。PACS Innovation研究会代表世話人。
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