国立がん研究センター中央病院における線量管理の現状 
井原 完有(国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院放射線技術部放射線診断技術室)
国立がん研究センター中央病院 × ShadeQuest/DoseMonitor(富士フイルム医療ソリューションズ)

2019-11-6


被ばく線量管理ケーススタディ

導入の目的と選定の経緯

当院は,画像診断管理加算3を取得するため被ばく線量管理システムの導入を行った。選定に当たっては,(1) なるべく安価であること,(2) 既存システムへの影響を少なくすませること,(3) RIS・PACSとの連携により必要な情報が取得可能なこと,(4) リプレイス時に対応可能なこととした。
(1) についてはどの施設でも挙げられる項目であると思うが,新たなLANの敷設や接続費用などをできるだけ抑えシステム導入を検討
(2) についてはRISなどに大きな改修作業・改修経費が発生しないよう検討
(3) 最終的には一般撮影装置を含むすべての装置を管理することと,線量評価に欠かせない,性別,年齢,身長,体重などの追加情報について,取得可能となるよう検討
(4) PACSや線量管理システムをリプレイスした際にも対応可能となるよう,装置より出力されたRadiation Dose Structured Report(以下,RDSR),またはDose Report画像をPACSに取り込むよう検討
以上の検討により,同メーカーによる追加情報のスムーズな取得,新たなLAN敷設や接続費用を抑え,できるかぎり安価なシステムとして,現在RIS・PACSを導入している横河医療ソリューションズ(現・富士フイルム医療ソリューションズ)社の被ばく線量管理システム「ShadeQuest/DoseMonitor」の導入を決定した。

システム概要

当院が導入した,PACSで線量管理を行うシステム構成を図1に示す。各CTより出力された画像とRDSRまたはDose Report画像をPACSへ送信し,データを蓄積する。通常PACSは,十分な冗長性を持ったハードウエアで構成(RAID構成)されているため,データ保存の信頼性も高く,永続的な保管場所としては最適である。また,心配となる容量についても,RDSRやDose Report画像の容量自体は少なく問題とされることはない。その後,PACS側ではDICOM画像とRDSRまたはDose Report画像をaccession numberを基に同一フォルダへ格納する。続いて,RDSRまたはDose Report画像はPACSから線量管理PCへデータ転送される。線量管理PCでは,RDSRのデータはそのままデータベース(以下,DB)に格納され,Dose Report画像はOCR処理された上で文字情報としてDBに格納される。通常,PACSには患者基本情報としてID,氏名,生年月日などを有しているが,性別,身長,体重など線量管理に必要な項目を取得するためにRISとの追加連携を行う。
線量管理を行う際には,電子カルテ端末から被ばく線量管理システムのアイコンを起動し,Web形式で線量管理PC上にあるWebサーバ型のアプリケーションにアクセスする。

図1 当院の被ばく線量管理システム構成図

図1 当院の被ばく線量管理システム構成図

 

運用方法

当院では,2019年10月1日現在,導入した被ばく線量管理システムを利用して,患者ごと,または装置ごとに患者基本情報やモダリティ種別,撮影部位など複数項目による絞り込みを行い,線量の異常を確認している(図2)。また,放射線診断医と診療放射線技師にて以前から月1回行われている画像診断会議にて,プロトコールの追加や削除,症例による撮影範囲の決定など行っていたので,この会議で被ばく線量管理システムの報告も行うこととした。
当院では,軽微なRIS改修により撮影に対するプロトコール管理を可能とし,また,夜間休日の読影体制の確保も行い,画像診断管理加算3を取得しているが,2020年4月1日の改正医療法施行規則の施行に合わせ,さらなる準備が必要である。

図2 被ばく線量管理システムでの条件絞り込み

図2 被ばく線量管理システムでの条件絞り込み

 

令和元年10月3日付,医政地発1003第5号,厚生労働省医政局地域医療計画課長通知「診療用放射線の安全利用のための指針策定に関するガイドラインについて」では,線量管理の実施方法として,関係学会の策定したガイドラインなどに則り診断参考レベル(以下,DRLs 2015)を活用して線量を評価し,診療目的や画質などに関しても十分に考慮した上で,最適化を定期的に行うこと,また,線量記録の様式として,関係学会などの策定したガイドラインなどを参考に「(1)線量管理及び線量記録の対象となる放射線診療機器等」において定めた装置ごとに,当該放射線診療を受けた者を特定し被ばく線量を適正に検証できる様式を用いて記録を行うこと,とされている。
当院では独自に線量管理を模索し,線量の異常を検知すべくシステムを準備してきた(図3)。
患者基本情報やモダリティ種別,撮影部位など複数項目による絞り込みを行い,DRLs 2015の75パーセンタイル値や当院設定の閾値を基に,線量異常のCT検査を検出し,リスト化する。グラフにカーソルを当てるとウインドウがポップアップし患者情報や簡単な検査内容を表示し,身長や体重などの確認が可能となっている。
基準値オーバーリストからは,画像ビューワを呼び出す機能と,RISの実施画面を呼び出す機能を有しており,画像ビューワではSDなどの計測が可能となっている。また,RISの実施画面からは,詳細なプロトコールを確認することができる。
画像の確認,RISの検査目的や撮影方法(プロトコール),実施情報を確認した後,基準値オーバーリストに原因・理由を入力,このデータを基に撮影条件などの見直しを行う予定であったが,今後これらの機能が今回の通知に沿うものなのか,慎重に確認する必要がある。

図3 DRLs 2015設定値オーバー表示

図3 DRLs 2015設定値オーバー表示

 

今後の準備

IVR-CT装置について,血管撮影装置側の透視・撮影のRDSRやDose Report画像についてはPACSへの取り込みが可能となっており,線量管理システム側での見せ方,どのように表示したら管理しやすいのかを検討中である。IVR-CTのCT側のRDSRやDose Report画像についても,PACSへの取り込みが可能となっている。
核医学装置について,陽電子断層撮影診療用放射性同位元素と診療用放射性同位元素は,RISに実投与量がデータとしてあるため,RISより収集を予定している。また,PET/CTとSPECT/CTのCT側のRDSRやDose Report画像については,現在(2019年10月時点),富士フイルム医療ソリューションズ社と装置メーカー間で調整中である。
RISについて,当初の被ばく線量管理システム導入時の選定条件からは外れてしまうが,より詳細に線量管理を行うため改修を行うこととした(図4)。CTではそれぞれ撮影ごとに分けられたRDSRのシリーズが出力される。そのため,RISの1オーダ(1つの検査内容)に対し複数のRDSRのシリーズが対応することになるが,そのままでは,詳細な線量管理が難しい。そのため,RIS側で保持する情報について,再検討が必要となった。それぞれのプロトコールごとに何シリーズ撮影するかマスター設定を行いRIS上に展開し,受け口を用意することが,一つの解決策となると考え,1対n(オーダにも紐づけられる)ではなく,
n対n(RDSRの各シリーズに対して,どんな撮影をしたのかがわかるよう)の形式でRDSRを取り込むことにより,時相ごとの比較や線量管理が可能となるよう改修中である。

図4 CT撮影プロトコールのRIS実績情報画面

図4 CT撮影プロトコールのRIS実績情報画面

 

まとめ

以上が当院の被ばく線量管理システムの現状である。2020年4月1日の改正医療法施行規則の施行までに,システム上で準備する項目がいくつか残っているが,富士フイルム医療ソリューションズ社の協力の下,早急にクリアすべく取り組んでいる。
システム以外では,「医療放射線安全管理責任者」の選出,「診療用放射線の安全利用のための指針」作成,「放射線診療に従事する者に対する診療用放射線の利用に係る安全な管理のための研修」の準備など,まだまだ課題が残っているが,こちらについても順次取り組んでいる状況である。

 

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