第5回 医療革新セミナー「RSNA 2021ハイライト Redefining Radiology」開催日時:2022年2月9日(水)配信
2022-3-24
インナービジョンでは2022年2月9日(水),Webセミナー「第5回 医療革新セミナー」を開催した。今回は,月刊『インナービジョン』2022年2月号と別冊付録『RSNA 2021ハイライト』 とのコラボ企画として,2021年11月28日〜12月2日に開催された第107回北米放射線学会(RSNA 2021)のハイライトを紹介した。ここでは,CT,MRI,AI,Metaverse/XR/VR/AR/MRの4テーマでご講演いただいた内容を抜粋して報告する。
講演1
CTの最新動向
望月純二 先生(みなみ野循環器病院放射線科)
CTのトピックス
CTで注目されたトピックスとしては,COVID-19,AI,Dual Energy CT,Photon Counting CTが挙げられる。COVID-19については,今回は肺炎や血栓症に加えて,ワクチン接種後副反応(心筋炎や心膜炎,リンパ節腫脹など)の演題も多かった。
各社のCTの最新動向
Philipsの「Spectral CT 7500」は,従来装置からの進化として8cmディテクタ,テーブルの可動性向上,ボア径80cmなどがあり,管電圧100kVも選択可能になったことで,より低被ばくにスペクトラル画像を得られるようになった。また,AIソリューション“Precise Suite”を搭載した「Incisive CT 5100」は,AI画像再構成機能“Precise Image”によりIMRと比較して違和感なくノイズを低減できる。われわれの検討では,Precise ImageはFBPと比べて空間分解能が向上する結果となり,ノイズを低減しつつ高空間分解能を維持していることがわかる。
RSNA 2021では,Siemens HealthineersのPhoton Counting CT「NAEOTOM Alpha」が注目の的となった。すでに欧米20施設以上で稼働しており,約30の演題発表もあった。Photon Counting CTの利点は高分解能,低線量,スペクトラル画像を得られることであり,低線量においては従来CTと比較して約45%の線量低減が可能となる。スペクトラル画像については,メイヨークリニックから石灰化除去でのインパクトのある画像が報告されていた。dual sourceであり,回転速度や管電流からも即戦力として使える装置であると感じている。
GE Healthcareの「Revolution Apex」は“ウルトラプレミアムCT”と位置づけられたシステムで,“SnapShot Freeze 2”が搭載されていることから心臓で使いやすい装置と考えられる。SnapShot Freeze 2は心筋や弁のモーションアーチファクトに対応し,各位相で効くため4Dでも有用と見られ,TAVIなどでの活用も期待できる。また,AIを使用した画像再構成が“TrueFidelity 2.0”へと進化し,仮想単色X線画像やヨード密度画像のノイズ低減も可能になった。スペクトラル画像の臨床的有用性が高まるだろう。
Canon Medical SystemsのAIを使用した新しい画像再構成“Precise IQ Engine(PIQE)”は,教師画像に「Aquilion Precision」の高解像度画像を使用しているのが特徴である。心臓の画像はステントの描出能やプラークの分解能が高く,低ノイズで観察しやすい印象で,どのような画像特性があるか注目していきたい。また,“SilverBeam Filter”は,低エネルギー成分を低減して高エネルギー側へシフトすることにより被ばくを大幅に低減する技術で,肺がん検診などでの有用性が期待される。
講演2
MRIの最新動向
玉田大輝 先生(ウィスコンシン大学医学部放射線科)
MRIのホットトピックス
MRIでは,新型コロナウイルス感染症(COVID-19),AI/深層学習,低磁場MRI,定量化/他施設間実験などがホットトピックスとなった。今回,現地参加者は55%ダウン,展示企業数は20%ダウンしていたとのことだが,現地参加した印象ではRSNA 2019とあまり変わらない熱気を感じた。
COVID-19
COVID-19に関しては,cardiac MRIを中心に多くの発表があった。ボン大学からは,軽度・中等度の患者に対するcardiac MRIスクリーニングは行うべきでないという報告があった。COVID-19関連のcardiac MRIの議論で繰り返し引用されている論文の一つに,ウィスコンシン大学の報告がある。COVID-19に感染した145人の学生アスリートを対象にcardiac MRIで心筋症の有無を検討したもので,心筋炎と一致するMRIの所見が確認されたのは2人だけであった。この結果はスクリーニングとしてのcardiac MRIの有用性の低さを示唆している。また,トーマス・ジェファーソン大学からは,COVID-19とたこつぼ型心筋症の合併についてMRIの有用性を示す報告が行われていた。
AI/深層学習
AI/深層学習は,製品化・臨床応用のステージに入っている。Canon Medical Systemsは,深層学習ベースの再構成技術“AiCE”やAIを活用した撮像アシスト機能を製品化している。同社は機械学習に注目した製品開発に早くから取り組み,製品の完成度が高いと感じている。GE Healthcareは“AIR”というブランド名でワークフロー全体を改善するスキームを提案しており,深層学習を用いた再構成技術“AIR Recon DL”では撮像時間短縮を可能にしている。Siemens Healthineersは“Deep Resolve”,Philipsは“SmartSpeed”を発表し,各社で得意分野や特徴が異なる深層学習再構成技術が提供されつつある。
低磁場MRI
低磁場MRIについては,RSNA 2019でHyperfineがポータブルの超低磁場(0.064T)MRIを展示して注目されるようになった。このポータブルMRIは頭部が主な対象で,1.5Tと比べると画質は落ちるが,数分の撮像時間で診断に堪えうる画像を得られる。脳神経外科やICUにおける需要も高く,研究用途も含めて全米で48台が稼働しているとの説明があった。
Siemens Healthineersも0.55Tの「MAGNETOM Free.Max」を臨床画像と併せて展示しており,Deep Resolveにより1.5Tに近い画質を実現することを紹介した。低磁場MRIは歪みが少ないという利点もあり,肺のイメージングも可能である。フルサイズMRIを設置できない施設や部門での需要が一定数あることから,今後導入例は増加するだろう。
講演3
AIの最新動向
山本修司 先生(株式会社リジット)
AI Showcase(AIシアター)
AI Showcaseは,参加者が最新のradiology AIソフトウエアや製品を提供する企業とつながるための場である。例年のように,Chest X-rayによる肺がんスクリーニング,乳がんスクリーニング,脳の領域体積計測などによるアルツハイマー病のスコアリング,CTによる肺がんスクリーニング,MRIによる前立腺がんの検出,脳・主幹血管障害,骨折検出,骨年齢推定などの紹介が多かった。脳神経領域や胸部領域が多くを占めており,各国共通の課題疾患に注力するベンチャー企業が多いことがうかがえる。
現在の医療の方向性の一つはデータ駆動による統合科学型の精密医療であり,疾患やモダリティに対して1対1で適用されるAI技術を有機的に適切な場面で活用するために提案されているのがAIオーケストレーション(オーケストレーター)である。AIシアターで講演したIBMは,その重要性を述べるとともに,ヘルスケアイメージングAIの動向を紹介した。90%近くの医療従事者がAIにより医療費を節約できると期待する一方で,60%の放射線科インターンが,AIが放射線科にネガティブな影響を与えると感じているとの報告が印象的だった。ネガティブイメージの払拭には放射線科医の負担が重くならないことが重要であるとして,具体的な解決すべき課題を挙げるとともに,業界標準ベースのルーチンの確立がAI導入を成功させるカギの一つになると指摘した。
教育セッションなど
教育セッションや口頭研究発表,ポスター展示では,オープンソースのAI開発ツールの紹介に注目した。ヘルスケアイメージに特化した深層学習フレームワーク“MONAI”の発表では,設計とアーキテクチャを説明しながらサンプル画像を用いてデモンストレーションが行われ,AIプログラマにとって参考になる内容であった。MONAIやエヌビディアの“Clara”などのAIライブラリの実装によって,オープンソースソフトウエア“3D Slicer”などの臓器セグメンテーションの精度も向上していると感じている。
AI radiomics,AI radiogenomics
今回は,マルチモーダルAIで精密医療をめざすという発表も複数あった。例えば,SOPHiA GENETICSはGE Healthcareと提携し,AI radiomics,AI radiogenomicsをすでに活用し始めている。radiomicsは,機械学習やディープラーニングによって臨床情報との相関から病態分類や予後予測ができるようになってきたが,これだけでは不十分で,臨床上の決定にはさまざまな臨床情報を統合的に解釈して,意思決定をサポートする必要がある。AI radiomicsの臨床応用フローとしては,AIを活用した集学的アプローチによって疾患を診断・治療するだけでなく,最終的な結果や経過へのアプローチもAIによってフォローされるなど,さまざまな場面でAIが活用されると考えられる。
講演4
Metaverse/XR/VR/AR/MRによるRedefining Radiology
杉本真樹 先生(帝京大学冲永総合研究所Innovation Lab,Holoeyes株式会社)
医療でも注目されるMetaverse
RSNA 2021のPresident’s Addressや基調講演では,社会協調,グローバル,コミュニティ,テクノロジーといったキーワードが強調された。これらを包括する分野として,コンピュータネットワークの中に構築された仮想空間であるMetaverseが社会的に注目されている。医療においても医用画像を中心に人々がアバターを使って協働し,現実世界と同じような価値をバーチャル空間で提供することが可能になりつつある。そこで用いられるXR/VR/AR/MR技術もRSNAで注目すべきトピックスである。
3D Printing & Mixed Reality Showcase
RSNA 2021の3D Printing & Mixed Reality Showcaseには12社が出展した。MediViewは,術中に臓器や骨,血管などを3Dホログラムで表示するシステムを展示し,光学的に手術機器を追跡する術中ガイドや,遠隔地とのコミュニケーションへの活用を提案した。また,NovaradはFDA認証を得た“OpenSight”と“VisAR”を展示し,心臓MRIを患者にARで重ねて表示して穿刺をガイドするといった活用方法を紹介した。韓国のMEDICAL IPはAI医用画像プラットフォーム企業であるが,医用画像をMetaverseに実装するVR/AR/MR技術を発表した。術中に特定部位の臓器をARで再現することで,手術ルートの正確かつ緻密な決定を支援するとしている。ImmersiveTouchは,ユーザーがインポートした医用画像から3Dモデルを生成し,VRの手術計画が可能なモジュラーソフトウエアパッケージを開発し,FDAをクリアしたことを発表した。
演題紹介
Education Exhibitsで採択された私の演題では,XRの医用画像の活用について,手法や用語解説,術中や手術計画・シミュレーション,医学教育などにおける活用方法,Metaverse空間でのアバターカンファレンスなどを発表した。
日本のHoloeyes社はDICOMデータから臓器をポリゴン抽出し,XRデバイスを用いて術中にホログラムのように三次元空間に提示するシステムを製品化している。データをアップロードすると自動でホログラム表示アプリを生成できるクラウドサービスも提供しており,国内では300施設以上での利用が進んでいる。
術中に術者が臓器や病変のホログラムを空間的に確認できるシステムは,手術時間短縮や安全性・正確性の向上,医師同士のコミュニケーションの改善などに貢献できる可能性がある。最近では,ハイブリッドオペ室で術中に撮影したデータをホログラムやARとして患者に重畳表示したり,ナビゲーションシステムと組み合わせてガイドとして活用する報告もある。日本でも利用可能になった5G次世代移動通信システムを用いることで,多拠点同時接続でも遅延なく,高解像度なデータを共有でき,遠隔医療や多拠点同時カンファレンスなどの医療Metaverse活用がさらに広がっている。
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