Zio Vision 画像の本質を診る(ザイオソフト)

第83回日本医学放射線学会総会が,2024年4月11日(木)〜14日(日)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。学会共催ランチョンセミナー29「PhyZio/dynamics 2.0がもたらす4Dイメージングの進化」(ザイオソフト株式会社 / アミン株式会社)では,真鍋徳子氏(自治医科大学さいたま医療センター)が座長を務め,下宮大和氏(ザイオソフト株式会社)と長尾充展氏(東京女子医科大学)が講演した。

2024年7月号

PhyZio/dynamics 2.0がもたらす4Dイメージングの進化

講演2:僕たちのMuse, Ziostation REVORAS!

長尾 充展(東京女子医科大学画像診断学・核医学教室)

長尾 充展

われわれは,ザイオソフト社の動態解析技術である「PhyZiodynamics」について,長年,共同で臨床研究に取り組んできた。今回,新たに発表された「PhyZio/dynamics2.0」を含めて,循環器領域におけるPhyZiodynamicsを用いた動態解析の歩み(過去),最新ワークステーションの「Ziostation REVORAS」での解析(現在),そしてPhyZio/dynamics2.0の可能性(未来)について概説する。

過 去

1.PhyZiodynamicsを用いた心臓の4D-CT
われわれは,PhyZiodynamicsを用いた冠動脈のダイナミックCT Angiography(CTA)について2016年に報告した1)。冠動脈のダイナミックCTでは,320列CTでテストインジェクションによる冠動脈のピーク時の撮影と,レトロスペクティブECGゲーティングによる拡張期のみの連続10フェーズの“boost scan”によって冠動脈の連続撮影を行う。これにPhyZiodynamicsを適用することで,低線量でかつノイズの少ない滑らかな動態画像を得ることができる。PhyZiodynamicsでは,元画像のフェーズ間を任意の断面で補完することで仮想的に時間分解能を向上する予測補完技術(図1),CTの逐次近似画像再構成技術とPhyZiodynamicsの予測補完技術を組み合わせたノイズ低減(図2),非剛体位置合わせ機能による息止め不良などのモーションアーチファクトを低減するモーションコレクション機能(図3)などによって,冠動脈のダイナミックCTAの視覚化が可能になった。

図1 PhyZiodynamicsの要素技術〜予測補完技術

図1 PhyZiodynamicsの要素技術〜予測補完技術

 

図2 PhyZiodynamicsの要素技術〜ノイズ低減

図2 PhyZiodynamicsの要素技術〜ノイズ低減

 

図3 PhyZiodynamicsの要素技術〜非剛体位置合わせ

図3 PhyZiodynamicsの要素技術〜非剛体位置合わせ

 

2.冠動脈フロー(flow)の定量化
PhyZiodynamicsの「4Dモーション解析」では,解析した4D画像上に球体の関心領域(Volume of Interest:VOI)を設定して,自動でVOIを追尾しながら連続で計測が可能である。これを用いて,冠動脈左前下行枝(LAD)末梢内腔にVOIを置き,連続する約10フェーズの拡張期のCT値を計測して時間濃度曲線を得ることができる。このLAD末梢の時間濃度曲線と,大動脈の時間濃度曲線をMaximum Slope法や畳み込み積分法を用いて解析することで冠動脈フローの定量化を行った(図4)。4Dモーション解析から求められたcoronary flow index(CT-CFI)について,アンモニアPETの心筋血流予備能(myocardial flow reserve:MFR)との比較検証を行ったところ,高い相関を示した2)

図4 4Dモーション解析による冠動脈フローの定量化

図4 4Dモーション解析による冠動脈フローの定量化

 

3.冠動脈フローによるINOCAの診断
INOCA(ischemia with no obstructive coronary arteries)は,冠動脈に有意狭窄が認められないが虚血症状を有する疾患群であり,循環器領域で注目されている疾患である。INOCAは通常の冠動脈疾患と同等のリスクがあり,予後も悪いと言われている。原因としては冠攣縮や微小循環障害が考えられ,それらをきちんと診断して適切な治療を行うことが求められる。INOCAの原因評価では,アセチルコリン負荷による冠攣縮誘発試験やアデノシンなどを用いた冠血流予備能(CFR)や微小血管抵抗指数(IMR)など,冠動脈造影による包括的な機能検査が行われる。冠攣縮の評価にはカテーテル検査が必須だが,微小循環障害の評価についてCTを用いた非侵襲的なアプローチが可能か検討を行った。
冠動脈に有意狭窄やプラークのない患者に対して,前述の冠動脈ダイナミックCTAを用いた冠動脈フローの計測を行ったところ,形態的に正常冠動脈であっても糖尿病や脂質異常がある患者では冠動脈のフローレートが有意に低下していた3)。糖尿病などでは血管内皮機能障害が起こることが報告されているが,INOCAの微小循環障害においてもアデノシンの反応低下や血管内皮機能障害が起こると言われており,それを反映しているものと思われた。
もう一つのアプローチが冠静脈のフローの定量化である。ダイナミックCTAでは,冠動脈だけでなく心筋から冠静脈に還る冠静脈洞(coronary sinus:CS)のフローの定量化も可能である。4Dモーション解析を用いてGCV(great cardiac vein)にVOIを置き,冠動脈から心筋を還流して右房に還るCSでのフロー(CSF)を計測した(図5)。大動脈の時間濃度曲線のピークの時間を始点として,CSの時間濃度曲線が増加し始めるタイミングとの差が心筋灌流末梢血管抵抗と相関すると考えて,その時間について検討を行った。冠動脈フローと同様にアンモニアPETのMFRとのバリデーションを行ったが,CSへの造影剤到達の遅延は,PETのMFRの低下と相関する結果が得られた。特にMFRでは2.0以上を正常として,2.0未満は予後不良とされているが,CSFの到達時間についても2.0未満の群では有意に遅延しており,これらのアプローチによってINOCA診断が可能になることが期待される。

図5 冠静脈洞(coronary sinus)フローの計測

図5 冠静脈洞(coronary sinus)フローの計測

 

4.CTストレイン解析
PhyZiodynamicsでもう一つ初期から取り組んできたのが,CTストレイン解析である。図6は,上下心室配列の修正大血管転位の症例でFontan術後の画像である。非常に複雑な形態の先天的な心奇形の症例だが,PhyZiodynamicsを使うことで2Dでも3Dでもストレイン解析が可能になる。この症例は,単心室でさまざまな心筋線維が混在しているが,動態解析によって単心室形態として同期性は保たれていることがわかる。PhyZiodynamicsを用いたCTストレイン解析については,2017年に田辺らから報告されている4)。修正大血管転位など成人の先天性心疾患の症例が多い当院では,心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy:CRT)でペースメーカーなどの補助デバイスが留置された患者が多く,MRIによる局所の機能解析を行うことが難しい。CTストレイン解析ではデバイスによるアーチファクトの影響を受けにくく,解析が可能になることがメリットである。

図6 PhyZiodynamicsによるCTストレイン解析

図6 PhyZiodynamicsによるCTストレイン解析

 

現 在

次に「現在」として,Ziostation REVORASを用いたstructural heart disease(SHD)のための4D-CTによる術前シミュレーションについて紹介する。
心臓弁膜症の有病率は,超高齢社会に伴い増加しており,TAVIやSHDに対するMitral Clipなど経皮的な人工弁置換術の施行件数も増えている。図7は,Mitral Clipの術前の4D-CTで,僧帽弁,大動脈弁,肺動脈弁の動きをとらえた画像だが,僧帽弁輪の下側に白く石灰化が描出されている。2D画像では弁尖と腱索が連動する動きがとらえられており,閉鎖不全を起こしていることがわかる。これらは,経皮的な弁置換術を行う循環器内科医にとって人工弁の留置位置の決定やクリップのサイズなどを決定するのに有用な情報となる。
当院では,2023年からファロー四徴症に対する経皮的肺動脈弁置換術(transcatheter pulmonary valve implantation:TPVI)を行っている。ファロー四徴症は,術後遠隔期に肺動脈弁逆流が起こり,長期的に右室肥大・右室拡大を来たして不整脈や突然死に至るリスクが高まると言われている。従来は,開胸による肺動脈弁置換術(pulmonary valve replacement:PVR)が行われていたが,今後はより侵襲性の低いTPVIの普及が進むと考えられる。TAVIやTPVIなど人工弁置換術のより安全な施行のためには,術前の正確な解剖学的情報の取得が必要であり,4D-CTは必須の検査となる。4D-CTは解剖学的情報に加えて機能情報の提供が可能であり,さらに4チャンバービュー,右室長軸像(RV-Long),短軸像(SA)といった複数の断面でストレイン解析が可能になる(図8)。
TPVIに使用する人工弁(Harmony)は,肺高血圧症や肺動脈弁狭窄が強い患者には使えないなどの使用制限がある。われわれはCTストレイン解析を用いて,術前に2D-CTで肺高血圧症の推測が可能かどうかの検討を行った。肺高血圧症の有無で4チャンバービューのストレインを比較したところ,肺高血圧症がある症例では右室の動きが悪くなっていることが定量的に評価できた。42名の検討では,肺高血圧症の有無で有意な差が認められた。特に,4チャンバービューのストレインを右室流出路(RVOT)の心筋ボリュームで補正したところ,非常に高い相関が認められ,ストレイン解析によって非侵襲的に肺高血圧症を診断できると考えられる5)

図7 Ziostation REVORASによるMitral Clipの4D-CT解析

図7 Ziostation REVORASによるMitral Clipの4D-CT解析

 

図8 TPVIのための4D-CT解析

図8 TPVIのための4D-CT解析

 

未 来

最後に,PhyZio/dynamics2.0を使った「未来」の動態解析について紹介する。
当院では,重篤な虚血性心筋症に対して人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作成したiPS心筋球を心筋壁に移植して心臓の機能回復をめざす再生医療を行っている。図9は,上段が移植前,下段が移植後6か月のシネMRIで,PhyZio/dynamics2.0で解析した結果である。下壁に梗塞があり,バイアビリティは保たれているものの,全体に動きが悪く心機能が非常に低下していたが,移植後は全体的にストレインが改善しており,ストレイン解析でもホットカラーが確認され,視覚的にもよく動いていることがわかる。
再生医療や遺伝子治療の治験では,治療効果を精度よく定量的に解析することが求められ,そのために心臓MRIが用いられることが多い。データの解析にPhyZio/dynamics2.0を用いることで,簡単な操作で短時間に解析が可能で,再現性も高く信頼度の高い結果が得られることから,今後,このような治験の解析に用いられることが期待される。さらに,MRIではさまざまなパラメータを用いたマルチパラメトリックによる評価が進んでいるが,CTでも同様に4D-CTやダイナミックCTによる複数の指標による評価が可能になる。4D-CTによるSHDの解析であれば,心室機能,ストレイン,バルブの開閉などMRIと同様の評価が可能になる。冠動脈疾患に対しては,フロー解析(CFI)やPhyZio
dynamicsを用いた冠動脈周囲脂肪組織(Fat attenuation index:FAI)の解析も可能になっており,これらを活用してINOCAやMINOCA(myocardial infarction with non-obstructive coronary arteries)の評価が進むことが期待される(図10)。
不整脈原性心筋症は,遺伝的要因を主因として右室の拡大,収縮能低下を来し,心室頻脈や心室細動などの致死性不整脈を合併する疾患である。PhyZio/dynamics2.0の3D-CTによる脂肪組織イメージングでは,不整脈基質と関連する脂肪組織を描出することで,右室型と左室型の脂肪分布の違いが確認でき,将来的な不整脈像を予測することが期待される。心筋症における遺伝子型と表現型の関係を解明するためには,画像診断の進歩が不可欠である。

図9 PhyZio/dynamics2.0によるiPS細胞を用いた再生医療の効果判定

図9 PhyZio/dynamics2.0によるiPS細胞を用いた再生医療の効果判定

 

図10 4D-CTによる循環器疾患のマルチパラメトリック解析

図10 4D-CTによる循環器疾患のマルチパラメトリック解析

 

まとめ

PhyZiodynamicsとREVORASは,最適な治療に導く動態解析と再現性が高く正確な自動解析によって,働き方改革が求められる医療現場にマッチした効率的なワークフローを提供する。それによって得られた時間的な余裕で,最先端の技術を活用した臨床に役立つカッティングエッジな情報を提供する“ミューズ”となることを期待したい。

●参考文献
1)  Nagao, M., et al., Eur. J. Radiol., 85(5), 996-1003, 2016.
2)  Matsuo, Y., et al. Br. J. Radiol., 94, 1127, 2021.
3)  Izoe, Y., et al., Int. J. Cardiol. Heart. Vasc., 42, 2022.
4)  Tanabe, Y., et al., Eur. Radiol., 27(4), 1667-1675, 2017.
5)  Shimomiya, Y., et al., RSNA, 2023.

 

長尾 充展(Nagao Michinobu)
1990年愛媛大学医学部卒業。98年同大学院医学研究科博士課程修了。同医学部附属病院,松山成人病センター,愛媛県立今治病院などを経て,2010年九州大学医学研究院分子イメージング診断学講座准教授。2016年から東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授。

 

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