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第31回日本心血管インターベンション治療学会学術集会(CVIT2023)が,2023年8月4日(金)〜6日(日)に福岡PayPayドーム,ヒルトン福岡シーホーク(福岡県福岡市)で開催された。学会共催のランチョンセミナー36「AS患者に対するTAVIのありかた~長期治療戦略を練る~」では,井口信雄氏(榊原記念病院)が座長を務め,田中 旬氏(三井記念病院循環器内科)と坂本知浩氏(済生会熊本病院心臓血管センター循環器内科)が講演した。

2023年10月号

AS患者に対するTAVIのありかた ~長期治療戦略を練る~

講演1:大動脈弁狭窄症の治療戦略 ~運動負荷心エコーの位置付け~

田中  旬(三井記念病院 循環器内科)

AS(大動脈弁狭窄症)患者に対するTAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)検討の際の負荷心エコーについて,薬剤(ドブタミン)負荷と運動負荷の適応について述べる。

TAVI検討症例に対する負荷心エコーの位置づけ

ドブタミン(DOB)負荷心エコーは,『循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン(2021年改訂版)』で左室駆出率(LVEF)の低下した低流量,低圧較差重症ASに対して,「偽性重症ASと真の重症ASの鑑別や収縮予備能評価のための低用量ドブタミン負荷心エコー図検査を考慮する」とされ,推奨クラスはⅡaとなっている1)
DOB負荷心エコーでは,DOBを5〜20μg/kg/minで3分ごとに増量する。それによって血行動態は,左室圧(left ventricle)は上昇し,大動脈圧(aorta)は下降し,圧較差(transvalvular pressure gradient)は上昇する。さまざまな負荷心エコー検査の種類と適応を見ると,DOB負荷心エコーは前負荷は上昇,後負荷は下降,収縮力は上昇させる。一方で,エルゴメーターなどの運動負荷はすべて上昇し,ハンドグリップでは後負荷のみが上昇する(図1)。これらの負荷心エコーの特性を把握した上で,検査の適応を判断することが重要となる。

図1 負荷心エコーの種類・適応のイメージ

図1 負荷心エコーの種類・適応のイメージ

 

薬剤負荷心エコー

DOB負荷心エコーによる重症ASの鑑別は,最大20μg/mL/kgの低用量DOBでpeak velocity>4m/s,またはmeanPG>40mmHg,左室収縮予備能はstroke volume>20%以上で真性となる。2003年に,左室収縮予備能が乏しい症例において外科的大動脈弁置換術(SAVR)後の予後不良との関連が報告されたことから2),その鑑別にDOB負荷心エコー検査が行われてきた。しかし,最近のデータでは左室収縮予備能の有無はASによる累積死亡率に影響を与えないとの報告があり3),DOB負荷心エコーの実施数は減少傾向にある。

〈症例提示〉
症例1は80歳代,男性。PCIおよび下肢の末梢血管形成術(EVT)の治療歴があり,COPD(GOLD2)で近医に通院中だったが,下腿蜂窩織炎を機に労作時息切れを認めるようになり鬱血性心不全と診断された。心エコー検査で左室収縮予備能低下,大動脈弁開放不良を認め,TAVIも含め治療方針検討目的で当院に紹介となった。CLINICAL FRAILTY SCALE(CFS)は3で健康管理され自立しているが,胸部X線画像,CT,呼吸機能検査では軽度のCOPDがあり,呼吸機能は混合性で肺機能の低下が認められた。心エコー検査では,左室拡張末期径(LVDd)/左室収縮末期径(LVDs)は62mm/52mmと拡大しており,LVEFは28%と低下していた。大動脈弁はARはmild,Vmaxは2.7m/sと低値で,GLSは−12.5%で内膜障害が認められた。三尖弁逆流(TR)はtrivial,三尖弁逆流圧較差(TRPG)は27mmHgであり,明らかな肺高血圧症(PH)はないと考えられた。当院では,多職種によるTAVIカンファレンスを行って適応の検討を行っているが,これらの検査結果を踏まえてDOB負荷心エコーによるAS重症度と収縮予備能の評価を行った。
DOB負荷心エコーでは,Vmax3.6m/s,stroke volume44%,駆出率(EF)35%→52%となり,ASは中等度(偽性)と診断された(図2)。2回目のTAVIカンファレンスでは,左室収縮予備能低下の原因が問題となったが,CAGで虚血は否定されており,少なからずASが影響していると考えられた。今後,COPDの増悪に対する治療が必要になる可能性も考慮し,ASの解除を目的にTAVIを施行した。
TAVI後の2年間の経過では,Vmax(m/s)は2.7から1.9,左室についてもDd(mm)/Ds(mm)/EF(%)は62/52/28から49/33/63と正常化した(図3)。GLSのブルズアイでは一部に内膜障害が残っているが,−18.8%で正常化しており臨床的には問題ないと考えられる。

図2 症例1のDOB負荷心エコー

図2 症例1のDOB負荷心エコー

 

図3 症例1のTAVI後の心エコー検査の経過(2年間)

図3 症例1のTAVI後の心エコー検査の経過(2年間)

 

運動負荷心エコー

運動負荷心エコーの適応は,「無症候性重症ASまたは有症候性中等症ASにおける,負荷時の症状・血行動態把握のため」とされ推奨クラスはⅡaである1)。エルゴメーターによる運動負荷心エコーの方法は,多段階法(3分間ごとに25W増加)で行う。通常は25Wからスタートするが,疾患やADLなどによって0W(空こぎ),10Wなどでの開始も考慮する。

〈症例提示〉
症例2は80歳代,男性。ASで近医に通院していたが労作時息切れとVmax上昇を認め当院に紹介となった。心エコー検査では,LVDd/LVDs/LVEFは43mm/26mm/65%と問題なく,ASのVmaxは3.7m/sと重症ではなく,僧帽弁逆流(MR)はやや多く,TRPGが36mmHgとPHの可能性が示唆された。
当院では,EFが保たれているが息切れがある症例(HFpEF)については,全例で「HFA-PEFF score」での評価を行っている。HFA-PEFF scoreは,欧州心臓病学会が作成したHFpEFの診断指標で,心エコーでの機能,形態の評価,バイオマーカーによる評価を行い,5ポイント以上でHFpEFと診断する。2〜4ポイントの場合,負荷心エコーを追加しTR velocityが3.4m/sを超えれば,Average E/e’の15以上と併せて3ポイントとなり合計5ポイントでHFpEFと診断される。
TAVIカンファレンスでは,Vmaxが3.7m/sあるにもかかわらず息切れが見られることから,息切れの精査を目的に運動負荷心エコー検査を実施した。負荷強度は30Wが限界だったが,TRPGが59mmHgまで上昇し運動誘発性PHと診断された。大動脈弁はVmax3.5m/sにとどまり,moderateASと考えられる。負荷心エコーでE/e’が15.1となり6ポイントでHFpEFと診断された。最大の問題は血圧で,最高212mmHgまで上昇し何らかの治療介入が必要と考えられた。この結果を受け,2回目のTAVIカンファレンスではTAVI介入は時期尚早であり,血圧のコントロールのためカルシウム拮抗剤を追加して,息切れの改善を確認し外来での経過観察となった。
半年後,再び労作時息切れが出現し,フォローアップの超音波検査ではVmaxが4.1m/sと上昇したため,運動負荷心エコーの再検となった。結果を図4に示す。2回目では,30W負荷でTRPGが72mmHg,Vmax4.8m/s,E/e’が16.6となり,前回同様にHFpEFとの診断となった。血圧は最高173でコントロールされていた。TAVIカンファレンスでは,前回よりもVmaxが悪化し症候性severeASと考えられ,TAVI施行方針となった。しかし,術後もHFpEFによる息切れは残存する可能性が考えられ,その点を含めて患者に説明の上,TAVIを施行した。
3か月後の外来の経胸壁心エコー検査では,労作時息切れは改善しており,AVについてはVmax2.5m/sと大きな問題はなかった。一方で,TRPGは34mmHg,E/e’も19.8,左房(LAVI)も大きくHFpEFは残っていた(図5)。しかし,これらは術前の想定の範囲内であり,TAVIの効果は出ておりASへの介入のタイミングはベストだったと考えている。

図4 症例2の運動負荷心エコー(2回目)

図4 症例2の運動負荷心エコー(2回目)

 

図5 症例2のTAVI 3か月後の経胸壁 心エコー検査(労作時息切れは改善)

図5 症例2のTAVI 3か月後の経胸壁
心エコー検査(労作時息切れは改善)

 

ASと心アミロイドーシス

ASの治療において,心アミロイドーシスの可能性は念頭に置くべきであり,心エコー検査においても全例でストレイン解析を行いGLSでapical sparingの確認は行っているが,それに加えてCTによるECV分画を行っている。遅延相の追加撮影を行うことで,「Ziostation2」(ザイオソフト社製)の「CT心筋ECV解析」によってECVの評価が容易に行えるため,こちらも可能なかぎり全例で実施している。

まとめ

高齢化に伴いTAVI症例も増加しているが,高齢のAS患者においては労作時息切れの背景には多くの疾患が合併していることが多い。運動負荷心エコー検査は,病態の把握に貢献でき,TAVI診療の質の向上に貢献できると考えている。

●参考文献
1)日本循環器学会, 他 : 2021年改訂版 循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン. 2021.
2)Monin, J.L., et al., Circulation, 108(3): 319-324, 2003.
3)Ribeiro, H.B., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 71(12): 1297-1308, 2018.

 

田中  旬

田中  旬(Tanaka Jun)
1998年獨協医科大学卒業。国立循環器病研究センター(旧・国立循環器病センター),東京都健康長寿医療センターなどを経て,2018年より三井記念病院循環器内科医長。2019年同科長,2023年8月より臨床検査部部長(兼任)。

 

 

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