Zio Vision 画像の本質を診る(ザイオソフト)
第82回日本医学放射線学会総会が,2023年4月13日(木)〜16日(日)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。学会共催ランチョンセミナー29「医用画像処理のnext stage 〜放射線科と執刀医の共通理解」(ザイオソフト株式会社)では,高瀬 圭氏(東北大学大学院医学系研究科放射線診断学分野)が座長を務め,原田耕平氏(札幌医科大学附属病院放射線部)と守瀬善一氏(藤田医科大学医学部岡崎医療センター外科学講座)が講演した。
2023年7月号
医用画像処理のnext stage 〜放射線科と執刀医の共通理解
講演2:外科医の立場から見た医用画像処理のnext stage ─腹腔鏡下肝切除術における有用性─ REVORASを用いた術前シミュレーション・術中ナビゲーションの実際
守瀬 善一(藤田医科大学医学部岡崎医療センター外科学講座)
腹腔鏡下肝切除術が低侵襲手術として一般化している中,ワークステーションを用いた医用画像処理による術前シミュレーション・術中ナビゲーションの重要性がより高まっている。本講演では,肝切除術について説明した上で,ザイオソフトのワークステーション「REVORAS」を用いて術前シミュレーション・術中ナビゲーションを行った症例を報告する。
腹腔鏡下肝切除術の利点と課題
肝臓は,横隔膜下腔のrib cage(肋骨の籠)に守られた臓器である。従来の開腹肝切除術では,右肋弓下を切開して肋弓を器械でつり上げてrib cageを開き,肝臓を後腹膜から剥離(授動脱転)して手で肝臓を取り出して手術を行う。腹側から腹腔内をのぞき込む形となるが,rib cageが開放されているため術野全体のオーバービューは良好であり,触覚で肝臓を確認しながら手術を行うことができる(図1 a)。
一方,腹腔鏡下肝切除術は,rib cageには触れずに,尾側から腹腔鏡と鉗子を進入させて肝臓を切除することで,肝臓および周囲組織へのダメージを抑え,低侵襲な手術が可能である(図1 b)。われわれは,2013年に腹腔鏡下肝切除術の尾側アプローチという概念を提唱し,翌2014年の腹腔鏡下肝切除術国際コンセンサス会議(ICCLLR)にてmain conceptual changeに認定された。腹腔鏡は拡大視により離断面の脈管など局所を詳細に観察できることもメリットであり,われわれは腹腔鏡下肝切除術をprecise surgeryとして確立することをめざしてきた。
肝切除は実質臓器切除であり,臓器内腫瘍や脈管構造の位置の同定が非常に重要である。しかし,腹腔鏡下肝切除術では,術野のオーバービューが得られない,触覚による知覚の低下,術中超音波の精度低下などにより,disorientation(腫瘍・脈管などの位置認識低下)に陥ることが課題であった。disorientationは,出血や胆道損傷などの合併症や不完全な手術につながる。そこで,disorientationを防ぐために重要性が非常に高まってきたのが,ワークステーションを用いた医用画像処理による術前シミュレーション・術中ナビゲーションである。
REVORASを用いた術前シミュレーション・術中ナビゲーションの実際
当院では,ザイオソフトの「REVORAS」による医用画像処理を用いて,術前シミュレーション,術中ナビゲーションを行っている。その実際について,症例を供覧して報告する。
1.虫垂癌術後肝転移:S8a切除
症例1は,74歳,男性,虫垂癌術後肝転移で,同時性転移化学療法後の症例である。腫瘍は小さく深部に位置することから,腫瘍だけをめざして手術を進めることが難しいため,右前区域頭側領域S8のventral(腹側)のグリソン枝をターゲットに手術を進める計画を立て,REVORASを用いて術前シミュレーションを行った。なお,REVORASで処理した画像では,グリソン鞘として門脈を描出している。
REVORASを用いた画像処理によりS8aの領域(図2の白いエリア)を解析し,このグリソン枝の根部を処理して領域の切除を行う手術を計画した。領域の切離ラインを頭側から観察すると,左側はCantlieライン(右葉と左葉の境界線)に重なる中肝静脈に沿っており(図2 a),右側は右肝静脈の頭側のライン(図2 b)に一致していることが確認できた。
尾側から観察すると,右のグリソン枝を肝表面上に投影したラインが尾側の切離ラインにほぼ一致する(図3 b)。また,S8c〔右前区域頭側のdorsal(背側)〕領域のグリソン枝を少し露出するように切除することで,腫瘍のマージンをしっかりと取れることを確認して(図3 a),手術に臨んだ。
手術では,術前シミュレーションを踏まえて,血管などをランドマークとして切離ラインを確認しながら手技を進めていく。手術室にはノートPCを持ち込み,REVORASの画像を手術ナビゲーションにも活用している。術前シミュレーション画像と比較しながら,術中超音波でグリソン枝などを確認してマーキング・切離を行うことで,計画通りに,かつ安全に手術を進めることができる。本症例は,S8aのグリソン枝を血管鉗子でクランプして阻血し,変色した阻血域が術前シミュレーションで予定した切離線と合致していることを確認,さらに術中超音波で腫瘍が内包されていることを確認してからS8aのグリソン枝の根部を処理し,S8cのグリソン枝がボトムに少し露出していることを確認して,手術を終了した。
2.肝細胞癌:拡大後区・右尾状葉切除
症例2は,73歳,女性,非アルコール性脂肪肝炎を原因とした肝硬変(NASH-LC)で,S7を主座としてS8およびS1rに広がる肝細胞癌(HCC)が発生した。腫瘍の周囲には,尾側に後区域グリソン枝,右下肝静脈,中央部背側に下大静脈,中央部腹側に前区域グリソン枝の背側,頭側に右肝静脈が走行して,腫瘍を取り巻いている状態であった。右のグリソン枝と右肝静脈を切断して右葉切除することが最もシンプルな方法であるが,本症例はNASH-LCで肝予備能が不良なため,拡大後区域切除の手術計画を立て,REVORASで処理した画像を用いて術前シミュレーションを行った。
尾側アプローチで尾側の実質を切開後に後区のグリソン枝(図4 a)と右下肝静脈(b)を切断する。下大静脈の表面(図5 a),前区域グリソン枝の背側(b)を露出するように肝離断を進め,腫瘍近傍で前区域グリソン枝から腫瘍の周囲へ走行する分枝を切断し(c),頭側の下大静脈へ戻って表面を露出し(d),最後に右肝静脈を切断(e)して肝離断する計画を立てた。実際の手術では,シミュレーション通りに手術を進めることができ,拡大後区・右尾状葉切除を完遂した。
3.肝切除後肝内再発:S4小範囲系統切除
肝切除の主な対象である転移性肝癌とHCCは,肝切除後に肝単独再発し,再肝切除となるケースが多い。再肝切除を開腹術で行う場合には,癒着を全剥離してから手術を開始していたが,腹腔鏡下手術では,術前シミュレーションをしっかりと行うことで剥離の範囲を縮小し,ターゲットエリアに直接進入して手術を行うことが可能になった。
症例3は,73歳,女性,C型肝炎ベースのHCCで肝切除(S3拡大亜区域)を実施し,その後,再発により27か月後に2回目(S5-6部分切除),50か月後に3回目(S7-1部分切除)の肝切除を行っており,73か月後にS4に3つのHCCを生じて4回目の肝切除となった。
術前シミュレーションでは,S4のグリソン枝4a,4bを切断して領域を切除すると,3つの腫瘍が内包されていることが確認できた(図6)。また,ボトムに4cのグリソン枝を露出することで,腫瘍のサージカルマージンを確保する計画を立てた。過去3回の手術で癒着があることから,左下腹部から進入して癒着を一部剥離することでワーキングスペースを確保することとした(図7)。
手術では,術前シミュレーション画像と対比しながら術中超音波でナビゲーションを行い,グリソン枝4a,4bの根部を同定した。そして,4a,4bの領域を阻血して離断線を確認後,改めてREVORASの画像と見比べながら術中超音波で切除領域に腫瘍が含まれていることを確認して肝離断を行った。
まとめ
低侵襲で局所を詳細に観察できる腹腔鏡下肝切除術のprecise surgeryというアドバンテージを生かすためには,disorientationの克服が必要である。REVORASによる医用画像処理を用いて術前シミュレーション・術中ナビゲーションを実施することでdisorientation を克服でき,precise surgeryが可能になることを症例を踏まえて報告した。
守瀬 善一(Morise Zenichi)
1987年 慶應義塾大学医学部卒業。米国ルイジアナ州立大学博士研究員などを経て,2010年より藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)教授,2020年開設の藤田医科大学岡崎医療センター病院長として初期立ち上げを担当し,開院直前にはダイヤモンド・プリンセス号のコロナ陽性患者受け入れを実施。
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