技術解説(シーメンスヘルスケア)

2024年6月号

Dual Energy CTの進化と深化

Dual energyイメージングの価値を最大化するartificial intelligence─Unlock the Potential of Dual Energy Imaging with AI powered workflow

藤原 知子[シーメンスヘルスケア(株)CT事業部]

今春からいよいよ医師の働き方改革がスタートしたことに伴い,医療従事者がより専門性を生かせるようなタスク・シフト/シェアの推進を本格的に検討される施設がある中で,それぞれの業務の質を担保した上での効率化について,さらなる関心が高まっている。CT検査業務に注目すると,近年では検査数の増加だけにとどまらず,検査自体の高度化が相まって,読影枚数の増加やポストプロセス業務の煩雑化など,現場の負荷は大きくなっている。また,検査の高度化については,その有効性が示されているにもかかわらず,なかなか普及していない検査が存在し,その代表例としてdual energyイメージング(DEI)の活用が挙げられる。本稿では,DEIに代表されるような先進技術をルーチン検査として普及させるべく,Siemens Healthineersが提供するartificial intelligence(AI)技術について紹介する。

臨床的な意思決定に基づく検査の進行をサポートする「myExam Companion」

2005年に初代Dual Source CT(DSCT)「SOMATOM Definition」が発表されてから,本格的な臨床導入が進んだDEIに関して,この20年で次々とその有用性が報告されている(図1)。被ばくの増加がなく,画質の劣化もなく付加情報を得られるという,一見ポジティブな要素しか見当たらない検査が爆発的に臨床で普及していないのは,実際の運用に当たっての煩雑さがボトルネックとなっているのではないかと考えられる。
Siemens Healthineersでは,撮影者の臨床的な意思決定を支援するAI技術としてmyExam Companion(myEC)を開発し,経験年数にかかわらず誰もが一貫したクオリティのCT検査を,効率的に遂行できるシステムを提供している。設定されたプロトコールを自らが選択するという従来の検査の進め方とは異なり,myECでは,臨床目的や施設の運用に基づいた質問事項に答えていく形で検査を進めていくことができる。質問に答えることで適切な撮影プロトコールを選択できるだけでなく,撮影後の自動化されたポストプロセス作業(MPR作成,各種パラメータ算出のための解析処理など)を紐付けておくことも可能であり,DEIのように,臨床的に有用な先進技術の煩雑な過程を排して,ルーチン化をサポートすることができる(図2)。実際,myECを活用して施設の運用に応じた質問事項を作成し,日常臨床のワークフローに組み込んだことで,撮影者の経験やスキルに依存せず,検査目的と患者の状態に応じて適切な撮影プロトコールを選択できるようになり,腹部造影検査におけるDEIの利用率が2.8%から64.4%に上昇したという報告がなされている1)
DEIと同様に,急性期脳梗塞の治療判断のための有効なCT検査(頭部CT灌流検査など)や指標(ASPECTS/ CBF/ Tmaxなど)が,さまざまなガイドラインで示唆されている2)一方で,実際に活用されている施設は限られている。myECを利用することで,AI技術にサポートされたASPECTSや頭部CT灌流画像の自動解析機能をワークフローに組み込むことができ,治療判断のための有用なデータをスムーズに活用できる。ASPECTSの自動解析では,スコアの結果も自動で表示され(図3 a),また,頭部CT灌流画像も自動で解析が実行されることで,解析者による動脈入力関数の関心領域設定のバラツキも改善され(図3 b),一貫した解析結果の取得につながる。24時間対応が必要な急性期脳梗塞治療に対して,CT専従の担当者がいないタイミングでも,誰でも同じクオリティの結果が出せることは,患者,検者それぞれに大きなメリットとなっている。

図1 Dual energy解析アプリケーション dual energy解析(DE解析)アプリケーションは,2-material decompositionと3-material decompositionの2つの物質弁別画像と仮想単⾊X線画像に⼤別でき,そのほか合成画像の作成も含めてさまざまな臨床⽤アプリケーションを提供している。

図1 Dual energy解析アプリケーション
dual energy解析(DE解析)アプリケーションは,2-material decompositionと3-material decompositionの2つの物質弁別画像と仮想単⾊X線画像に⼤別でき,そのほか合成画像の作成も含めてさまざまな臨床⽤アプリケーションを提供している。

 

図2 臨床的な意思決定に基づく検査の進行をサポートするmyEC myECは,エキスパートの思考に沿って施設の運用に応じたディシジョンツリーを設定していくつかの質問事項に回答することで,検査目的や患者の状態に応じた適切な撮影プロトコールを選択したり,自動化された後処理を紐付けることが可能となる。検査に不慣れなオペレータでも,質問に答えるだけでエキスパートと同様の運用を実現することができる。

図2 臨床的な意思決定に基づく検査の進行をサポートするmyEC
myECは,エキスパートの思考に沿って施設の運用に応じたディシジョンツリーを設定していくつかの質問事項に回答することで,検査目的や患者の状態に応じた適切な撮影プロトコールを選択したり,自動化された後処理を紐付けることが可能となる。検査に不慣れなオペレータでも,質問に答えるだけでエキスパートと同様の運用を実現することができる。

 

図3 急性期脳梗塞の治療判断指標となるパラメータの自動解析 a:ASPECTS:頭部単純CT画像から自動的にASPECTSを解析し,スコアの結果も表示される。 b:頭部CT灌流画像:頭部volume perfusionデータから,CBFやTmaxなどの解析パラメータ画像を自動作成できる。

図3 急性期脳梗塞の治療判断指標となるパラメータの自動解析
a:ASPECTS:頭部単純CT画像から自動的にASPECTSを解析し,スコアの結果も表示される。
b:頭部CT灌流画像:頭部volume perfusionデータから,CBFやTmaxなどの解析パラメータ画像を自動作成できる。

 

Zero-click post-processing:Rapid Results Technology

画像診断支援システム「syngo.via」は,サーバ側で処理を行うシンクライアント方式のシステムであり,読影端末などネットワーク環境にある端末において,いつでもどこからでもsyngo.viaに搭載されるさまざまな解析のアプリケーションにアクセスすることができる。syngo.viaにはマルチモダリティの読影に対応したさまざまな解析アプリケーションが用意されており,検査内容ごとに使用者による事前設定に従って解析作業を進行し,読影に必要な情報がバックグラウンドで自動的に処理される。そのため,使用者はアプリケーション選択などを意識することなく,患者を選択するだけで,効率良く読影を行うための最適な環境が整う。「Rapid Results Technology」は,ユーザーのマニュアル操作を介さない自動解析ワークフローであり,syngo.viaが事前にプリセットされたルール(解析アプリケーション,出力スライス厚/間隔,MPR処理など)に基づいて⾃動的にDE解析を実施し,その結果画像をPACSに送信する仕組みとなっている(図4)

図4 Rapid Results Technologyを利⽤した⾃動dual energy解析 Rapid Results Technologyでは,事前にプリセットされたルールに基づいてsyngo.viaが⾃動的にDE解析を実施し,その結果画像をPACSに送信する。このため,ユーザーのマニュアル操作を介さないワークフローが確立できる。

図4 Rapid Results Technologyを利⽤した⾃動dual energy解析
Rapid Results Technologyでは,事前にプリセットされたルールに基づいてsyngo.viaが⾃動的にDE解析を実施し,その結果画像をPACSに送信する。このため,ユーザーのマニュアル操作を介さないワークフローが確立できる。

 

Interactive evaluation:Spectral Post Processing

DEIによって得られるスペクトラル情報を一括してまとめた「Spectral Post Processing(SPP)」データフォーマットを採用したことで,読影者が必要なタイミングでSPPデータフォーマットを読み込むだけで,各種DE解析を自由に行うことができる。従来のとおり,ウインドウレベルなどはマウスコントロールで変更できるほか,スライス厚や仮想単色X線画像のエネルギーレベルに関しても,同viewingツール内で数値入力をするだけで簡単に変更することができ,観察中の同一断面に関する仮想単色X線画像/ヨードマップ画像/仮想単純画像などの切り替えも1クリックで可能である(図5)。さらに,SPPデータフォーマットの利用は,インタラクティブなDE解析を可能にするだけでなく,ストレージ容量の圧迫軽減にもつながる。

図5 SPPデータフォーマットを利用したインタラクティブなDE解析 DEIによって得られるスペクトラル情報を一括してまとめたSPPデータフォーマットを採用したことで,読影者が必要なタイミングでSPPデータフォーマットを読み込むだけで,各種DE解析を自由に行うことができる。

図5 SPPデータフォーマットを利用したインタラクティブなDE解析
DEIによって得られるスペクトラル情報を一括してまとめたSPPデータフォーマットを採用したことで,読影者が必要なタイミングでSPPデータフォーマットを読み込むだけで,各種DE解析を自由に行うことができる。

 

AIと共に歩む第5世代DSCT「SOMATOM Pro.Pulse」の登場

業務の効率化と同時に,撮影者のスキルレベルによらずクオリティの高い一貫性のあるCT検査の実現に対するニーズに応えるべく,Siemens Healthineersは,2024年2月に第5世代DSCT SOMATOM Pro.Pulseをリリースした(図6)。SOMATOM Pro.Pulseは2つのX線管が織りなす可能性を探究し,さらに深化,発展させるべく開発され
た。DSCTが最大の強みを発揮する心臓検査は新機能「ZeeFree」によって洗練され,また,SOMATOMシリーズのDSCTでは初めてmyECが搭載された。Siemens Healthineers独自のAIを活用した多種多様なポストプロセスの自動化技術を組み合わせることで,ルーチン検査からDEIに代表される先進技術まで,誰もが一貫して活用できるシステムへと進化を遂げている。
myECを搭載するSOMATOM Pro.Pulseでは,syngo.viaを介さずに装置側でDE解析を全自動化することもできる。事前に設定しておくことで,仮想単色X線画像やヨードマップ画像,仮想非造影画像などを作成するための解析プロセスが自動的に実施され,「ALPHA(Automatic Landmarking and Parsing of Human Anatomy)Technology」が患者の解剖構造やオリエンテーションを認識,検出し,事前に定義されたスライス厚とスライス間隔によるアキシャル画像やコロナル画像,サジタル画像が作成される。さらに,指定されたPACSなどの送信先に解析結果画像を自動送信することもできるため,通常検査と同様のワークフローでDEIを活用することができる。圧迫骨折疑いに対するDEIを例に説明すると,撮影後にmyECに紐付けた「DE Bone Marrow」解析が開始され,MRIの脂肪抑制画像で見られるような骨髄浮腫の描出が可能となり,解析結果は事前に定義されたスライス厚などの再構成条件に応じてアキシャル画像やコロナル画像,サジタル画像として自動的に出力され,指定されたPACSに自動送信されるため,臨床的な意思決定を支援する付加情報を迅速に提供することができる。

図6 AIと共に歩む,第5世代 Dual Source CT ZeeFreeがもたらす「より信頼性の高い心臓CT」,myEC搭載による「確実な臨床的意思決定のサポート」,ALPHA Technologyに基づくZero click post-processingによる「先進技術のルーチン化」を掲げて,2024年2月に第5世代 Dual Source CTが登場した。

図6 AIと共に歩む,第5世代 Dual Source CT
ZeeFreeがもたらす「より信頼性の高い心臓CT」,myEC搭載による「確実な臨床的意思決定のサポート」,ALPHA Technologyに基づくZero click post-processingによる「先進技術のルーチン化」を掲げて,2024年2月に第5世代 Dual Source CTが登場した。

 

ついに登場したSOMATOM Pro.Pulseは,CTシステムとして最先端を走りながら時代に適したCT検査を遂行すべく,いつでもだれでも一貫したクオリティで,再現性の高いCT検査の実現をめざしている。注目度の高いポイントの一つとして,緊急性の高い頭部検査に対する新たな自動解析機能「Brain Hemorrhage」「Brain SAH detection」「Hyperdensity」や「Skull unfolding」(図7)を提供している。今後,AIと共に歩む第5世代Dual Source CTとして,DSCTのさらなる真価を発揮していく。

図7 緊急性の高い頭部画像診断における新たな自動解析機能 a:Brain Hemorrhage,Brain SAH detection,Hyperdensity:頭蓋内出血やクモ膜下出血を疑う高吸収域を検出した際にアラートを通知する機能。高吸収域のボリューム計測も自動で定量する。 b:Skull unfolding:頭蓋骨を展開してMIP表示することで骨折部位や出血箇所の特定をサポートする。

図7 緊急性の高い頭部画像診断における新たな自動解析機能
a:Brain Hemorrhage,Brain SAH detection,Hyperdensity:頭蓋内出血やクモ膜下出血を疑う高吸収域を検出した際にアラートを通知する機能。高吸収域のボリューム計測も自動で定量する。
b:Skull unfolding:頭蓋骨を展開してMIP表示することで骨折部位や出血箇所の特定をサポートする。

 

●参考文献
1) Borges, A.P., et al. : Pros and Cons of Dual-Energy CT Systems : “One Does Not Fit All”. Tomography, 9(1): 195-216, 2023.
2) 日本脳卒中学会, 日本脳神経外科学会, 日本脳神経血管内治療学会 : 経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版. 2020.

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