技術解説(シーメンスヘルスケア)

2024年4月

腹部領域における核医学装置の最前線

腹部領域における最新PET/CT技術

堀次 元気[シーメンスヘルスケア(株)分子イメージング事業部]

本稿では,腹部領域におけるPET/CT画像診断におけるSiemens Healthineersの技術の活用について紹介する。

■Whole-body Dynamic PET

18F-FDG-PET検査は,18F-FDG投与の約60分後から全身を撮像し,この時点における一つの静止画像を取得する。Siemens HealthineersのPET/CT装置では,速度可変型連続寝台移動「FlowMotion」を用いることで,全身を連続で複数回撮像し,全身動態画像を収集するWhole-body Dynamic(WBD) PET撮像が可能である。WBD PETでは,検査時間を延長することなく動態画像を得ることができるだけでなく,加算サイノグラムから画像再構成を実施し,一つの全身静止画像を作成することも可能である。WBD PETはルーチンの診療にも用いられており,その有用性は多く報告されている。Nishimuraらは,WBD PETで視覚的に集積形状の変化を評価することで,尿路および消化管における生理的集積と病的集積を区別することが可能と報告している1)。Kotaniらは,WBD PETは,大腸領域の集積形状の変化に基づき生理的集積と病的集積を鑑別することが可能であり,early-delayed撮像よりも高い診断価値を提供する可能性があると報告している2)。Watanabeらは,18F-FDG投与60分後から4相のWBD PETを実施し,1相目と4相目のSUVmaxの比を評価することで,肝臓,リンパ節,肺,骨における悪性病変の検出精度が向上したと報告している3)。Katoらは,WBD PETを実施し,重心移動距離を解析することで,下腹部領域における大腸の病的・生理的集積の鑑別に有用であり,不必要な追加delayed撮像を省略できる可能性があると報告している4)。WBD PETを行うことで,従来の静止画像では得られなかった動きの情報を活用し,より精度の高い診断を提供できる可能性がある(図1)。

図1 WBD PETが有用であった症例

図1 WBD PETが有用であった症例
S状結腸がんによる狭窄のため()内視鏡が上行結腸まで挿入できなかった症例において,WBD PET画像から,上行結腸の集積()が生理的ではなく病変であることがわかる。
(画像提供:市立青梅総合医療センター様)

 

■Parametric PETイメージング

前述のWBD PETを活用することで,parametric PETイメージングを行うことが可能である。parametric PETイメージングでは,Patlakモデルに基づいた解析を行うことで,従来のSUV画像だけでなく,metabolic rate (MRFDG)画像やdistribution volume (DVFDG)画像を一度に得ることができる。外部ソフトウエアによる処理は必要なく,通常の画像再構成と同様にコンソール上で実施することが可能である。さらに,rawデータからのダイレクト再構成を採用しているため,ノイズが少なくSNRの良いparametric画像を得ることができる。近年,全身parametric PETイメージングに関する研究が世界中で実施されている。Diasらは,被験者126人のデータを用い,糖尿病とそうでないグループにおける各臓器のSUVmean,SUVmax,MRFDG,DVFDG正常値を報告している5)。Tondaらは,parametric PETイメージングを用いて肝臓の糖代謝はさまざまな患者特性因子に影響されることを示し,parametric PETイメージングを日常臨
床における肝臓糖代謝動態の解析に使用できると報告している6)。今後,さらにparametric PETイメージングの研究が進むことで,より精度の高い診断を提供できる可能性がある。

●参考文献
1) Nishimura, M., Tamaki, N., Matsushima, S., et al. : Dynamic whole-body 18F-FDG PET for differentiating abnormal lesions from physiological uptake. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 47(10): 2293-2300, 2020.
2) Kotani, T., Nishimura, M., Tamaki, N., et al. : Comparison between dynamic whole-body FDG-PET and early-delayed imaging for the assessment of motion in focal uptake in colorectal area. Ann. Nucl. Med., 35(12): 1305-1311, 2021.
3) Watanabe, M., Kato, H., Katayama, D., et
al. : Semiquantitative analysis using whole-body dynamic F-18 fluoro-2-deoxy-glucose-positron emission tomography to differentiate between benign and malignant lesions. Ann. Nucl. Med., 36(11): 951-963, 2022.
4) Kato, T., Ichikawa, H., Shibutani, T., et al. :
A novel objective method for discriminating pathological and physiological colorectal uptake in the lower abdominal region using whole-body dynamic 18F-FDG-PET. Ann. Nucl. Med., 37(10): 561-571, 2023.
5) Dias, A.H., Hansen, A.K., Munk, O.L., et al. :
Normal values for 18F-FDG uptake in organs and tissues measured by dynamic whole body multiparametric FDG PET in 126 patients. EJNMMI Res., 12(1): 15, 2022.
6) Tonda, K., Iwabuchi, Y., Shiga, T., et al. : Impact of patient characteristic factors on the dynamics of liver glucose metabolism : Evaluation of multiparametric imaging with dynamic whole-body 18F-fluorodeoxyglucose-positron emission tomography. Diabetes Obes. Metab., 25(12): 3521-3528, 2023.

 

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TEL 03-3493-7500
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