技術解説(シーメンスヘルスケア)

2024年3月号

腹部領域におけるMRI技術の最前線

「GRASP」による自由呼吸下腹部ダイナミック検査とその応用

須田まなみ[シーメンスヘルスケア(株)ダイアグノスティックイメージング事業本部MR事業部]

本稿では,ダイナミック検査における先進的な技術である「GRASP(Golden-angle RAdial Sparse Parallel MRI)」の特徴とその臨床応用について解説する。

■GRASPとは

GRASPは,ラジアルサンプリングと圧縮センシングによる画像再構成を用いた撮像技術である。腹部,特に肝臓のダイナミック撮像においては,従来,息止めを繰り返しながらスキャンを行う。一方,GRASPでは,造影剤投与前から後期相までを自由呼吸下で連続データとして撮像することができるため,ワンクリックでダイナミック撮像を完了できる。さらに,「Auto Bolus Detection」により造影タイミングを自動認識し,適切な動脈相の画像を再構成することができる。実際に,GRASPを用いて肝臓のダイナミック撮像を行った画像が図1である。自由呼吸下においても高分解能かつ安定した画像を得られていることがわかる。

図1 GRASPを用いた肝臓ダイナミック撮像 (画像ご提供:大阪府済生会吹田病院様)

図1 GRASPを用いた肝臓ダイナミック撮像
(画像ご提供:大阪府済生会吹田病院様)

 

■データ収集と画像再構成

GRASPのデータ収集には,Golden-angleを用いたラジアルサンプリングが使われている。ラジアルサンプリングでは,データ収集をk-space上で放射状に行うことで,画像コントラストに影響するk-space中心の低周波領域で重点的なデータ収集が行われる。これによりモーションアーチファクトの影響を受けづらくなっており,自由呼吸下での撮像を可能にしている。また,スポーク同士の間隔をGolden-angleと呼ばれる111.25°にしてデータを埋めていくことで,同じ位置にデータを上書きすることなく,データ収集が増えるほどk-spaceを密に埋めることができる。さらに,「Liver Gating」を併用することで,画像再構成に呼気のデータのみを使用することができ,呼吸性アーチファクトの影響を最小限にすることもできる。
GRASPの画像再構成には圧縮センシングが用いられている。圧縮センシングはデータ圧縮技術の一つであり,圧縮されたデータから本来の画像へと復元する再構成技術である。MRIにおいては,データ収集の回数を減らすことができるため,撮像時間を短縮することができる。画像の復元にはデータにゼロ成分が多く含まれる性質であるスパース性と収集のランダム性が重要であるが,3Dかつダイナミック撮像を対象とするGRASPはデータ量が多く,ランダム性を確保しやすい。結果的に,GRASPでは最大約40倍速という高速撮像を可能にしている。また,圧縮センシングを用いることで,k-spaceの任意のタイムポイントで,任意の数のスポークを選んで画像を再構成することができる。これは図2のように,後処理にてタイムポイントや時間分解能を設定できることを意味し,より適切な画像での評価を可能にする。

図2 GRASPの画像再構成

図2 GRASPの画像再構成

 

■臨床応用

GRASPには撮像部位や使用コイルの制限はなく,呼吸性以外のモーションアーチファクト低減にも効果を発揮する。そのため,動きの影響が大きい女性骨盤や前立腺,膀胱などの撮像にも応用ができる。実際に,GRASPを用いて膀胱のダイナミック撮像をした画像が図3である。GRASPを使用することで,動きの影響を抑えながら4秒という高時間分解能かつ高分解能な画像が得られており,MPRも可能である。また,ラジアルサンプリングの特徴から各データの位置ズレが少ないため,血管像としても使用することができる。このように,GRASPは腹部ダイナミック検査に限らず,全身のさまざまな部位や検査へ適用できるシーケンスであり,今後のさらなる臨床応用が期待される。

図3 GRASPを用いた膀胱ダイナミック撮像 (画像ご提供:東京医科大学病院様)

図3 GRASPを用いた膀胱ダイナミック撮像
(画像ご提供:東京医科大学病院様)

 

 

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