技術解説(シーメンスヘルスケア)

2023年4月号

Cardiac Imaging 2023 ITのCutting edge

AI技術を活用した画像診断支援ソフトウエアの最新情報─AI-Rad Companion

高木 寛和[シーメンスヘルスケア(株)Digital&Automation事業部]

全世界的に医療のデジタル化,人工知能(AI)技術の医療での応用が急速に進む中,日本国内でも2020年からAI技術を応用した画像診断,治療支援のソフトウエアが臨床現場に提供開始されている。
Siemens Healthineersでは,AI技術を活用したクラウド型画像診断支援のプラットフォームとして,「AI-Rad Companion(AIRC)」の提供を行っている。AIRCの薬事承認を2020年6月に取得して以降,2023年2月時点において,胸部CT画像AI診断支援「Chest CT」,前立腺MR画像診断支援「Prostate MR for Biopsy」,頭部MRI画像診断支援「Brain MR」,放射線治療計画における各臓器の輪郭抽出支援「Organ RT」の4つのシリーズを展開し,すでに10の機能が使用可能である。
さらに,製品の拡充と並行し,提供方法も日々アップグレードさせており,これまでのクラウドのみでの提供から,サーバタイプのオンプレミスとクラウドを掛け合わせて使用可能なハイブリット型での提供も可能となった。ハイブリッド型の大きなメリットとして,クラウド経由でedge device上のソフトウエアが常時アップデートされるため,最新の機能やアルゴリズムを迅速に使用いただくことができる。
本稿では,胸部CT画像AI解析ソフトウエアであるChest CTについて,アプリケーションの最新のアップデート機能とともに紹介する。

■基本機能

マルチベンダー対応,マルチオーガンアプローチが可能なChest CTは,1つの胸部CT画像から,肺,心臓,大動脈,胸椎骨の複数の部位の計測・定量化を行うことができる(図1)。
肺においては,肺結節検出および肺実質の計測・表示を行い,肺結節の2D/3Dの直径の計測および体積の自動計測を実施する。肺実質の計測では,CT値−950HU以下の部位を自動的に色付けし,体積の自動計測および5つの肺葉(右上葉,右中葉,右下葉,左上葉,左下葉)ごとの割合の自動算出を行う。心臓では,心臓全体の体積と冠動脈石灰化の抽出および石灰化部位の全体の体積の自動計測を行う。大動脈では,アメリカ心臓協会(American Heart Association:AHA)のガイドラインに従い,9か所を自動抽出した上で,9か所の直径の自動計測を行う。胸椎骨では,T1〜T12の12か所の椎骨を自動セグメンテーションした上で,各椎骨の前面,中央,後方の3か所の高さの自動計測を実施し,併せて各椎骨の平均HU値の算出を行う。
CT撮影終了後,自動的に画像送信を行い,各臓器のセグメンテーション,検出,計測をすべて自動的に実施し,結果を自動返送するため,医師だけでなく診療放射線技師についても,追加の作業を行うことなく使用できる。実際に使用した医師からは,読影業務の効率化・質の向上に加え,結果に一貫性があり,標準化に貢献するとの評価をいただいている。また,読影業務の効率化の面では,2022年4月に医療機器一部変更承認を取得したことによりChest CTの肺結節検出機能の最新バージョンが搭載され,これまでの「セカンドリーダー型」に加えて,新たに「コンカレントリーダー型」の使用が可能となり,さらなるワークフローの改善が期待されている(図2)。肺がんが疑われる肺結節検出のための,AI技術を活用した医療機器プログラムとして,コンカレントリーダー型での使用方法が承認された初めての事例である*1
読影業務改善の観点では,複雑な肺疾患を対象とした研究1)において,Chest CTを使用しない場合,肺結節の平均読影時間が2分44秒±54秒であったのに対して,Chest CTを使った評価では,平均読影時間は36秒となり,78%もの大幅な時間短縮ができたとの報告がされている。また,放射線科専門医からは,すべての症例について,肺結節検出の自信が高まったとの報告がある。

図1 Chest CTの解析結果の概要

図1 Chest CTの解析結果の概要

 

図2 画像診断支援AIの支援形式の比較

図2 画像診断支援AIの支援形式の比較

 

■循環器領域での有用性

心臓領域では,心臓の体積計測および冠動脈石灰化部位の抽出・体積計測と,ユーザー定義の閾値に基づく重症度分類が実施される。van Assenら2)の研究では,Chest CTによってセグメンテーション/計測された冠動脈石灰化部分の体積とAgatstonスコアとの間に相関係数r=0.921(p<0.001)の高い相関が認められ,Chest CTは70%の症例をAgatston分類と同様に分類し,Agatstonスコア1以上の症例を感度91%,特異度92%の精度で検出したと示されている。すなわち,心臓CT検査の代替検査手法の可能性が示唆されている。日本国内の施設でも,Agatstonスコアとの高い相関を評価した後に,AIRCの解析結果で得られる閾値に基づく重症度分類の情報を,冠動脈CT検査を行う前の精査として活用している。
大動脈の解析は,AHAガイドラインなどの学会基準に従った9か所の大動脈径計測が実施される。Rueckelら3)は,造影CT撮影を経た大動脈瘤を持つ18症例を対象とした後ろ向き研究において,手動による大動脈径計測結果と,Chest CTのプロトタイプで自動的に計測された大動脈径計測結果を比較した。その結果,AI支援を利用した場合*2,平均レポート時間が63%(13分1秒から4分46秒に)減少したとの報告がある。
さらに,読影レポートの時間短縮だけでなく,日本の読影医からは,「AIRCが自動的にセグメンテーションし,既定の部位で測定されることで,再現性の高い結果が得られ,より正確な経過観察ができる」との評価をいただいている。

■最新機能

Chest CTの追加機能として,2022年12月1日に「Lung Lesion Follow-up」という,過去の肺結節データと比較する機能の認証を取得した。この機能は,同一患者の過去のデータがある場合,最新の胸部CT画像をChest CTへ送信すると,自動で過去の肺結節データと比較し,サイズの拡大,縮小の程度を表示する(図3)。さらに,同一の肺結節拡大の進行状況であれば,何日で肺結節サイズが2倍になるかを示す「Doubling time」が表示される。この機能により,使用した医師からは,今までよりもさらに過去比較が簡便となり,読影時間の短縮および読影負荷の軽減が行われるとの評価をいただいている。特に肺結節の過去比較においては,数が多い場合にはフォローするのに非常に多くの時間と労力を伴うため,自動で比較する機能は直接的に読影の支援になるとの評価をいただいている。
さらに,大動脈の解析についても2023年に機能が追加されている。大動脈解析では,AHAガイドラインなどの学会基準に従った9か所に加え,上行大動脈と下行大動脈それぞれの最大径を計測する。今までの固定された位置に加え,上行大動脈と下行大動脈それぞれの最大径を抽出することで,より大動脈瘤の評価およびフォローアップを簡便にすることが考えられる。
このように,AIRCは日々顧客のニーズに合わせて新機能を研究開発し,さらにバージョンアップにて追加を行っている。AIRCはクラウドベースのソリューションであり,新機能が追加された場合には国内すべての施設で即日使用可能となっている。常にバージョンアップを行い,最新の機能をお使いいただけることもAIRCのメリットの一つである。

図3 Lung Lesion Follow-up

図3 Lung Lesion Follow-up

 

AIRCとして承認・認証を得てから2年半で,Chest CT以外にも脳の変性疾患や脱髄疾患での脳の萎縮性変化の評価支援に用いられる「Brain MR」,前立腺の生検支援のための「Prostate MR for Biopsy」,放射線治療計画のための臓器の輪郭抽出を自動化する「Organs RT」がAIRCのプラットフォーム上に加わり,さらに,各ソフトウエアの機能追加が行われてきた。当社では,今後もさらなるソフトウエアの拡充,既存製品の機能強化およびアルゴリズム改良により,放射線診断医をはじめ,各診療科の医師の診断および治療支援のための製品提供を進めていく。

*1 胸部CT画像から肺結節を検出する医療機器として,使用方法に「コンカレントリーダー型」を含む読影診断支援ソフトウエアは,2022年4月末現在「AI-Rad Companion Chest CT」のみとなります(自社調べ)。
*2 プロトタイプの自動計測結果を手動で修正した時間も含みます。

●参考文献
1)Abadia, A.F., Yacoub, B., Stringer, N., et al. : Diagnostic Accuracy and Performance of Artificial Intelligence in Detecting Lung Nodules in Patients With Complex Lung Disease : A Noninferiority Study. J. Thorac. Imaging, 37(3): 154-161, 2022.
2)van Assen, M., Martin, S.S., Varga-Szemes, A., et al. : Automatic coronary calcium scoring in chest CT using a deep neural network in direct comparison with non-contrast cardiac CT : A validation study. Eur. J. Radiol., 134 : 109428, 2021.
3)Rueckel, J., Reidler, P., Fink, N., et al. : Artificial intelligence assistance improves reporting efficiency of thoracic aortic aneurysm CT follow-up. Eur. J. Radiol., 134 : 109424, 2021.

 

●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1
ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL:03-3493-7500
https://www.siemens-healthineers.com/jp/

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