技術解説(シーメンスヘルスケア)

2018年11月号

Nuclear Medicine Today 2018

次世代PET・CT装置「Biograph Vision」

清水 威志(シーメンスヘルスケア(株)ダイアグノスティックイメージング事業本部分子イメージング事業部)

2018年の秋,Siemens Healthineersは,日本において次世代PET・CT装置「Biograph Vision」(図1)を発表した。その開発においては,受光素子,体軸方向視野,検出器の開口径,シンチレータの寸法,シンチレータ厚,また検出器ブロックの配線など,PETの性能にかかわるすべての機能が設計から抜本的に見直された。研究段階では,1512通りのシステムの組み合わせが検討され,最も優れた性能を発揮するデザインが採用された。

図1 Biograph Vision PET・CT装置

図1 Biograph Vision PET・CT装置

 

■長年培ったPET半導体検出器技術

Siemens Healthineersでは,2012年にMRIによる静磁場の影響を受けない光電効果デバイスとして,アバランシェフォトダイオード(APD)に基づくPET検出器を搭載した統合型全身MR-PET装置 「Biograph mMR」を発表し,半導体受光素子を用いたPET検出器の研究を重ねてきた。今回発表されたBiograph Visionでは,現行型光電子増倍管(以下,PMT)に代わり,シリコン光電子増倍素子(以下,SiPM)に基づく検出器が用いられている。SiPMは,ゲインがPMTと同様に高く,時間応答が速いため,それのみでtime-of-flight(以下,ToF)が高性能化されることによって感度が向上する。

■高分解能で高感度

さらに,Biograph Visionではより空間分解能を高めるため,LSOシンチレータの小型化が図られた。シンチレータの長径に関する検討では,20mmで光の阻止能,時間分解能が最適化されていることがわかり,結果として3.2mm×3.2mm×20mmのデザインが採用された。 これらのきわめて小型のシンチレータは5×5配列のミニブロックを形成し,そのミニブロックの100%全面が受光素子であるSiPMに接合し,検出された光子はそれに隣接する電子回路によって電気信号に変換される仕組みとなっている。つまり,SiPMは電極などで受光面積が遮られておらず,検出器内のそれぞれのパーツはシンチレーション,受光,電子変換と専属の役割を効率良く果たすため,最大限の光電効果が発揮できる。さらに,電子回路は水冷により効率良く冷却できるため,電子回路の発熱によってSiPMの受光性能が損なわれることを避けた設計となっている。図2に見られるように,検出器全体が大幅に小型化された結果,電子回路が従来の機種よりも3倍以上に増え,通常高投与量で撮像される82Rbや15Oなどの高計数率の検査でも不感時間が大幅に減少した。総合的に,Biograph VisionはToF による時間分解能214psを達成した。
「Biograph mCT」のデザインを継承したガントリは,一般的な70cmのボア径に比べて24%広い,78cmの大開口径を有している。このため,被検者の閉所不安障害を軽減し,さらに放射線治療計画との連携で有用である。装置の設置条件は,Biograph mCTとまったく同じであり,設置面積や配管などの追加工事の必要がない。

図2 PMTを使用した検出器ブロックとSiPMを使用した検出器ブロックの比較

図2 PMTを使用した検出器ブロックと
SiPMを使用した検出器ブロックの比較

 

■ファントムによる2.4mm小球の描出能

図3にMini-Derenzoファントムの小球の描出の比較例を示す。2.4mm球の描出においては,4mmシンチレータの検出器では球の識別が困難であるが,Biograph Visionにおいては明確に描出できており,実質的な空間分解能の改善が見られる。

図3 Mini-Derenzoファントムを用いたBiograph Visionによる検出能の検討

図3 Mini-Derenzoファントムを用いたBiograph Visionによる検出能の検討

 

■臨床での応用

単純に高感度撮像を行うこと自体は,長時間撮像をすることと変わらないため,空間分解能は改善しない。Biograph Visionでは,システム全体の改良の結果得られた実効感度の向上を,空間分解能の飛躍的な向上のために応用することに成功した。実際,Biograph Visionは,解剖学的な描出に優れており,右心室,上行大動脈などでの血管壁の集積が明瞭になった。Biograph Visionでは,検査時間の短縮,スループットの向上,低投与量による被検者の被ばくの低減のみならず,今までPET・CT の有用性が明示されていなかった炎症,前立腺,乳腺における病変の検出や特性化におけるPETの有用性の検討が期待できる。

 

【問い合わせ先】
コミュニケーション部
TEL 0120-041-387
URL https://www.siemens-healthineers.com/jp/

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