Intelligent CT:SOMATOM X.cite Exciting Report(2021年11月号)

2021年11月号

What’s Intelligent CT?

AIを用いて開発した最新技術を搭載したIntelligent CT 「SOMATOM X.cite」

「SOMATOM X.cite(ゾマトム エキサイト)」は,従来,Dual Source CT 「SOMATOM Force」にのみ搭載されていた大出力X線管「Vectron」や,超低被ばくCT撮影を可能にする“Tin filter technology”,電気ノイズを低減して低被ばく化・高画質化を実現するフルデジタル検出器「StellarInfinity Detector」,取り外し可能でどこからでも検査にかかわる一連の操作をタブレット端末で行える“Mobile Workflow”など,Siemens Healthineersが提供するCT技術の粋を集めた最新Single Source CTです。これらの機能を最大限に活用いただくために,AIを用いて開発された機能が“myExam Companion(マイイグザム コンパニオン)”です。熟練したオペレータのように,患者情報に合わせた最適な検査を提案し,患者の解剖学的体位に基づいた最適な解析画像を自動で作成することを可能にし,一貫性のある結果を提供します。

myExam Companion

AIを用いて開発した自動化システムの開発背景には,近年のCT装置における技術の高まりに伴い実施可能となった多様な撮影法による検査の複雑化があります。70kVから管電圧を10kV間隔でコントロールし,検査目的や患者背景に応じて個別化されたCT検査を実現する「低管電圧撮影」,スクリーニングやフォローアップ検査における「超低線量撮影」,従来のCT検査では得られなかった機能情報が得られる「Dual Energy撮影」など,precision medicine(個別化医療=テーラーメード医療)に貢献するさまざまな技術をフル活用いただくためには,読影医や診療放射線技師の皆様に,常に新しい技術,情報についてアップデートしていただかなくてはならない状況です。しかし,日々の業務の合間に技術や情報をアップデートし続けることはたやすくないと思います。そこで,さまざまな技術をオペレータの経験値にかかわらず使用でき,患者ごとに最適な検査ワークフローを提供することを目的としてmyExam Companionは開発されました。さまざまな人がCT装置を扱うかぎりどうしても検査結果のバラツキ,検査時間の延長などが起こり得ます。myExam Companionを活用することで,自動化できる分野は「システム」に任せ,最終的な判断や患者に対するケアに「人」が集中することで,CT装置の技術を最大限活用すると同時に検査の効率化が可能になります。
myExam Companionの開発プロセスは,18万ものスキャンプロトコルをAIで解析し,その結果を臨床の専門家が評価することで,CT検査における複雑な撮影条件設定や画像再構成条件設定などのオペレータの意思決定を支援するための20以上の決定木(decision tree)を構築しています(図1)。オペレータは,タブレット端末または本体コンソールに表示される簡単な質問に答えることで,AIでトレーニングされた臨床的な決定木に基づいて最適なスキャンプロトコルが自動的に設定され,撮影条件と画像再構成タスクを最適化することができます。

図1 myExam Companionの開発プロセス 18万ものスキャンプロトコルからAIと専門家の解析によって,20以上の臨床的な決定木を構築。

図1 myExam Companionの開発プロセス
18万ものスキャンプロトコルからAIと専門家の解析によって,20以上の臨床的な決定木を構築。

 

SOMATOM CTに搭載された多彩な自動化技術

myExam Companionは,撮影準備,撮影中,撮影後の画像作成,すべての工程に適応される技術を統合するシステムであり,各フェーズにおいてさまざまなAIを用いて開発した技術を組み合わせて活用することで,一貫性のある検査が可能となります。
撮影準備段階では,AIを用いて開発された「FAST 3D Camera」を活用することで,誰でも簡単に,精度高く自動ポジショニングを行うことができます(図2)。FAST 3D Cameraは,寝台の上部にあるカメラから患者の形状,位置,高さ情報を三次元データとして取得します。また,赤外線測定データを同時に取得し,ディープラーニングを利用して開発された技術によって,人と比較して誤差やバラツキが少なく,頭部,胸部,腹部領域などでは平均数mmの誤差で,正確な患者ポジショニングが可能となっています1)。撮影段階では,“FAST Planning”が位置決め画像を解剖学的に自動認識し,患者個々に適切な撮影範囲を提示します。また,“Check&Go”が体外金属の有無を自動判別して,撮影前に取り外し忘れを防ぐことで,画像クオリティを保ちつつアーチファクトなどを極力抑えるよう,オペレータをアシストします。撮影後の画像再構成段階では,“ALPHA (Automatic Landmarking and Parsing of Human Anatomy) Technology”が患者個々の解剖学的なランドマークを認識し,自動で頭部OM(orbitomeatal)ラインや股関節などの軸位に沿うような角度に調整してMPR画像を作成します(図3)。ALPHA Technologyは,数百のサンプル画像データを基に専門家が必要とする解剖学的ランドマークとそれを囲む関心領域から画像パターンを検出するトレーニング(機械学習)を行い,多くの解剖学的部位をデータベース化しています2),3)図4)。トレーニングから得られたデータベースを使用することで,新規に撮影されたCT画像に対して解剖学的なランドマークを自動検出し,当該部位の軸位に沿った角度に自動調整された画像を作成できます。Investigative RadiologyにてNishiiらは,ALPHA Technologyを使用することで,781例の頭部CT画像のうち99.7%でOMラインに自動角度調整したaxial画像が正確に得られ,かつ画像作成までの時間はCTスペシャリストである技師と比較して4倍,1年目の技師と比較して8倍速かったと報告しています4)。ALPHA Technologyを用いることで,誰もが簡単に解剖学的な角度に調整された画像を短時間で得ることができます。
多彩な自動化技術によって最適化・効率化されたワークフローは,さまざまな診断領域に適応できます。心臓CT検査を一例に考えると,患者ポジショニングをFAST 3D Cameraが自動調整し,myExam Companionが自動的に心拍データを解析し,心拍に応じて最適な撮影プロトコルを選択します(図5)。心電図同期の単純CT撮影終了後にはカルシウムスコアリングが自動解析され,心電図同期の造影CT撮影後には冠動脈3枝のCPRやVR,MIP画像が自動作成されます。また,急性期脳梗塞では,rt-PA療法や機械的血栓回収療法を迅速に行うことが機能予後の改善につながるため,画像診断においては,限られた時間の中でも再現性良く一貫したクオリティを担保することが,適切な治療方針の決定に不可欠です。myExam Companionを使用した頭部のCT検査では,国内の経皮経管的脳血栓回収用機器の適正使用指針5)で血管内治療を行うかどうかの1つの判断基準とされるASPECTS(Alberta Stroke Program Early CT Score)を自動解析することで早期虚血変化の評価を行い,正確かつ迅速な診断に貢献します。また,最終健常確認時刻から24時間以内での血管内治療の適応に対して1つの判断基準として用いる頭部CT灌流画像についても,“Flex 4D Spiral”で収集された全脳のdynamic perfusionデータを基に,自動解析されたパラメータ6)によって適切性を即座に判断できるようになります。

図2 FAST 3D Camera 患者ポジショニングを自動化するFAST 3D Cameraを搭載することで,誰でも簡単に患者を精度高くポジショニングすることができる。

図2 FAST 3D Camera
患者ポジショニングを自動化するFAST 3D Cameraを搭載することで,誰でも簡単に患者を精度高くポジショニングすることができる。

 

図3 ALPHA Technologyを用いて作成したMPR画像 患者個々の解剖学的なランドマークを認識し,自動的に当該部位の軸位に沿った角度に調整してMPRを作成できる。

図3 ALPHA Technologyを用いて作成したMPR画像
患者個々の解剖学的なランドマークを認識し,自動的に当該部位の軸位に沿った角度に調整してMPRを作成できる。

 

図4 ALPHA Technologyの開発 ALPHA Technologyの開発は,サンプル画像データを基に専門家が機械学習を用いてトレーニングした知識データベースを構築。

図4 ALPHA Technologyの開発
ALPHA Technologyの開発は,サンプル画像データを基に専門家が機械学習を用いてトレーニングした知識データベースを構築。

 

図5 myExam Companionの心臓CT撮影のフロー 患者個々の心拍情報などを基に最適なプロトコルを選択可能。

図5 myExam Companionの心臓CT撮影のフロー
患者個々の心拍情報などを基に最適なプロトコルを選択可能。

 

さいごに

最新のIntelligent CT「SOMATOM X.cite」に搭載されたmyExam Companionは,AIを用いて開発された最新技術によって迅速かつ一貫性のある検査結果を提供し,医療現場の課題である生産性の向上に貢献できる技術です。医療従事者のタスク・シフト/シェアが進む中で,Siemens Healthineersは業務負担の軽減をも視野に入れたAI技術の開発を今後も進めてまいります。

●参考文献
1)Booij, R., et al. : Accuracy of automated patient positioning in CT using a 3D camera for body contour detection. Eur. Radiol., 29(4): 2079-2088, 2019.
2)Tao, Y., et al. : Robust learning-based parsing and annotation of medical radiographs. IEEE Trans. Med. Imaging., 30:338-350, 2011.
3)Siemens Medical Solution : Achieving Organ-Based Reading in PET/CT for Improved Efficiency of Image Interpretation. White Paper ALPHA Technology, 2014.
4)Nishii, T., et al. : A Real-World Clinical Implementation of Automated Processing Using Intelligent Work Aid for Rapid Reformation at the Orbitomeatal Line in Head Computed Tomography. Invest. Radiol., 56(9):599-604, 2021.
5)日本脳卒中学会,日本脳神経外科学会,日本脳神経血管内治療学会 : 経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版. 2020.
6)Bathla, G., et al. : Comparing the outcomes of two independent computed tomography perfusion softwares and their impact on therapeutic decisions in acute ischemic stroke. J. Neurointerv. Surg., 12(10):1028-1032. 2020.

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