Highlighting Dual Energy CT in Abdominal Emergency 
後閑武彦(昭和大学医学部放射線医学講座)
Session Ⅳ New Performance of Dual Energy CT for Precision Medicine

2018-11-22


後閑武彦(昭和大学医学部放射線医学講座)

本講演では,腹部救急におけるDual Energy CT(DECT)の活用をテーマに,特に非外傷性腹部救急疾患に有用な仮想単純画像(Virtual Non Contrast:VNC),ヨードマップ画像(Iodine map),仮想単色X線画像(Virtual Monoenergetic Image:VMI)について,症例を提示して報告する。

DECTの基本技術

DECTは,異なる2種類のX線エネルギーのデータを取得し,エネルギーや物質によって質量減弱係数が固有の変化を起こすことを利用した技術である。当院で稼働するシーメンスヘルスケアのDual Source CT(DSCT)「SOMATOM Force」は,高管電圧側のX線管にスズ(Sn)フィルタを挿入することで,2種類のX線スペクトルの重なりを減少させる技術“Selective Photon Shield”が搭載されている。加えて,最速258mm/sの高速なDual Energy撮影が可能なことから,精度とスピードが同時に求められる救急に適したDECTであると言える。
腹部救急のうち,特に非外傷性疾患では,出血の検出や虚血,腫瘍の診断,および結石などの評価に仮想単純画像やヨードマップ画像,仮想単色X線画像が有用である。

仮想単純画像の有用性

仮想単純画像は,これまでに単純CTを代替する可能性が報告されている。救急医療においては単純CTをカットできれば,時間と被ばく線量の削減が期待できる。
症例1は,39歳,女性,右下腹部痛の症例である。Dual Energyによる造影CT mixed image(120kVp相当)の画像では,さまざまな構造物が造影され病変がはっきりしないが,仮想単純画像を追加することで造影効果が除去され,虫垂結石が確認できた(図1)。

図1 症例1:仮想単純画像による虫垂結石の描出

図1 症例1:仮想単純画像による虫垂結石の描出

 

症例2は,30歳,女性,同じく右下腹部痛の症例である。造影CTで認められる高吸収域は,造影された腫瘍であるかどうかがはっきりしないが,仮想単純画像でもやはり高吸収であり,腫瘍ではなく卵巣出血であると判断できた(図2)。
一方,仮想単純画像のピットフォールとして,過去の論文では,尿路結石の約3割は仮想単純画像で診断できず,特に,腎実質相に比べて排泄相では造影剤が濃縮されているため結石の検出率が低いこと,また,2〜3mm以下の結石の検出は十分ではないことが報告されている1)。仮想単純画像が単純CTを完全に代替できるようになるには,もう少し時間がかかると思われる。

図2 症例2:仮想単純画像による卵巣出血の描出

図2 症例2:仮想単純画像による卵巣出血の描出

 

ヨードマップ画像の有用性

ヨードマップ画像は,DECTのデータからヨード造影剤を抽出して画像化したもので,仮想単純画像とフュージョンすることで,解剖情報に加え,ヨード濃度とその分布を把握することができる。ヨード造影剤のみのデータと仮想単純画像の割合は,自由に変更可能である。
症例3は,82歳,男性,急性腹症である。単純CTと造影CTだけでも腸管が絞扼しているのが確認できるが,腸管壁の造影効果が不明瞭で,正常な壁との違いがわかりづらい(図3 a〜d)。造影CTのヨードマップ画像では腸管壁の造影効果が明瞭で,虚血状態を判別しやすい。もともと腸管出血などで腸管壁が高吸収として描出される状況においても,造影効果との判別ができ有用である(図3 e,f)。本症例は,手術にて腸管壊死を来していたことが確認された。

図3 症例3:ヨードマップ画像による絞扼性腸閉塞の虚血の評価

図3 症例3:ヨードマップ画像による絞扼性腸閉塞の虚血の評価

 

症例4は,32歳,女性,卵巣囊胞腺腫の捻転である。単純CTと造影CTの画像を比較しても,隔壁が薄いため造影されているかどうかがはっきりしないが(図4 a〜c),ヨードマップ画像では造影されていないことが確認でき,捻転と診断できた(図4 d)。本症例(捻転例)と非捻転例との比較でも,造影CTでは違いが不明確であったが,ヨードマップ画像では非捻転例は隔壁が造影され,捻転例では造影されていないことが一目瞭然であった。
また,ヨードマップ画像では,ヨード濃度の測定も可能である。ヨードマップ画像を用いて腎腫瘍と囊胞を鑑別した検討では,ヨード濃度の閾値が0.5mg/mL以上であれば,造影されているかどうかを判断できるとの報告がある2)。当院の中井らの検討でも,正常腸管のヨード濃度は2.15±0.68mg/mL,捻転腸管では0.39±0.25mg/mLであり3),やはり0.5mg/mLあたりが閾値と思われる。

図4 症例4:ヨードマップ画像による卵巣囊胞腺腫の捻転の評価

図4 症例4:ヨードマップ画像による卵巣囊胞腺腫の捻転の評価

 

症例5は,70歳,男性,下血のある症例である。造影CTでは便も白く描出されるため(図5 b),造影剤との判別が困難であるが,ヨードマップ画像では濃染が確認できる(図5 c)。ヨードマップ画像は,ヨード以外にも高吸収なものは淡く描出されることがあるため注意して読影する必要があるが,腸管内の血管以外の構造物が区別可能であり,今後の応用が期待できる。
ヨードマップ画像の利点をまとめると,造影CTで造影剤による増強かどうかがわかりづらい場合に利用できる,造影CTで増強されている領域を見つけやすい,関心領域におけるヨード濃度の測定が可能,高吸収域の原因がヨードかどうか診断できる,などが挙げられる。

図5 症例5:ヨードマップ画像による腸管内の便と造影剤の鑑別

図5 症例5:ヨードマップ画像による腸管内の便と造影剤の鑑別

 

仮想単色X線画像の有用性

仮想単色X線画像とは,2種類のX線エネルギーのデータから任意の単色X線エネルギー(単位はkeV)におけるCT画像を計算によって生成する技術である〔DE Monoenergetic Plus(Mono+)〕。低エネルギーでは主にヨードの造影効果が上昇し,画像コントラストが向上する。一方,高エネルギーではヨードの造影効果が低減するが,金属アーチファクトが低減するという利点がある。X線エネルギーを自由に変化させることで,さまざまなコントラストの仮想単色X線画像を作成できることに加え,Monoenergetic Plus ROIを用いることで,40〜190keVのエネルギー範囲における物質のCT値変化をグラフ化でき,物質のエネルギー特性を解析することもできる。
症例6は,71歳,男性,急性膵炎である。造影CT(図6 a)で認められた膵臓の造影不良域は,40keVの仮想単色X線画像でより明瞭となった(図6 b)。3日後の造影CT画像の所見とも一致しており(図6 c),仮想単色X線画像は濃染されていない部分を強調できるという点でも有用である。

図6 症例6:仮想単色X線画像による急性膵炎の評価

図6 症例6:仮想単色X線画像による急性膵炎の評価

 

症例7は,38歳,男性,胆囊炎疑いである。造影CT(図7 a)では胆囊の腫大と壁の肥厚が認められるが,胆石は見られないため無石性胆囊炎と考えられた。しかし,仮想単色X線画像の40keV画像(図7 b)および150keV画像(図7 c)で微細な胆囊結石が認められた。最近の論文では,仮想単色X線画像によって従来の120kVで撮影した画像では見えていない胆石が描出されることが報告されている。単色X線エネルギーの変化に伴う胆汁と胆石のCT値の変化を見ると,40keVでは胆石は−50HU,胆汁は20HUであるのに対し,通常のCT画像(120kVp)に相当する70keVではいずれも10HU程度と,最も画像化されづらい値となっていた。さらに高エネルギーになると胆石のCT値が上昇し,胆汁とのCT値差によって胆石の描出能が向上する。

図7 症例7:仮想単色X線画像による胆囊結石の検出

図7 症例7:仮想単色X線画像による胆囊結石の検出

 

まとめ

DECTは画像処理を必要とするが,当院では,DECTデータをシーメンスヘルスケアの“syngo. via”に転送し,自動的にヨードマップ画像と仮想単色X線画像を作成することで,検査後すぐに読影端末から画像を参照できるよう工夫している。
DECTから提供されるさまざまな画像は,腹部救急のCT診断において補助診断として有用で,診断の確信度を高めることができる。

●参考文献
1)Park, J.J., et al., Eur. Radiol., 26・10, 3550〜3557, 2016.
2)Mileto, A., et al., Am. J. Roentgenol., 202・5, W466〜W474, 2014.
3)中井雄一, 映像情報Medical,50・1,98〜103, 2018.

 

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