Pre Operative Precise Information for Structural Heart Disease
井口信雄(榊原記念病院循環器内科)
Session Ⅲ Robust Performance of Dual Source CT for Cardiac Imaging
2018-11-22
本講演では,心臓弁膜症や心筋症などの構造的心疾患(structural heart disease:SHD)におけるCTの活用法について述べたい。当院では,心臓CT検査のうち,2016年までは冠動脈CTの比率が高かったが,2017年には3084件の心臓CT検査のうち,心臓形態CTが51%,冠動脈CTが49%と逆転している。
心臓形態CTでは主に,大動脈弁閉鎖不全症(AR)の弁形成術や大動脈弁狭窄症の経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI),肥大型心筋症の術前評価を目的に施行している。以下,AR,閉塞性肥大型心筋症(HOCM),僧帽弁閉鎖不全症(MR)におけるCTの活用を中心に解説する。
大動脈弁閉鎖不全症における活用
ARの解剖学的病型は,3タイプに分類される。タイプⅠは正常弁尖運動で弁輪部拡大や血管の拡張,あるいは弁穿孔,タイプⅡは弁の逸脱,タイプⅢは弁の硬化,弁尖運動制限であり,大動脈弁形成術の適応となるのは主にタイプⅠとⅡである。このため,術前に弁尖の形態・動き,血管の拡張などを心臓形態CTで評価することが,適応決定の参考となる。
実際の形成術では弁尖の長さが重要であり,effective height(弁尖高),coaptation depth(弁輪から弁接合部までの深さ),geometric height(弁尖長)の計測が必要となる(図1 a)。特に,弁尖長は重要である。CTでは弁尖長として,弁尖の最深部の径を計測する(図1 b)。しかし,三尖弁の大きさが異なるため,われわれは,それぞれの2DのMPR画像を作成して弁尖長を計測し,さらに三尖弁の中で最も長い弁尖長を確認できるように3つの2D MPR画像を1画面上に表示している(図1 c)。
また,大動脈弁形成術後の評価にもCTを活用している。術後では,effective height,coaptation depthを計測するが,特にcoaptation depthの位置が重要となる。この位置が高いと再発率が低く,低いと再発しやすいとされる。
症例1は54歳,女性。ARに加え,胸部大動脈瘤と大動脈弁輪拡張を伴っている(図2)。術前に2DのMPR画像で弁尖長などを測定して,central plication法での形成術を行った。さらに,術後の評価にもCTを施行して,coaptation depthを計測し,高さが確保できているかを確認できた。
また,二尖弁はARが進行しやすく,上行大動脈の拡張を来しやすいため,早期の手術が必要となる。しかし,二尖弁は鑑別が困難なことから,超音波検査に加え,CTを施行することで診断精度が向上する。二尖弁は,左冠尖と右冠尖の癒合したケースが圧倒的に多く,交連が3つあるものと2つあるもの,縫合線の残っているものとないもの,不全型など多様なタイプがあり,それをCTで鑑別する。さらに,以前はTAVIの禁忌だった二尖弁においても形態評価がしやすく,また,デバイスを留置するためのアクセスルートや石灰化の評価,縫合線の位置などを把握し,シミュレーションを行っている。
二尖弁は個々の形態に合わせて最適な治療法を検討する必要がある。症例2は50歳,男性のARで,不全型の二尖弁を有していた(図3)。本症例では,三尖弁ではなく,きれいな二尖弁にすることを目的に大動脈弁形成術を施行した(図3 b)。
閉塞性肥大型心筋症における活用
肥大型心筋症の中でもHOCMは,流出路狭窄の有無によって予後が大きく異なり,流出路狭窄の解除が治療のポイントとなる。流出路狭窄の治療には,左室流出路狭窄のメカニズム,つまり,構造的異常を解明することが重要である。従来は,中隔が厚ければ経皮的心室中隔焼灼術(PTSMA)を施行していたが,近年,中隔肥厚のほかにも,僧帽弁の伸長や乳頭筋異常,異常筋束といった要素が組み合わさって流出路狭窄を来していることが明らかになってきた。
症例3は29歳,女性のHOCMで,MRIでは中隔がかなり肥大していたため,左室流出路の圧較差軽減目的でMorrow手術を行うこととなり,術前にCTを施行した(図4)。CTでは,中隔肥大が見られるものの,異常筋束も認められ,さらに,乳頭筋の付け根で腱索が2つに分かれていた(異常腱索)。これらの複数の要素が組み合わさって流出路狭窄を来していたが,術前に4D画像を用いて角度や位置を変えながら観察し,狭窄のメカニズムを評価することができ,Morrow手術と異常筋束,乳頭筋の異常腱索の切除により,術前に73mmHgあった圧較差を11mmHgまで改善することができた。このように,流出路狭窄の機序の解明にCTは有用である。
また,外科医の術前のガイドとしてもCTは有用であり,事前にVR画像で中隔肥大の程度や異常筋束,異常乳頭筋の位置や形状などを把握しておくことで,手技に役立てることができる。
同様に,当院では,経皮的心室中隔焼灼術においても,術前にCTを施行し,ガイドとして役立てている。術前に冠動脈CTと心臓形態CTを施行し,両者をフュージョンすることで中隔と心筋の関係を把握できるほか,焼灼する中隔の選択など,中隔枝の評価に役立つ(図5 a)。さらに,術後にはDual Energy CTを施行することで,焼灼部位の確認や血流の有無の確認も行える(図5 b)。
僧帽弁閉鎖不全症における活用
僧帽弁は複雑な構造をしており,それをCTで事前に評価することが重要である。図6は,外科医が参照するsurgeon viewという左心房側から見たVR画像で,僧帽弁後尖の逸脱が描出されており,乳頭筋がどのように付いているかも観察できる。乳頭筋異常は症例によって数や形態が異なり,多くのバリエーションがあるので注意が必要である。従来は手術時でなければ確認できなかったが,CTにより術前に評価することが可能となった。乳頭筋の術前評価は,人工腱索再建術を行う際に重要である。
本邦でも,逸脱した弁尖に対する「MitraClip」(アボット社)によるカテーテル的治療が2018年4月から保険適用となった。本治療でも,術前に逸脱の機序や,前尖(A1/A2/A3)と後尖(P1/P2/P3)のどこが逸脱しているのかを把握しておく必要がある。また,MitraClipの治療ではクリップ留置の可否やクリップの数などを予測するため,器質性MRの場合はflail gapやflail width,逆流弁口面積(EROA),後尖長を,機能性MRの場合は,coaptation length,coaptation depth,EROA,後尖長を評価する必要がある。現状,これらの評価は経胸壁エコーや経食道エコーといった超音波検査が主流であるが,当院では,ワークステーション上でCTデータを再構成して,3方向から位相ごとに確認し,最もギャップのある画像からflail gapを高精度に計測している〔症例4(48歳,女性):図7〕。
さらなる造影剤の低減に向けて
当院では,2009年に「SOMATOM Definition Flash」を導入し,さらに2018年7月からは「SOMATOM Drive」も稼働している。当院では圧倒的に心臓検査が多く,拍動している心臓を見るためには時間分解能の高いDual Source CTが必須のため,2台体制で運用している。
症例5は71歳,男性のARで,SOMATOM Driveでは管電圧90kVで撮影し,造影効果が向上したことで造影剤を低減できている(図8 b)。高齢患者など腎機能を考慮すると,やはり造影剤低減を行うことにはメリットがあり,今後も検討していきたいと考えている。
まとめ
SHD治療におけるCTは,ARに対する大動脈弁形成術において,術前の適応判定や弁尖計測,術後のcoaptationの高さの評価に有用である。また,HOCMでは,治療法を選択するためにCTで流出路狭窄を来す機序を解明することが必須となる。さらに,Morrow手術前の視覚的評価や経皮的心室中隔焼灼術前の中隔枝の走行,術後の焼灼部位の評価に有用である。MRの治療では,弁尖逸脱の機序の解明や,MitraClip治療におけるflail gapの高精度の計測が可能となる。
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