Dual Energy CT in Neurology 
野口 京(富山大学医学部放射線診断・治療学講座)
<Session IV The frontiers of Dual Source CT>

2016-11-25


野口 京(富山大学医学部放射線診断・治療学講座)

当院は2015年3月,シーメンス社製のDual Source CT「SOMATOM Force」を導入した。本装置はルーチンでDual SourceによるDual Energy CT(DECT)が可能であり,material decompositionアルゴリズムを用いて多種の画像が作成できる。頭部領域のDECTでは,主に物質弁別とMonoenergetic imageが用いられるが,物質弁別ではIodine mapとVirtual Non Contrastによる脳出血とヨード造影剤の鑑別,“DE Bone Removal”による骨除去が可能である。特にDE Bone Removalは,ワンクリックできわめて高精度な骨抜き画像が得られるため,CT angiography(CTA)撮影後の画像処理で有用である。また,Monoenergetic imageでは,コイル塞栓術後の症例における金属アーチファクトの低減など,画質向上が可能となる。
われわれは,DECTのさらなる可能性を追究すべく,既存のアプリケーションを応用した新たな試みを行っている。また,まったく新しいDECTのアプリケーションの開発に挑戦したので,以下に紹介する。

DE Bone Removalの頭部領域における応用

われわれは,頭部単純CT検査にDECTを応用し,DE Bone Removalによる骨抜きを行うことで,あたかもMRIのFLAIRや拡散強調画像(DWI)のようなコントラストを有する画像が得られることを発見した。
頭部CT画像における骨除去のメリットとして,硬膜外血腫や硬膜下血腫などで頭蓋骨に接した部分の急性期の出血性病変が容易に認識可能となることが挙げられる(図1)。通常CT画像では,頭蓋骨の強い高吸収が視認性に大きく影響を与えていることがわかる。骨を除去することにより診断の確信度が向上し,読影時間の短縮にも貢献する。
DE Bone Removalは頭部外傷にもきわめて有用である。左側頭葉の脳挫傷の症例では,側頭葉の出血性病変が明瞭に示されているが,脳挫傷の好発部位である前頭蓋底にも病変がある。DE Bone Removalでは,この前頭蓋底病変が一目瞭然である(図2 b)。頭蓋内出血の有無について瞬時の判断が求められる緊急性の高い頭部外傷の診断には特に有用である。頭部外傷については,120kV相当のCT画像,骨条件のCT画像,DE Bone Removalの3点セットで診断することが有用と考えられる。

図1 硬膜下血腫の診断におけるDE Bone Removalの有用性 頭蓋骨に接した急性期の出血性病変が容易に認識できる。

図1 硬膜下血腫の診断における
DE Bone Removalの有用性
頭蓋骨に接した急性期の出血性病変が
容易に認識できる。

図2 頭部外傷の診断におけるDE Bone Removalの有用性

図2 頭部外傷の診断における
DE Bone Removalの有用性

 

脳梗塞診断におけるHigh-kV画像の優位性

脳梗塞の診断において,頭部CTではearly CT signの評価がきわめて重要である。当院では120kV相当のCT画像,Low-kV画像(80kV),High-kV画像(Sn 150kV)の3点で診断を行うが,当初はearly CT signの評価にはLow-kV画像が最適と考えていた。しかし,実際に画像を比較してみると,Low-kV画像は辺縁のアーチファクトやノイズが多くわかりにくい(図3 b)。一方,High-kV画像は浮腫による吸収値の下がり方が大きく,ノイズが少ないため病変を確認しやすい(図3 c)。また,脳梗塞の早期にて観察されるhyperdense signもHigh-kV画像の方が観察しやすい。Monoenergetic imageおよびSpectral HU Curveによる解析でも同様の結果であった。

図3 急性期脳梗塞における120kV相当のCT画像Low-kV画像,High-kV画像の比較

図3 急性期脳梗塞における120kV相当の
CT画像Low-kV画像,High-kV画像の比較

 

新しいアプリケーションX-mapの開発

1.X-mapの原理
脳の灰白質と白質の吸収値差は約5HUであるが,およそ3~5HUのCT値の低下があれば,early CT signとして認識が可能である。脳梗塞における吸収値の低下はHigh-kV,つまりX軸の変化の方が優位であるとの仮定の下でDECTの新しいアプリケーション“X-map”を開発した。
図4は,図3と同症例における120kV相当のCT画像,X-map,DWIの比較であるが,X-map ではearly CT signが非常にわかりやすい。また,120kV相当のCT画像に単純にカラールックアップテーブルを適用させた画像およびDE Bone RemovalとX-mapを比較してわかるように,X-mapは単なるカラーCT画像とはまったく異なるものである(図5)。
X-mapはThree-material decompositionを用いて,水,灰白質(gray matter),白質(white matter)の3点のCT値を規定し,灰白質と白質の吸収値差を生む主原因である脂質成分を白質から抑制し,仮想的な灰白質マップを作成する。その上で,仮想的な灰白質マップに残るコントラストは水分量の違いによるという仮定の下,X-mapを作成した。
図6は,急性期脳梗塞における発症後約3時間からの経時的画像である。発症3時間後のX-mapにて広範囲に青く描出された領域が,血栓回収術施行後の発症約7時間後のものでは縮小している。通常のCT画像ではとらえられないCT値の何らかの変化,例えば機能・代謝のダイナミックな変化をX-mapがとらえている可能性がある1)。しかしながら,アーチファクトをとらえている可能性を完全には否定できないことと,理論的にもY軸の変化の方が優位である病変の検出が困難となることから,通常のCTを置き換えることはできず,X-mapはあくまでもサポート画像の位置づけである。

図4 図3と同症例における120kV相当のCT画像,X-map,DWIの比較 X-map(b)ではearly CT signが明瞭である。

図4 図3と同症例における120kV相当のCT画像,X-map,DWIの比較
X-map(b)ではearly CT signが明瞭である。

 

図5 カラーリングした120kV相当のCTの画像およびDE Bone Removal画像とX-mapの比較

図5 カラーリングした120kV相当のCTの画像
およびDE Bone Removal画像とX-mapの比較

 

図6 急性期脳梗塞における経時的な画像比較

図6 急性期脳梗塞における経時的な画像比較

 

2.症例提示
微妙な変化をCTでとらえなければならない疾患の一つに,くも膜下出血後の脳血管攣縮がある。本症例は,くも膜下出血発症8日目の午後に失語を生じ,120kV相当のCT画像(図7 a)では原因ははっきりしないが,X-mapでは左側に信号の低下が見られる(図7 d)。翌早朝に増悪し,CT画像で浮腫が認められ(図7 b),X-mapの信号もさらに低下している(図7 e)。同日午後には左半身に麻痺が出現し,CT画像で浮腫の広がり(図7 c),X-mapでは右半球にも不均一な信号低下が確認できる(図7 f)。このように並べて比較すると,X-mapはCT画像に先行するように脳の変化をとらえており,目で見えない微妙な変化を強調して描出していると考えられる。

図7 X-mapによるくも膜下出血の脳血管攣縮の描出 X-mapではCT画像で確認できない脳の微妙な変化を強調して描出していると考えられる。

図7 X-mapによるくも膜下出血の脳血管攣縮の描出
X-mapではCT画像で確認できない脳の微妙な変化を強調して
描出していると考えられる。

 

まとめ

頭部領域のDECTには,まだ多くの可能性が残されていると思われ,これからも臨床研究を行っていく価値はあると考えている。

●参考文献
1)Noguchi, K., et al. : A Novel Imaging Technique (X-Map)to Identify Acute Ischemic Lesions Using Noncontrast Dual-Energy Computed Tomography. J. Stroke Cerebrovasc. Dis., 2016(Epub ahead of print).

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