Personalized CT in Cardiovascular imaging
The force drives personalization in the cardiovascular imaging
西井達矢(神戸大学附属病院放射線部)
<Session IV The frontiers of Dual Source CT>
2016-11-25
近年,心臓CTなどの循環器疾患を対象にした検査においても,臨床側の個別化へのモチベーションが非常に高まっている。特に強く要望されるのが,造影剤腎症に配慮した造影剤量の低減である。また,冠動脈狭窄に対する機能的血流予備能比CT(FFRCT)による血行動態的な有意狭窄の評価や,心筋性状の評価,負荷パーフュージョンCTによる心筋虚血評価などの新たな画像診断法への応用のほか,経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の治療計画および心筋焼灼術のためのマッピングなど,診断以外を目的とした画像検査への要望も大きい。そして,これらすべての要望に応えうる装置が,最新のDual Source CTである。
本講演では,臨床症例から考える心臓検査の個別化について,セグメンテーションの拡充とパーソナリゼーションの実践の2ステップに分けて述べる。
セグメンテーションの拡充
CT検査におけるセグメンテーション(層別化)とは,具体的には,(1) 臓器別の最適化(臓器別ダイナミック撮影),(2) 被ばくの最適化(自動露出機能,若年者への配慮),(3) 造影剤注入法の最適化(撮影タイミング,体重別造影剤注入法)などと患者群ごとのプロトコールの最適化のことであるが,これまでも各施設でさまざまな領域において積極的に取り組まれている。われわれは,さらにDual Source CT「SOMATOM Force」で可能な“CARE kV”を活用した低管電圧撮影などのシーメンス社の“Right Dose Technology”を積極的に活用し,循環器疾患に対する画像検査において,腎機能や年齢などにより層別化した撮影プロトコールを準備し,さらなるセグメンテーションの拡充を行っている。
●症例1:労作性狭心症
60歳代,女性。糖尿病性腎症で透析中に胸痛精査となった。冠動脈の通常撮影では,低線量での胸腹部CTやカルシウムスコア,test injectionなどの後,Turbo Flash SpiralにCARE kVを適用し,最適な管電圧を選択し撮影している。本症例では80kVが選択され,被ばく線量は0.5mSvで,造影剤量は36mL(370mgI製剤)で撮影可能であった。
実際の画像(図1)を見ると,有意狭窄が2か所認められ,FFRCTも低下しており,冠動脈造影(CAG)が施行された。
CARE kVは体格に合わせて管電圧を自動で最適化する機能で,2016年4月以降の当院の冠動脈系の撮影にてCARE kVを適用した症例では,約90%で80kV以下が,さらに約半数は70kVが選択され,より容易に低被ばくへとシフトすることが可能となっている。
●症例2:狭心症疑い
40歳代,女性。非定型の胸痛に加え,心電図異常および心筋シンチグラフィでも異常が認められ,CAGの適応であるが,社会的な理由で入院できないためCT精査となった。体重は80kg,右腎摘出後で,推算糸球体濾過量(eGFR)は32.7mL/min/1.73m2と低下しており,造影剤量の低減が必要であった。
本症例では,低造影剤プロトコールを選択し,dose modulationを併用したNormal Spiralで撮影し,管電圧を70kVに固定(CARE kV「半自動」設定)したことで被ばく線量を3.3mSv,造影剤量は23mL(370mgI製剤)で撮影可能であった。
実際の画像(図2 a)を見ると,菲薄化を認める左室壁の支配血管にフラップ様の構造物を伴う膨隆を認め,Fibromuscular dysplasiaに伴う冠動脈解離と考えられた。当院のこれまでの検討では,70kVを用いることで,約半量まで造影剤低減が可能であると考えており,腎機能低下の患者において積極的に低管電圧を使用している。なお,別症例ではあるが,ナプキンリングサイン(図2 b)も確認可能であり,狭窄のみならず通常冠動脈CTと同様な評価が可能と考える。
●症例3:大動脈弁狭窄症
80歳代,女性。TAVI術前精査であるが,腎機能(eGFR)が27.7mL/min/1.73m2と高度に低下しており,造影剤量を低減しつつ,大動脈弁とアクセスルートの評価が求められた。
TAVI低造影剤プロトコールでは,撮影タイミングのみならず,造影剤の使用を最適化するために患者ごとの造影剤注入時間を得るためDouble-level test bolus methodを行っている。
その後,70kVのTurbo Flash Spiralにて,心位相を収縮期に合わせ,大動脈弁およびアクセスルートの画像を1回の撮影で得た。それによって,19mL(370mgI製剤)の造影剤量を達成した。
Double-level test bolus methodとは,大動脈基部と大腿動脈の2か所でtime density curveを取り,それぞれのピークとピークの間の時間を得,造影剤の注入に当たっては,それぞれのピーク時間を用いることで注入時間を患者ごとに最適化し,さらにTurbo Flash Spiralなど広範囲を高速撮影するような撮影法において,ロバストな画像収集を目的とした方法論である。
実際の画像(図3)では,TAVI術前評価に十分な画像が得られており,特にMIP画像(右)では,必要な部分のみがしっかりと造影されていることがわかる。この症例では急性期造影剤腎症の発症はなかった。
●症例4:心房中隔欠損症
40歳代,女性。Amplatzer閉鎖栓を用いたカテーテル治療の術前精査にCT検査が有用であるが,右房と左房の染め分けが必要なほか,VR画像の作成には均一な濃染が求められるなど,撮影はきわめて困難である。そこで,われわれは撮影の簡略化をめざし,70kVの4D撮影で多時相の3Dデータを得た上で,後処理にて必要な時相の画像を作成する“Time-blended”CTという手法を用いている(図4)。実際の画像(図5)では,16mL(370mgI製剤)の造影剤量で,サイズ計測のみならず,大動脈その他の立体的な解剖学的構造がきわめて良好に描出されている。
パーソナリゼーションの実践
パーソナリゼーションの実践に必要なこととして,“Team approach”と“Module-based approach”の2つがある。
まず,Team approachであるが,当院では放射線科,循環器内科,診療放射線技師がチームを構成している。臨床とのコミュニケーションは非常に重要であり,われわれが作った画像の臨床的なインパクトを論文化などを通じて広報し,臨床的有用性の実績を積み重ねていくことで,画像のより積極的な活用につなげていくことは特に重要である。
また,Module-based approachはそれぞれの撮影法の物理的な特性を理解した上で,さまざまな撮影手法を準備して,その組み合わせを患者ごと,検査目的ごとに最適化する考え方のことである。具体的には,臨床シナリオを想像し,造影剤量や被ばく線量などの諸条件をシミュレートすることや,実際の症例をレビューし,最適な検査であったかを振り返ることも重要である。
●症例5:深部静脈血栓症
30歳代,男性。身長185cm,体重170kgとかなり大柄である。捻挫に対してシーネ固定中に下肢腫脹があり,近医を受診した。CTにて腋窩部の深部静脈血栓症(DVT)が認められたものの中枢側の状態は画質が不十分で不明であり,治療方針決定のため当院でのCT再撮影依頼となった。当院でDVT目的での撮影では,体重換算上350mgI製剤で250mLが必要となるが,製剤として最大量である135mLでの対応と仮定すると,造影剤量は必要量の約半分となり,造影剤量も線量も足りない。そこで,造影効果を向上する2つの低エネルギー撮影法(70kV Dual PowerとDual Energy)のそれぞれのメリット,デメリットをあらかじめ検討した上で,本症例ではDual Energy撮影を実施した。
CT Venographyを見ると120kV相当のmixed imageではコントラストが低く血栓を除外しにくいが,仮想単色X線画像を作成するアプリケーションの“DE Monoenergetic Plus(Mono+)”で再構成した40keV画像を使用することでコントラストの向上により十分な評価が可能であり(図6),不必要なフィルタ留置などを避ける意味で臨床的に有益な情報を提供できた。
まとめ
当院ではSOMATOM Force導入により,放射線科医や診療放射線技師を中心により積極的な個別化へのパラダイムシフトが起こっていると感じている。どのような検査も患者にとっては1回の重要な検査であることを忘れず,個別化が必要な患者を適切に選び,実施していく努力が望まれる。
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