Therapy Planning
子宮頸がん小線源治療における3次元治療計画
室伏景子(がん研有明病院放射線治療部)
<Session Ⅱ The frontiers of CT technology>
2016-11-25
近年,CTやMRIを用いた治療計画による小線源治療が飛躍的に増加している。CTやMRIを用いることの最大のメリットは,小線源治療法の選択,いわゆる個別化医療と言える。また,小線源治療は治療時の1回線量が多い上,処置をしてから治療計画,治療までが短時間で進んでいくため,不確実性を減らすためにも,CTなどのモダリティは重要である。
当院では2016年2月,新棟の増設に伴い,小線源治療室に同室内CTとしてシーメンス社製「SOMATOM Definition AS Open 64slice Sliding Gantry」を導入した。小線源治療の処置を行うため,ガントリ開口径が80cmと大口径で,自走式である点はきわめて重要である。
本講演では,当院における子宮頸がん小線源治療の実際を踏まえ,CTを用いた3次元治療計画の有用性を述べる。
子宮頸がんの標準治療
子宮頸がんはFIGO分類でⅠ〜Ⅳa期まであり,『子宮頸癌治療ガイドライン 2011年版』では,すべての病期で放射線治療が推奨されている。照射スケジュールは日本独自に発達しており,『放射線治療計画ガイドライン2012年版』では外照射の線量は50Gy(全骨盤+中央遮蔽)で,欧米との最大の違いは,膀胱や直腸など危険臓器の線量を低減するため中央遮蔽を用いる点である。また,腔内照射は病期に応じて24Gy/4回照射〜12Gy/2回照射の範囲で行う。
米国で1973〜78年まで行われた医療実態調査研究(Patterns of Care Study:PCS)では,骨盤内制御に対する多変量解析にて唯一,腔内照射を行った症例で制御が良好であったという結果も出ており,子宮頸がんに対する根治的放射線治療として小線源治療は不可欠と考えられる。
子宮頸がんの小線源治療
1.2次元から3次元治療計画へ
小線源治療の治療計画は近年,急速に2次元から3次元へと移行している。2次元の治療計画は,幾何学的な線量投与点であるA点(外子宮口から2cm上を通る垂線上で,側方の左右2cmの点)を用いて行うが,この場合,子宮の形状や腫瘍の大きさによって線量の過不足が起こりうる。一方,3次元治療計画では上記に加えて,腫瘍や危険臓器の線量評価を行い,最適な線量分布に変更可能である。
小線源治療の大まかな流れは,(1) 鎮痛剤・麻酔処置,(2) 診察,(3) アプリケータ挿入,(4) 計画画像の撮影・治療計画,(5) 照射,(6) アプリケータ抜去で,ここまで約2時間で行う。その際,(3)(4)(5)の部分でCTを用いた3次元治療計画を行うことで,小線源治療の正確さを向上できる。
2.3次元治療計画の実際
3次元治療計画に当たっては,病変部分,危険臓器の輪郭描出およびその線量評価を行い,適切であれば治療を行うという流れが欧州のガイドラインで推奨されている。日本と欧州では推奨線量が異なるが,腫瘍に対して60Gy以上照射されている症例は,有意差をもって骨盤内制御が良好であったとのデータもあり,腫瘍に適切な線量投与が可能な小線源治療法を選択することが,高い治療効果を得るために最も重要と言える。
ただし,治療の計画から開始までには30分〜1時間程かかるため,その間にガスが下りてきて直腸への照射線量が変わる傾向がある。しかし,治療開始直前のCT撮影が可能であれば,直腸や膀胱の位置の変化を確認可能である。
さらに,小線源治療では,線源が予定された場所に予定された時間,確実に停留されていることがきわめて重要である。X線透視で線源の位置確認を行っている施設もあるが,当院では同室内CT導入を機にCTの位置決め画像を用いる手法を検討したところ,確実に識別可能な画像が得られた(図1)。
3.小線源治療の方法
小線源治療の方法は3つに大別される。一般的に行われている「腔内照射」では,腫瘍の大きさや形状によって腫瘍への線量が不十分となることがある。当院ではその場合,外陰部から針を腫瘍内に複数本刺入して照射する「組織内照射」を行う。本法では腫瘍の形状に応じた線量投与が可能となるが,数日間針を停留する必要があるため,患者はその間,仰臥位の保持が必要となり侵襲性を伴う。そこで,この2つの方法の間をとって発展してきたのが,腔内照射を基本として,線量が足りない部分のみに針を刺入して線量を足す「組織内照射併用腔内照射」である。治療に当たっては,この3つの方法のメリット,デメリットを考慮し,腫瘍の形状を正しく判断して治療法を選択する必要がある。
当院の小線源治療の実際
1.当院の小線源治療の変遷
当院では2010年から組織内照射を再開しており,2011年から小線源治療前に必ずMR撮像を実施してきた。その後,CT撮影が行われてきたが,小線源治療室でアプリケータを留置してから患者を毎回ストレッチャーで治療計画用のCT室に運んでいたため,非常に労力が大きかった。しかし,2016年2月に同室内CTが小線源治療室に設置され,全身麻酔も含め,すべての過程を小線源治療室で施行可能となった(図2)。
2.組織内照射の大まかな流れ
組織内照射は,(1) 全身麻酔,硬膜外麻酔,(2) 診察,(3) 針刺入,(4) 計画画像の撮影と治療計画,(5) 照射(24〜42Gy/4〜7回/2〜4日,2回/日),(6) アプリケータ抜去,という流れで行う。当院では,針を均等に配置するためにMUPITテンプレートを使用し,プラスチック針や金属針を経会陰,経膣的に刺入している。この時,CT撮影を行いながら針を刺入することで,針の位置や深さの確認および修正が可能となる。また,針は2,3日留置され照射は複数回行われるが,その間に針の位置が変わることがあるため,治療直前のCT撮影を毎回行い針先の位置を確認できることは,同室内CTの大きなメリットである。さらに,消化管にはガスが溜まりやすく,これによって直腸と線源との距離が近づくこともあるが,CTで確認してガスを抜くことで,治療計画通りの照射が可能となる。
当院の治療成績
2009年7月〜2015年9月までに,子宮頸がんに対し根治的放射線治療を施行したⅠb2期以上の216例を対象に,当院の治療成績を検討した。これらはすべて演者が担当した症例であり,216例中200例弱がⅡ〜Ⅲ期と最も多く,腫瘍径中央値は50mm(17〜132mm)であった。同時化学放射線療法(CCRT)が大半の症例で施行され,小線源治療法は大半が腔内照射であるが,約1割は組織内照射や組織内照射併用腔内照射を施行した。
観察期間中央値は42.2か月,完全奏功(CR)率は94%,局所制御率は約3年で90%程度と良好であった。5年の無病生存率は75.1%,全生存率は82.1%で,CTでの評価を開始以降の直腸出血は,観察期間が短いものの現状ではほとんど認められず,減少傾向にあると考えている。
症例提示
症例1は,非対称性の子宮頸がん(扁平上皮癌)で,Ⅲb期とかなり進行している。腔内照射では確実な治療は困難と考え,組織内照射を経会陰的に施行した(図3)。照射後2年以上経過しているが,膀胱出血や直腸出血などの有害事象もなく,CRを継続している。
症例2は,Ⅱb期の子宮頸がん(腺扁平上皮癌)で体部浸潤を伴う。タンデム1本では照射が不十分なため,子宮体がん用のアプリケータと子宮頸がん用のオボイドを用いて,さまざまにミックスした治療を行った(図4)。照射後1年7か月が経過しているが,局所制御されている。
症例3は,Ⅲb期の子宮頸がん(扁平上皮癌)で膣浸潤を伴う。クスコが挿入できないほど腫瘍が大きく,腔内照射では治療困難なため,組織内照射を行った(図5)。約6か月が経過しているが,大きな障害もなくCRを継続している。
今後の展望
同室内CTを用い,腫瘍や危険臓器の局在をしっかり把握した上で小線源治療を行うことが治療成績の向上につながる。また,MRIは消化管と子宮の識別が容易であり,有害事象のリスク低減に有効であることから,当院では小線源治療の1週間以内にMR撮像を行っている。欧米ではGECESTRO guidelineにおいてMRIを用いた3次元治療計画を施行しており,今後,MRIの利用がより進んでいくものと予想される。
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