“SOMATOM Force”from a cardiologist’s point of view(Interventionalist’s)
上野博志(富山大学大学院医学薬学研究部内科学第二(第二内科))
<Session III Latest Stories in Dual Source CT>
2015-11-25
当院では2015年3月から,Dual Source CTの最上位機種である「SOMATOM Force」が稼働しており,心臓領域の検査・治療に役立てている。また,5月には北陸初の経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)実施施設に認定され,手術リスクの高い大動脈弁狭窄症(aortic stenosis:AS)患者に対するTAVIを開始した。
本講演では,インターベンショナリストの立場から,TAVIにおけるCTの必要性やSOMATOM Forceの有用性について,腎保護の観点も含めて報告する。
TAVIにおけるCT検査の必要性
1.TAVIの適応
近年,加齢変性に伴うASが増加している。ASは,高度の狭窄であっても無症状で経過する期間が長い反面,いったん狭心症や失神,心不全徴候などの症状が出現すると予後は不良であるため,通常はこの段階で開胸での大動脈弁置換術が行われる。一方,高齢患者では外科手術が不適応となることも多いことから,近年,低侵襲治療法としてTAVIが行われるようになり,現在,国内では53施設が実施施設として認定されている(2015年4月30日現在)。
2.TAVI術前プランニングのポイント
TAVIにおける人工弁の留置経路には,主に経大腿動脈(TF)アプローチと経心尖(TA)アプローチがあるが,より低侵襲なTFが第一選択となる。施行に当たっては,合併症を起こさない範囲でできるだけ大きな人工弁を留置する必要がある。例えば,オーバーサイズの人工弁を用いた場合は,上行大動脈の解離や弁輪破裂,冠動脈を閉塞する可能性があり,一方で,小さすぎる人工弁を用いた場合には,大動脈や左室側への人工弁の脱落や,留置後の弁周囲逆流が多いことが報告されている。破裂は致命的であるが,弁周囲逆流に関しても予後を悪くするとの報告があり1),可能なかぎり正確な人工弁のサイズ選択が重要となる。
治療前にCTを用いてTAVI術前プランニングを行うが,その際,デバイスのアクセスルートと大動脈弁複合体を詳細に評価することで,アプローチサイト(TF or TA),や人工弁のサイズ選択,合併症の可能性について検討する。16〜20Frの太いシースの挿入が必要なため,デバイスアクセスルートの評価は,CPR画像を用いて鼠径〜上行大動脈までの最小血管径,石灰化の存在やその程度,屈曲や蛇行,動脈硬化プラークや血栓の有無などを確認して血管内腔を計測し,TFの適応を判断する(図1,2)。また,CTによる大動脈弁複合体の評価として,大動脈弁輪径,バルサルバ洞径,弁輪-冠動脈入口部長,ST junction径の計測を行う(図3)。ST junction径が小さいとバルーン拡張時に大動脈解離を起こすほか,バルサルバ洞径が小さいと自己弁がバルサルバ洞に収納されず冠動脈を塞栓してしまうため,正確な計測が求められる。また,3枚の弁葉付着部の最下点を結ぶvirtual basal ringで構成される平面での弁輪面積,長径,短径,周囲長を参考にしながら,人工弁のサイズを決定する。
このように,CT画像を基にさまざまな計測や評価を行って初めて,TAVIが施行可能となる。
TAVIにおけるSOMATOM Forceの有用性
TAVIにおけるSOMATOM Forceの有用性として,0.25s/rotでの高速二重スパイラルスキャンによる高い時間分解能と高速スキャンを可能にする“Turbo Flash Spiral”が挙げられる。Turbo Flash Spiralでは秒間737mmの撮影が可能であり,適応患者の多くが息止めの困難な高齢者であるTAVI術前プラニングCTにおいては,きわめて有用である。また,66msの高い時間分解能によりブレのない心臓の画像が得られ,大動脈弁輪が正確に計測可能なこと,さらには70kVを用いたLow kV撮影により造影剤量の大幅な低減が可能なことも大きなメリットである。
1.造影剤量低減の必要性
造影CTの施行に当たっては,造影剤腎症(CIN)の発症が問題となる。『腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2012』には,加齢,脱水,利尿薬,造影剤量,腎毒性物質,うっ血性心不全,慢性腎臓病(eGFR<60mL/min/1.73m2)がCINの発症リスクとして挙げられているが,AS患者ではこれらが複数当てはまることから,診断能を保てる範囲内で造影剤量を低減することが求められる。クレアチニン値が1.8〜2.5mg/dLの中等度の腎機能障害の場合,造影剤量が平均60mL以上では約30%の患者がCINを発症するが,14mLに低減すると4.4%に減少すると報告されている2),3)。また,TAVI施行時に急性腎障害(AKI)を発症すると予後が悪化するとの報告もあり4),AKIの発症を抑制することが重要である。
2.Low kV撮影による造影剤量の低減
例えば,管電圧を120kVから80kVに低減すると,約40%の造影剤量低減が可能である5)。また,ヨードの質量減弱係数はX線エネルギーの低下に伴い上昇するため,ヨードのK-edge(33.2keV)により近い70kVでの撮影では,さらなる画像コントラストの上昇が見込める5)。特に,SOMATOM Forceに搭載されている新型X線管「Vectron」では,Low kV撮影時にも十分な管電流を出力可能なことから,線量不足による画像ノイズの上昇を心配する必要がない。そこで,われわれは70kVを積極的に使用することで,造影剤を可能なかぎり低減したTAVI術前プランニングCTを検討した。
まず,正確な弁輪部の評価ができるように心臓部をレトロスペクティブに心電図同期撮影し,その後,心電図非同期のTurbo Flash Spiralにて上行大動脈から大腿動脈までを撮影した。管電圧は70kVを使用したことで,被ばく線量は5.1mSvと2.3mSv,造影剤量は300mgI/mL製剤を18.5mL使用するだけで一連の検査を実施することが可能であった。
実際の画像を見ると,大動脈弁周囲の造影効果は十分に得られており,デバイスアクセスルートのCT値も,血管の内腔を評価するに当たって十分な画像が担保できている(図4)。デバイスアクセスルートはVR画像およびCPR画像で表示し,血管の走行やプラークの評価も可能である(図5 b)。大動脈弁複合体の計測も正確に行えており(図5 a),本症例はTAVIの適応となった。
まとめ
高齢化社会を迎え,今後TAVIはますます普及していくと思われる。TAVIにおいて造影CT検査は必須であるが,SOMATOM ForceのLow kV撮影により造影剤量の低減が可能であり,腎保護の観点からも非常に有用である。これからも,治療はもとより診断においても,安全で負担の少ない医療を心がけていきたい。
●参考文献
1)Hayashida, K., et al. : Impact of post-procedural aortic regurgitation on mortality after transcatheter aortic valve implantation. JACC Cardiovasc. INterv., 5・12, 1247〜1256, 2012.
2)Seeliger, E., et al. : Contrast-induced kidney injury ; Mechanisms, risk factors, and prevention. Eur. Heart J., 33・16, 2007〜2015, 2012.
3)Kane, G.C., et al. : Ultra-low contrast volumes reduce rates of contrast-induced nephropathy in patients with chronic kidney disease undergoing coronary angiography. J. Am. Coll. Cardiol., 51・1, 89〜90, 2008.
4)Yamamoto, M., et al. : Renal function-based contrast dosing predicts acute kidney injury following transcatheter aortic valve implantation. JACC Cardiovasc. Interv., 6・5, 479〜486, 2013.
5)Bae, K.T. : Intravenous contrast medium administration and scan timing at CT ; Considerations and approaches. Radiology, 256・1, 32〜61, 2010.
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