Therapy Planning
放射線治療計画用CT「SOMATOM Definition AS Open RT Pro edition」高精度・低侵襲を目指す放射線治療のパートナーとなりえるか
玉本哲郎(奈良県立医科大学放射線腫瘍医学講座)中村浩幸/河野一洋(大阪府済生会吹田病院中央放射線科)
<Session III Synergies in Oncology CT>
2014-11-25
放射線治療計画用CT「SOMATOM Definition AS Open RT Pro edition」(以下,RT Pro edition)の国内第1号機が2014年1月,大阪府済生会吹田病院に導入され,高精度放射線治療システム「Novalis Tx」(ブレインラボ社製)の能力を引き出すために重要な役割を果たしている。本講演では,同院におけるRT Pro editionの稼働の実際と特長,放射線治療計画における有用性について述べる。
放射線治療計画用CTに求められる精度
放射線治療計画は現在,CT画像を用いて行われているが,最近ではMRIやPETとのフュージョン画像によるプランニングで,転移性脳腫瘍や複数病巣の治療も行われるようになっている。放射線治療を行う上で知っておかなければならないのは,target volumeの定義である(図1)。画像などで肉眼的に病変の有無が確認可能な肉眼的腫瘍体積(GTV)に対し,予防的に照射する領域も含めた臨床標的体積(CTV),呼吸などによる腫瘍の位置ズレを考慮し,インターナルマージンを含めた標的体積(ITV),複数回の照射における患者のセットアップポジションも含めた計画標的体積(PTV)があり,実際の治療ではPTVまでをきちんと照射する必要がある(図1a)。
さらに最近では,例えば図1 bのような複雑な形状にも対応する必要がある。例えば,Novalis Txのマルチリーフコリメータ(MLC)は2.5mmで,複雑な形状での高精度な照射が可能であるが,それを実施するためには非常に薄いスライスのCT画像が必要となる。また,強度変調放射線治療(IMRT),体幹部定位放射線治療(SBRT),画像誘導放射線治療(IGRT)などの高精度かつ低侵襲な治療を行うために,放射線治療計画用のCT画像にも高い精度が要求されるようになっている。
RT Pro editionの特長
RT Pro editionは,通常のFoVよりも広いエリアの画像化が可能な“HD FoV Pro”,テーブル制御の高精度化,金属アーチファクト低減画像再構成機能“MARIS”などの放射線治療計画用の機能を有する。一般的なCT装置のFoVは50cmであるが,RT Pro editionではHD FoV Proと,スキャン面内を均一にサンプリングする独自の電磁焦点偏向システム“Flying Focal Spot”により,80cmという広いガントリ開口径に一致した80cmのFoVを実現している。開口径の狭いCTでは,吸収計算区域外に物質があることに起因するアーチファクトが生じるほか,従来のFoVサイズでは適切な画像を撮影するための患者セットアップが必要となるが,Large FoVによりこれらの問題が解消される(図2)。
放射線治療計画用CTに求められる要素
放射線治療計画用CTに求められる要素として,(1) CT値-相対電子濃度変換(CT to ED)不変性,(2) 位置精度不変性,(3) target definitionに耐えうる画質,(4) 4D(呼吸同期)撮影・再構成機能の4つが挙げられるが,このうち(1)(2)(4)について,RT Pro editionでの検証結果を述べる。
1)CT to ED不変性
放射線治療の線量を計算する上で最も重要となるのが,CT to ED変換テーブルである。放射線治療計画装置において不均質を考慮した線量計算を行うには,治療計画用CT装置で得られたCT値を,水の電子濃度を基準とした相対電子濃度(Relative Electron Density:rED)に変換する必要がある。そのため,使用するCT装置は,rEDが既知であるロッドが埋め込まれたファントムを用いてCT to ED変換テーブルが正確に取得され,精度管理されていなければならない1)。RT Pro editionについて検証したところ,管電圧以外のスライス厚,ピッチ,管電流,FoVなどの要因はCT値に大きな影響を与えないことがわかった。なお,撮影モードの違いによる影響については,適切な切り替えが必要である。
2)位置精度不変性
まずFoVについて,過去に使用していた他社製CTでは,高ピッチ撮影(スライス厚:1.25mm,回転速度:1秒,ピッチ:1.375および1.75)によりオフセンター部で画像が歪む経験をしていたため(図3 a),鉛筆をアイソセンターから5cm間隔に斜めに並べて撮影し,検証を行った。その結果,RT Pro editionでは,最高ピッチ(スライス厚:0.6mm,回転速度:1秒,ピッチ:1.5)においてもオフセンター部の変形は認められなかった。また,FoV:50cmより外側ではCT値変化は見られたものの,歪みは見られなかった(図3 b)。
次に,carbon flat table-topの精度であるが,放射線治療においては患者寝台カウチシステムの歪みがないことが重要である。RT Pro editionでは,カウチ支持台の左右のブレは,撮影可能範囲内で1mm以下の精度であり,table-topの上下のブレは50cmの動きに対し1mm以下と,きわめて高精度であった。
これらの結果により,RT Pro editionは,高精度放射線治療においても安定した基礎データを取得できる精度を持つCT装置であることが確認できた。
呼吸同期4D-CTの有用性
呼吸性移動のある領域の放射線治療においては,呼吸同期撮影による4D撮影が必須である。呼吸同期画像再構成法にはAmplitude-based ReconstructionとPhase-based Reconstructionの2つがあるが,RT Pro editionはどちらの手法にも対応している。
症例1は,76歳,女性。小細胞肺癌(cT3N1M0,右下葉原発)のため化学療法が行われたが,制御不良であったため放射線治療(CBDCA+VP-16併用,60Gy/30回)が施行された。はじめに4D-CTにてITVを決定するが,4D-CTから得られる呼気相と吸気相の画像をPET画像とフュージョンすると,全相においてほぼ一致していることが認められる(図4)。ITVはすでに決定しているので,これを基にPTVを設定すれば,動きのある領域の腫瘍であっても,きわめて高精度な照射が可能となる。図5は実際の治療計画である。肺がんの場合,主腫瘍とリンパ節転移は呼吸による動きが異なるが,4D-CT画像を用い,それぞれに最適なフィールド設定が可能であり,適切な照射が可能となる。本症例は,治療1か月後の画像にて著明な腫瘍縮小が認められた。
症例2は,75歳,男性。健診にて右中肺野に腺癌(cT1aN0M0,右下葉原発)が認められたが,肺機能の低下により手術非適応となり,定位放射線治療が施行された(60Gy/8回)。本症例は,本来は動きの大きい部位の腫瘍であるが,体幹部固定用シェルを用いたことで動きが少ないことが,4D-CTにより確認された(図6)。この画像を基にITVを設定して治療計画を行い,PTVへの均一な線量投与を目的にIMRTを施行した(図7)。本症例は,治療3か月後の画像にて著明な腫瘍縮小が認められた。
症例1はconventionalな照射法,症例2はstereotacticな照射法であるが,いずれもリアルな情報を基にITVの決定が可能であった。今後は各フェーズのITVを確認し,4D-CTを用いた呼吸同期照射を実施予定である。
まとめ
RT Pro editionは,CT値および位置データの再現性・不変性,HD FoV Proによる体輪郭の描出性およびアーチファクトの低減,Flying Focal Spotによるサンプリング技術,高ピッチ撮影や4D-CTの高画質化など,いずれにおいても非常に優れた性能を有していた。
金属アーチファクト低減機能であるMARISについては検討が不十分なため言及しなかったが,金属留置部周囲のターゲットで,従来はアーチファクトのため評価できなかった病変がRT Pro editionでは確認できるため,例えば頭頸部でのIMRTに有用な可能性がある。
RT Pro editionは,高精度・低侵襲をめざす放射線治療のパートナーとして,十分な精度と機能を持つ装置であると考えている。
●参考文献
1)日本医学物理学会タスクグループ02編:X線線量計算の不均質補正法に関する医学物理ガイドライン. 医学物理,31・5,2011.