技術解説(フィリップス・ジャパン)

2024年6月号

Dual Energy CTの進化と深化

DECT技術の最新動向と将来展望

井谷 健太[(株)フィリップス・ジャパン CTモダリティセールススペシャリスト]

フィリップスでは,2016年に,従来のdual energy CTのさらに先を行く,2層検出器を搭載した「IQon Spectral CT」の販売を開始した。このCTは「Spectral is Always On」というコンセプトの下,これまでのルーチン検査を変えることなく,すべての検査においてスペクトラル画像の取得が可能となる。スペクトラル画像は,single energy CTでは取得できなかったコントラストが得られ,確信度の高い診断が可能となり,臨床現場の中でさまざまな有用性が報告されている1)
さらに,2021年に発表された「Spectral CT 7500」では,2層検出器がワイド化し,寝台設計やボア径などさまざまなハードウエアの進化を可能とした。本稿では,dual energy CT検査の現状の課題と,その課題を解決するSpectral CT 7500の技術と臨床応用について紹介する。

進化した2層検出器

すべての検査でスペクトラル画像を取得することができるSpectral CTにおいて,最も重要となる技術が「NanoPanel Prism」と呼ばれる2層検出器である(図1)
この2層検出器の大きな利点は,ミスレジストレーションのないデータ収集により,すべての症例で,レトロスペクティブに臨床的付加価値を有するスペクトラルイメージングと従来の画像診断に使用される120kVpのコンベンショナル画像を同時に取得できることである。
さらに,Spectral CT 7500では,検出器幅が8cm幅のワイドカバレッジ検出器を使用した高速撮影によって,スペクトラルイメージングに要する時間を大幅に短縮できる
特に,呼吸器疾患の症例では,撮影時間の延長が患者負担の増加や画像品質の低下につながるが,Spectral CT 7500の高速撮影により胸部の撮影時間はわずか1秒で終了し,息止め時間を短縮した検査が提供できる(図2 a)。また,胸腹部・骨盤部検査のような広範囲の検査でも,わずか2秒で検査を完遂することが可能となる(図2 b)。救急搬送された患者や緊急時の検査に対して病変を検索する目的で広範囲撮影が求められる場合にも,Spectral CT 7500の高速撮影により,患者の体動や息止め不良によるモーションアーチファクトを低減できる。
Spectral CT 7500は,2層検出器のワイド化に加えて,XY方向だけでなく,Z軸方向(体軸方向)に彎曲した球面型検出器を搭載する。さらに,検出器の上部に「2D anti-scatter grid」を装備することで,X線焦点を周期的に変えながらZ軸方向(体軸方向)への密なデータサンプリングにより,平面検出器の多列化で問題になる投影像の歪みを解決し,散乱線を効率的に削減した高精度なイメージングの実現に寄与する(図3)

図1 すべての検査でスペクトラルイメージングを可能にする2層検出器

図1 すべての検査でスペクトラルイメージングを可能にする2層検出器

 

図2 ワイドカバレッジによる高速撮影 a:胸部撮影,scan time:1s b:胸腹部・骨盤部撮影,scan time:2s

図2 ワイドカバレッジによる高速撮影
a:胸部撮影,scan time:1s
b:胸腹部・骨盤部撮影,scan time:2s

 

図3 焦点電磁偏向「Smart Focal Spot」と球面型検出器

図3 焦点電磁偏向「Smart Focal Spot」と球面型検出器

 

患者に寄り添うCT検査をサポートする基本性能

Spectral CT 7500は,高出力のX線管球を搭載し,120kVp時での最大出力は1000mAである。多様な体形の患者においても精緻なイメージングを提供することが可能となる。
ガントリボア径は,当社のCT装置では最も広い80cmの大開口径を採用している。この大きな口径は,患者の圧迫感を軽減し,多様な体形に対応する設計になっている。撮影ポジションの自由度が広がるため,救急やICUなどのさまざまな症例に対応し,スムーズな検査が可能である。
新型の寝台にも多数の検査サポート機能が搭載されている。その一つは,高速移動機能である。この機能により,これまで以上に位置決め画像から本スキャンまでの時間が大幅に短縮され,検査のスループットが向上する。また,この寝台は座面が床上43cmまで下がるため,小児や高齢者,車椅子の患者でもスムーズに乗り降りができる。寝台後方にはストレッチャやベッドの巻き込みなど,医療事故を防止する機能も搭載されている(図4)

図4 多様な患者の検査に対応した基本性能

図4 多様な患者の検査に対応した基本性能

 

スペクトラルイメージングの臨床応用例

1.仮想単色X線画像
仮想単色X線画像(MonoE)は単一エネルギーで得られる画像を仮想的に表現した画像である。従来のdual energy CTでは,仮想単色X線画像におけるkeV(エネルギー)の違いによるノイズ増加が課題であったが,フィリップスのSpectral CTでは,40〜200keVまで一定のノイズレベルで1keVごとに連続的に表現可能である。これにより,造影効果の増強(CT値の向上)を目的とした低keV画像,金属や骨からのビームハードニングの影響を抑える高keV画像での画質が向上する。造影効果の増強を目的とした低keV画像の使用により,従来では造影剤が使用できない,期待どおりの造影効果が得られないような高齢で腎機能障害のある患者であっても,非常に少ない造影剤使用量で撮影可能となった2),3)(図5)

図5 低keV画像による造影効果の増強

図5 低keV画像による造影効果の増強

 

2.カルシウム抑制画像
カルシウム抑制画像(Calcium Suppression)は,骨中のカルシウムを認識して抑制した画像を表示することができる。これまで骨挫傷の画像診断においては,CTの120 kVp従来画像では骨挫傷の領域を特定することは困難であり,MRI検査がゴールドスタンダードであった。しかし,Calcium Suppressionでカルシウムを抑制することで,新鮮な出血・浮腫を描出することが可能となり,MRIと同等の画像が得られる4)ほか,骨挫傷の画像診断ワークフローの最適化も可能になる(図6)

図6 骨挫傷(←)におけるスペクトラル画像とMR画像の比較

図6 骨挫傷()におけるスペクトラル画像とMR画像の比較

 

3.電子密度画像
電子密度画像(Electron Density)は,水の電子密度値を基準とした画像で,従来よりも画像ノイズを大幅に抑制し,非造影において新たなコントラストを表現することが可能になる。血腫など密度の異なる病変の診断を強力にサポートし,非造影検査における診断の見落とし防止に貢献する(図7)

図7 硬膜下血腫の非造影CTにおける電子密度画像による診断精度の向上

図7 硬膜下血腫の非造影CTにおける電子密度画像による診断精度の向上

 

本稿では,Spectral CT 7500の技術と臨床的有用性について解説した。Spectral CT 7500は,dual energy CTが抱える課題の克服に貢献している。2層検出器に加え,さまざまなハードウエアの進化により,多様な患者や状況に対応する機能も強化された。これらの機能を組み合わせることで,多くの施設でスペクトラル画像を活用したCT検査が実施されることを期待する。

*当社のIQon Spectral CTとの比較

販売名:スペクトラル CT 7500
医療機器認証番号:303AFBZX000420002447595
設置管理医療機器 / 特定保守管理医療機器
管理医療機器

販売名:IQon スペクトラル CT
医療機器認証番号:228ABBZX00033000
設置管理医療機器 / 特定保守管理医療機器
管理医療機器

●参考文献
1) Andersen, M.B., Ebbesen, D., Thygesen, J., et al. : Impact of spectral body imaging in patients suspected for occult cancer : A prospective study of 503 patients. Eur. Radiol., 30(10): 5539-5550, 2020.
2) Nagayama, Y., et al. : Dual-layer DECT for multiphasic hepatic CT with 50 percent iodine load : A matched-pair comparison with a 120 kVp protocol. Eur. Radiol., 28(4): 1719-1730, 2018.
3) Huang, X., et al. : The optimal monoenergetic spectral image level of coronary computed tomography(CT)angiography on a dual-layer spectral detector CT with half-dose contrast media. Quant. Imaging Med. Surg., 10(3): 592-603, 2020.
4) Neuhaus, V., et al. : Bone marrow edema in traumatic vertebral compression fractures :
Diagnostic accuracy of dual-layer detector CT using calcium suppressed images. Eur. J. Radiol., 105 : 216-220, 2018.

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