技術解説(フィリップス・ジャパン)
2016年9月号
MRI技術開発の最前線
脳神経領域のMRI最新技術の開発動向
中村 理宣((株)フィリップスエレクトロニクスジャパンMRフィールドマーケティング)
MR画像診断は,絶え間なく生み出される新しい技術により,日々進歩を続けている。撮像の高速化,高画質化,あるいは病変の検出能を高める新たな画像コントラストを生み出すことが,画像診断の進歩を考えた際の,技術開発にとっての大きなテーマであろう。
本稿では,フィリップス最新技術の開発動向と臨床応用への期待について解説する。
■CINEMA:非造影dynamic MR angiography
arterial spin labeling(以下,ASL)法は,関心臓器に血液を供給している動脈,あるいは関心血管の上流側に存在する血中プロトンを磁化的にラベリングし,灌流情報を得る手法である。ASL法の新たな応用例として注目されているのが,血流動態の把握である。灌流情報取得を目的とした場合,ラベリング後,遅延時間を設け撮像を行うが,ラベリング直後から遅延時間を変化させながらデータ収集を行うことで,血流動態を把握することが可能となる。
ASLを血流動態の観測に用いる上での課題は,取得する時相の数だけデータ収集を行う必要が生じるために,撮像時間が長くなることや,末梢血管の描出不良であった。この課題を克服すべく,われわれは,一連のデータ収集を効率的に行うためのパルスシーケンス,“CINEMA(Contrast inherent INflow Enhanced Multiphase Angiography)”を開発した(図1)。CINEMAは,ラベリング後に異なる時相情報を連続的に収集するlook-lockerデータサンプリングスキームを取り入れることで,撮像時間の大幅な短縮,また,データ収集効率を上げ末梢血管の描出能向上を実現した。
CINEMAは,すでに頸動脈狭窄,arteriovenous malformation(AVM),あるいはdural arteriovenous fistulas(DAVF)症例に応用され,有用性が報告されている。
また,目的血管のみをラベリングすることで選択的dynamic MR angiographyを得ることができる。血管支配に対応する領域的な情報は,閉塞性疾患における側副血行路の確認あるいは脳組織のバイアビリティの評価にとって重要であり,血流動態評価に加えて側副血行路の解剖学情報が得られる。
今後,非造影で血流動態情報が得られるCINEMAの臨床応用が広がっていくことを期待している。
■iMSDE:black blood imagingの新しいコンセプト
MRI検査の中で,血液信号を抑制する技術black blood imaging(以下,BBI)は,主に病変部位の描出能を向上する目的で使用される。
BBI技術の一つである“MSDE(motion-sensitized driven-equilibrium)”は,傾斜磁場を用いて血液スピンの位相分散を引き起こし,信号を抑制する手法として開発された。
しかし,MSDEで課題となるのが,磁場(B0)の不均一性,RF(B1)の不均一性,そして渦電流の影響をいかに抑えるか,ということである。この問題を解決する方法として,新しいシーケンスデザインである“iMSDE(improved MSDE)”を開発した。
図2にiMSDEのパルスデザインを示す。従来法は,単一の180°パルスの前後に傾斜磁場を印加しているのに対して,iMSDEでは180°パルスの位相を逆にして2回照射し,その前後に符号を逆にした傾斜磁場(bipolar gradient)を繰り返し印加している。180°パルスの位相を逆にして2回照射するのは,Michael-Levitt(MLEV)パルスと呼ばれるデザインで,B0やB1の不均一に伴う励起プロファイルの不均一を軽減する効果がある。傾斜磁場をbipolarにする理由は,連続的に符号を逆転させて傾斜磁場を印加することによって,おのおのの傾斜磁場に伴って発生する渦電流の符号も反転するため,相殺効果によって渦電流の影響を軽減できるからである。また,これら一連のプレパレーションスキームの前にもbipolar gradientを挿入しており,残存する渦電流の影響を軽減する効果が得られる。図3は,造影前後にiMSDE併用BBIを施行した破裂動脈瘤症例である。図3→で示した動脈瘤壁において,造影後に顕著な造影増強効果が認められる。この効果を利用することにより,多発動脈症例における破裂動脈瘤の特定や,破裂動脈瘤における破裂点の推定などでの有用性が示唆されている。
iMSDEは,既存のシーケンスデザインと組み合わせてもほとんど撮像時間の延長なく,血流抑制効果が得られる。その簡便さにより,頭頸部領域を中心に多くの臨床応用が可能となっている。日常ルーチン検査のさまざまな場面で,このプレパレーションパルスが応用されることを期待している。
■3D SHINKEI:高分解能MR neurography
MR neurographyを得るための方法として,これまで,diffusion weighted echo planar imaging(以下,DW-EPI)や3D short tau inversion recovery turbo spin echo(STIR-TSE)が報告されている。近年われわれは,神経叢イメージングのための新しいアプローチとして,“3D SHINKEI(3D nerve-SHeath signal increased with INKed rest-tissue RARE Imaging)”を開発した。
3D SHINKEIは3D高速スピンエコー(VRFA-TSE)T2強調画像をベースに,末梢神経の周囲に存在する骨や脂肪組織からの信号を抑制するための選択的脂肪抑制パルス,さらに動脈や静脈などの血管信号を抑制するために前述したiMSDEパルスを付加している。さらに,iMSDEパルスの基本構造がT2 preparationパルスであることを利用し,比較的T2値の短い筋肉組織からの信号を抑制するような印加時間を採用する。結果として,末梢神経以外の背景信号を抑制し,神経を選択的に描出することが可能となる(図4)。
3D SHINKEIによるMR neurographyには多くのメリットがある。まず,3D撮像であるため神経の⾛行が選択的かつ三次元的に把握できる。また,DW-EPIと比較し,⾼分解能画像が歪みなく得られる。さらには,ベースがT2強調画像であるため,炎症に伴う浮腫性変化や腫瘍など,自由水が増加する病態が異常高信号を示し,さらに神経に付随する筋組織の異常も明瞭に描出することが可能である。
図5はL5椎間孔外狭窄への応用例である。3D SHINKEI画像では,変性椎間板によるL5側方圧迫が明瞭に観察可能である。また,絞扼部位(図5←)の近位・遠位部の神経が腫大し高信号を呈している。これは,変性や浮腫を反映していると考えられている。
3D SHINKEIは,神経絞扼の存在あるいは除外診断,外傷による神経障害の評価びまん性炎症性障害における炎症部位の評価,および腫瘍と神経との位置関係,浸潤の有無,多発性病変の拾い上げなどに対して臨床評価が行われており,これまで評価困難であった神経障害の形態と病態を評価できる新しい技術であり,今後の臨床応用が期待される。
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脳神経領域において近年関心を集めている撮像技術について,フィリップスの開発動向と臨床応用について解説した。今後,さらなる臨床応用の発展を期待する。
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