技術解説(フィリップス・ジャパン)

2015年12月号

Nuclear Medicine Today 2015 ハードウエアの最新技術紹介

「Ingenuity TF PET/CT」の深化─さらなる定量性の獲得をめざして

「Ingenuity TF PET/CT」は,フィリップスが世界で初めて商用PETスキャナに搭載したtime-of-flight(TOF)技術をさらに進化させた“Astonish TF”による高感度・高分解能PET装置,逐次近似応用画像再構成“iDose4”と金属アーチファクト低減再構成“O-MAR”を実装した診断用128スライスCT装置を次世代インターフェイス“iPatient”で統合した,まったく新しいハイブリッドモダリティシステムのフラッグシップモデルである。

■xPand5(エクスパンドファイブ)について

PET装置では,定量性担保のため種々の補正技術が考案され,日進月歩でPET装置への応用・搭載が行われている。“定量”はPET検査における代名詞になりつつあり,画像診断装置でありながら,時として“画質”以上に重要視されることも少なくない。
xPand5は2015年6月,米国のSociety of Nuclear Medicine and Molecular Imaging(SNMMI)で発表したIngenuity TF PET/CTの定量性に関する最新コンセプトであり,xClean,xSharp,xFine,xCount,xCalibrateという特長的な5つの柱(図1)を有する。
xCleanは,現在広く用いられている散乱線補正法であるSingle Scatter Simulation(SSS)with tail-fitting法とMonte Carlo(MC)Simulation法を組み合わせたハイブリッド型散乱線補正技術である1)図2)。カウントが高集積になり,想定したモデルとの乖離により生じるアーチファクト,特に心臓や膀胱近傍の画質改善に効果が期待され,昨今は15OガスPET検査での有用性も報告されている2)。xSharpは,point spread function(PSF)法に代表されるスライス面内分解能補正技術3)であり,xFineでは“Astonish TF”の高速化により,ルーチン使用の難しかった全身用2mmスライス厚画像再構成4)を達成した。xFineはxSharpと併用することで,部分容積効果の影響を抑制し,微細な集積を高精度かつ鋭敏に検出しうる(図3)。xCountでは,低カウントから高カウントまでの直線性の改善を主軸とした計数率特性3)を刷新した。これにより,ダイナミック検査時の定量性向上だけでなく,幅広い核種と放射能濃度における検査を強固にサポートする(図4)。xCalibrateでは,PET装置の幾何学的な補正,アライメント調整,検出器のノーマライゼーションからシステム時刻調整までを包括的にサポートし,定量性の安定化と再現性の最適化を行う。また,EARL criteriaなどの国際多施設共同研究向けプロトコールや各種ガイドライン準拠へも積極的に参画していく。

図1 xPand5の概念図

図1 xPand5の概念図

 

図2 従来法(a,c)とxClean(b,d)による画像比較

図2 従来法(a,c)とxClean(b,d)による画像比較
従来法では散乱線に伴うアーチファクトの影響で肝上縁に広範囲なデータ欠損が出現しているが,xCleanではアーチファクトの抑制効果を認める。

 

図3 同一生データから画像再構成された画像比較

図3 同一生データから画像再構成された画像比較
a,dはオリジナルとなる4mmスライス厚画像,b,eはxFineを使用,c,fはxFineとxSharpを併用。

 

図4 循環器PET検査の一例

図4 循環器PET検査の一例
18F-FDGの集積(a),13N-ammoniaの集積(b),82Rb-chlorideによるパフュージョン解析の例(c)。

 

分子イメージング画像診断に求められる役割は多岐にわたり,微細病変の早期発見〜確定診断とフォローアップ,治療効果予測と判定,将来のリスク診断としての生体バイオマーカーとしての役割や未知の病態解明や治療(Theranostics)に期待が集まっている。フィリップスは,先進融合画像でこれらの期待へ応えるべく,高画質・低侵襲かつ優れた定量性を追究した装置開発を行っていく。

●参考文献
1)Ye, J., et al. : Scatter correction with combined Single-Scatter Simulation and Monte Carlo Simulation for 3D PET. IEEE NSS MIC Conf. Proc., M32-6, 1014, 2015.
2)Magota, K., et al. : Single scatter simulation with Monte Carlo scaling improved 15O-gas-inhalation brain PET imaging. J. Nucl. Med., 56(suppl. 3), 1834, 2015.
3)Kolthammer, J.A., et al. : Performance evaluation of the Ingenuity TF PET/CT scanner with a focus on high count-rate conditions. Phys. Med. Biol., 59, 3843〜3859, 2014.
4)Koopman, D., et al. : Improving the detection of small lesions using a state-of-the-art time-of-flight PET/CT system and small-voxel reconstructions. J. Nucl. Med. Technol., 43, 21〜27, 2015.

 

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