技術解説(フィリップス・ジャパン)
2015年9月号
MRI技術開発の最前線
In-Bore Experience & R5.2 New Application─MRIが魅せる新しい世界
重見 和紀((株)フィリップスエレクトロニクスジャパン MRモダリティスペシャリスト)
日本社会における高齢化に伴い,MRI検査を受ける患者に占める中高年齢層の割合が大きくなりつつある。決して快適とは言えない環境の下,患者は長時間にわたる静止や息止めを求められ,その負担は決して少なくない。アーチファクトによる再撮像は検査時間を延長させ,患者の負担をより大きくする一因となっている。こういった背景の中,検査中の患者の負担をより軽減する機能や,アーチファクトを抑制し短時間により多くの臨床情報を得る撮像機能へのニーズが高まっている。そこで本稿では,患者の検査環境に対するアプローチとして「In-Bore Experience」と,確かな臨床情報へのアプローチとして“R5.2”というソフトウエアバージョンから搭載が可能となるアプリケーションを解説する。
■In-Bore Experience
In-Bore Experienceはフィリップスが提案する,MRI装置に映像と音楽を融合させた検査環境に対する新しいソリューションである。このソリューションは,映像や音楽の鑑賞,オートガイダンス,静音化の3つの機構からなる。以下にそれらを解説する。
1.映像や音楽の鑑賞
In-Bore Experienceは,MRI検査中にボアの中で映像と音楽を鑑賞可能なことが最も大きな特長である。ミラースクリーンを通して検査室壁面に埋め込まれた液晶モニタの映像を,ボアの中にいながらでも見ることができる。また,その映像とともに,ヘッドフォンを通じてさまざまな音楽を楽しむことが可能である(図1)。これらの映像や音楽,さらに照明までもが10種類以上の統一されたテーマに連動しており,検査室の入室前に患者自身が好みのコンテンツをタッチパネルで選択することが可能である。これらの映像音響効果により検査に対する不安を和らげ,リラックスした状態で検査が受けられるように設計されたシステムである。また,このシステムを採用することで,従来目の前にあったガントリ内壁による圧迫感がなくなり,ガントリ内外での景観の差が少ないことから,閉所恐怖症の患者にも検査の適応が広がると考えられる。
2.オートガイダンス
オートガイダンス機能“AutoVoice”では,従来の息止めの掛け声はもちろん,テーブル移動時の静止の指示や残りの検査時間など,検査に対する不安を和らげるアナウンスが可能なことが大きな特長である。これらはプリセットで登録されており,31の言語で再生が可能なことから,日本語が通じない患者にも適応範囲が広がると考えられる。プリセットだけでなく録音機能も有しており,病院ごとのニーズにも応えることができる。これらすべての音声をあらかじめ撮像のプロトコールに登録しておくことで,検査効率を高めながらも患者には安心して検査を受けていただくことが可能になる。
3.静音化
MRI検査中に発生する音を軽減する機能として,新しく“ComforTone”が搭載されている。ComforToneは位置決め画像やリファレンススキャンをはじめとしてすべてのシーケンスに対応する静音化機能で,一連の検査を通して最大80%の検査音ノイズを低減することができる。原理としてはgradient wave formを可変させる手法を用いており,コントラストごとにそれぞれ最適なformを採用することによって画質や撮像時間のトレードオフを最小限にし,最大限の静音効果が得られるように設計されている。
これらの機構によって,患者はリラックスした環境で検査が受けられるほか,検査時の不安と,それにより発生する不意の挙動によるアーチファクトのための再撮像を低減し,検査効率を向上させる効果が期待できる。
■R5.2より搭載が可能となる新しいアプリケーション
臨床に対する新しいアプローチとして,最新のソフトウエアバージョンであるR5.2より搭載可能なアプリケーションが多く登場した。その中から,広く応用が可能で,日常診療に役立つアプリケーションのいくつかを以下に紹介する。
1.“mDIXON XD”
mDIXON XDは,従来のmDIXON法に採用されていた2フレキシブルTEに加え,7ピークファットモデルや3D B0コレクションといったアルゴリズムを搭載した,新しいDIXON法である。従来のmDIXON法では,任意に設定した2つのTEから正確な水脂肪分離を可能にする2フレキシブルTEの技術を用いて,TRやマトリックスの制限を緩和し,より広い臨床への応用を可能にしていた。mDIXON XDでは,さらに7ピークファットモデルというアルゴリズムを採用している。7ピークファットモデルとは,従来の脂肪のメインピークのみならず,周波数の異なる6つのサブピークを考慮した7つの脂肪ピークでDIXON法の水脂肪分離を行う技術である。正確な水脂肪分離が行えるほか,より高い脂肪抑制効果が期待できる(図2)。また,磁場不均一の補正に関しては,従来法では本スキャンからの位相のシフト量からB0フィールドマップを作成し,補正を行っていた。mDIXON XDでは,本スキャンからの位相のシフト量のみならず,装置ごとに固有のB0マップの情報をも組み合わせて補正を行う3D B0コレクションを採用している。この技術によって,大きなFOVを使用した場合でも,ストップバンドアーチファクトや水脂肪の反転アーチファクトを抑制した撮像が可能である(図3)。これらの技術によって広範囲のFOVや高分解能な撮像が可能になり,TSE法,FFE法,TFE法,各種生体情報同期法や体動補正技術とも併用が可能なことから,全身さまざまな領域での応用が可能になった。特に,心電同期を用いる循環器領域においては,冠動脈撮像や遅延造影に今後の応用が期待される。
2.“O-MAR”
O-MARは生体内金属によるアーチファクトを低減し,診断能を向上させるアプリケーションである。チタンやコバルト合金など比較的弱い磁性体に関しては,広いバンド幅などを用いて金属アーチファクト抑制に最適化したシーケンス(Metal Artifact Reduction Sequence:MARS)を用いているが,O-MARはMARSで十分にアーチファクトを抑制することができない,ステンレスのような強い磁性体に対して用いることを目的としている。O-MARは大きく2つの技術からなり,特に面内のアーチファクトに関しては“VAT”,スライス方向のアーチファクトに関しては“SEMAC”というアルゴリズムをそれぞれ選択することができる。VATとSEMACを組み合わせるような設定も可能で,金属アーチファクトの抑制効果を3段階(weak,medium,strong)から選択できることから,さまざまな素材の金属アーチファクトの抑制を可能にしている(図4)。
■今後の発展への期待
MRIにおける検査環境の改善は,検査の質や効率の観点からも需要が高まりつつある。今回解説したIn-Bore Experienceは,映像や音楽という新たなアプローチでそれを可能にした。また,R5.2のアプリケーションは,限られた時間でより確かな生体情報を得ることができる。これらの機能が臨床に広く応用され,負担のない確かな画像診断の一助となることを期待したい。
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