技術解説(フィリップス・ジャパン)
2013年9月号
Step up MRI 2013-MRI技術開発の最前線
フィリップスMRI 2013最新情報
儀間 清昭(ヘルスケア事業部)
■高い評価を獲得したIngenia
2011年に販売を開始した「Ingenia 1.5T」および「Ingenia 3.0T」は,MRI唯一のデジタルコイル搭載機種として,高いご評価をいただいている。デジタルコイルの高い信号雑音比(SNR)による信号収集は,高分解能撮像や撮像時間の短縮に寄与している。また,デジタルコイル特有の,光ファイバーを搭載したコイルコネクタ(図1)の受信チャンネル数には制限がなく,チャンネル拡張性が高い装置として注目されている。
Ingeniaは,海外でも同様に高い評価を得ている。アメリカの医療系独立調査機関KLASのLatest MR Reportにおいて,Ingenia 1.5Tは,2012年のNo.1にランクされた。また,2013年においては,Ingenia 1.5TおよびIngenia 3.0Tが共にNo.1にランクされた。
■dS SENSE:進化を遂げたSENSE
Ingeniaシステムから搭載がスタートしている,デジタルコイルを用いた改良型パラレルイメージングを“dS SENSE”と言う。dS SENSEは,デジタルコイルの特性を生かして従来のSENSEをさらに進化させたものである。
dS SENSEでは,従来のSENSEに比べて,g factorの影響によるSNRの低下を最小限に抑えることができる。また,従来のSENSEでは患者の動きの影響により,コイル表面の高信号領域の展開エラーが目立つケースがあったため,コイルと被写体の間にスペーサーを入れていた。しかし,dS SENSEでは,スペーサーを用いなくても展開エラーが目立たなくなっている。結果的に,従来に比べ,高いSENSE factorが使用しやすくなっている。このアルゴリズムの改良を実現したのは,dual-calibration reference scanによる事前情報の取得である。検査開始時に数秒のcoil survey scanを行うことで,それぞれのエレメントが拾い上げるノイズレベルの把握を行う。
ちなみに,デジタルコイルは最大187dBという広いダイナミックレンジを持つ。ダイナミックレンジを広くして撮像できることにより,MR信号の高周波成分とノイズの分離をより正確に行うことができる(図2)。また,撮像データを収集する前に,こちらも数秒でリファレンススキャンを行い,コイル感度を把握する。この時,coil survey scanで得られたデータと合わせ,g factorをあらかじめ計算することができる。これらのプロセスでは,キャリブレーションを実スキャンに組み込まず,プリスキャンとして行う必要がある。デジタルコイルのSNRの高さを生かすことで,短時間(数秒×2回)に有効な情報を取得し,その情報を生かした新しいSENSEアルゴリズムを実現できた。
高速なdual-calibration reference scanで得られたデータは,SENSE factorの向上やリコンのスピードアップにも利用されることになり,さらに検査を加速することになる。
■SmartSelectによる検査の質向上/新たな主力機種,Multiva1.5Tの登場
Ingeniaが評価されるひとつの特徴として,その操作性も挙げられる。特に,指定した撮像領域のSNRを最大化するため,自動的にコイルエレメント設定をする“SmartSelect機能”は,簡便かつ画質に妥協しない技術として,ユーザーに喜んでいただいている技術である。
さて,このSmartSelectなど,Ingeniaと同じ最新撮像アプリケーションを有する新たな主力機種として,2013年には「Multiva1.5T」の販売を開始した。
■SmartSelect, New Coil Concept, Direct Digital Sampling
─ワークフローと画質の両方を追究するMultiva1.5T
SmartSelect機能を搭載したMultiva1.5Tは,ワークフローを追究するMRIとして開発された。軽量化された腹部用コイルは,脊椎用コイルと組み合わせて使用することができ,検査時のコイルセッティングにおいても,ワークフローの向上に貢献する(図3)。
パラレルイメージングは,最大16倍速まで対応することができる。弊社の多様なパラメータ設定と組み合わせることで,画質を最大限保ったまま,例えば頭部,体幹部,四肢関節のルーチン検査を10分に短縮することも可能である。
また,受信したMR信号にフィルタ処理を行わず,直接的にデジタル変換をする“Direct Digital Sampling技術”を搭載している。これにより,高いSNRでの撮像を実現する。最大バンド幅は3MHzと,高分解能撮像にも対応できる。
さらに,磁場均一性は,50cm×50cm×45cmの範囲において0.5ppmであり,最大53cmのFOVに対応することができる。また,最大FOVにおける直線性誤差が1.4%を誇る新しい傾斜磁場“Galaxy Gradient”は,歪みを軽減した広範囲撮像を可能とする。
Multiva1.5Tは,ワークフローというコンセプトに主に重点を置いて開発された機種だが,ここで示したように,ハードウエアの性能も充実しており,高画質を求めるMRIとしても利用されるべきである。また,フィリップスMRIの伝統であるパラメータの多様性も兼ね備え,今後,長きにわたって,さまざまな検査シーンに利用していただける機種であると考えている。
■Imaging2.0の充実
フィリップスでは,2010年より“Imaging2.0”を打ち出し,“Clinical Integration & Collaboration”“Patient Focus”“Improved Economic Value”の3つのコンセプトを柱として,画像診断装置の開発を続けている。MRIにおいては,IngeniaやMultivaはこれらのコンセプトを体現する機種として,医療現場の一助となっている。また,Imaging2.0以前に販売を開始したAchievaも,Imaging2.0をユーザーに体験していただけるよう,開発が続けられている。さらに,3番目のImproved Economic Valueをもたらすものとして,最新版へのアップグレードパスがある。装置の機能を拡張して長くお使いいただけるが,これはImaging2.0以前から実現している。
さて,Imaging2.0の1つの柱である,Clinical Integration & Collaborationは,ユーザーとの連携,および異なるモダリティ間の連携を行うものである。これを実現するものとして,新しいワークステーションである“Intelli-Space Portal(ISP)”が2010年に開発された。ISPは,MRIやCT,PETといった画像診断機器で得られるデータを,1台のワークステーション上で診断,解析を行えるものである。また,thin client serverとして構成することもでき,タブレット型PCなどからも解析アプリケーションにアクセスすることが可能である。
このISPも,急速に進化をしている。それに伴い,MRIに関連する解析ソフトウエアも増えている。
“TumorTracking”は,腫瘍の体積やADC値の経過をデータ解析するソフトウエアである。ADC値の解析では,病変部を指定すると自動的にその輪郭をボリュームでトレースし,ADC値の分布をヒストグラムで表示することができる(図4)。
“MR Cartilage Assessment”は,膝関節のT2値を解析するソフトウエアである。解析時は,軟骨や半月板をセグメント分けし,それぞれのT2値分布をグラフに表示することができる。
“MR Permeability”のカラー解析も行うことができる。arterial input function(AIF)は,マニュアルで選択することも可能である。
■MRIモダリティとしての深化:アプリケーションの充実
ソフトウエアが充実してきたのは,ISPにとどまらない。MRI本体においても,臨床で役立つ最新のソフトウエアが搭載できるようになった。
“mDIXON Quant”は,DIXON法を用いた脂肪含有率評価ソフトウエアである(図5)。6 point-DIXON法を用いることで,磁化率の測定への影響を除去して評価することができる。
“mDIXON TSE”は,首など,脂肪抑制が効きにくい部位の脂肪抑制画像の撮像に有用である。
また,従来のマルチスライス・マルチフェーズASLに加え,よりSNRの大きいpCASLも撮像できるようになった。
SWIpは,位相マスク処理により磁化率を強調し,頭部の静脈や出血,石灰化などを描出することができる。
以上,フィリップスMRIの最新技術情報を紹介した。デジタルコイルをはじめとするハードウエアはもちろん,ソフトウエアの拡充も,さらに加速度的に進めていく予定である。
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