技術解説(フィリップス・ジャパン)
2012年9月号
Step up MRI 2012-MRI技術開発の最前線
“Smart Assist(スマートアシスト)”で変わり始めたMRI検査の裏側
松本淳也(ヘルスケア事業部 マーケティング本部モダリティスペシャリストMR)
小原 真(ヘルスケア事業部 マーケティング本部クリニカルサイエンスMR)
福間由紀子/加藤 裕(ヘルスケア事業部 CS & オペレーション本部アプリケーションサポートMR)
本稿では,新世代デジタルMRI「Ingenia 1.5T/3.0T」に搭載されている“Smart Assist”について紹介する。Smart Assistとは,フィリップスが新しく提案する検査アシスト機能の総称であり,“Smart”と名付けられているように,従来よりも一歩進んだ“賢い”検査アシスト機能である。今回はSmart Assistの中でも特徴的な2つの機能である“Smart Exam Breast”と“Smart Select”について紹介することにする。
●Smart Exam Breast(オプション)
乳房領域の検査は,その形態において個人差が大きく,常に安定した画像を得ることは,非常に難しいとされてきた。この問題を解決する技術が,Smart Exam Breastである。Smart Exam Breastでは,個々人で異なる乳房の三次元的な形態や解剖情報を撮像前に装置が自動認識し,その情報を基に,スライス位置を自動で決定し,撮像プロトコルを実施する(図1)。また,自動認識された乳房領域に限局した静磁場シミングも自動的に行われる(図2)。この技術により,常に安定した均一な脂肪抑制画像が得られるようになった。従来は,シミングの位置や範囲の設定に迷ったり,脂肪抑制不良や信号の不均一が生じた場合には,シミングの設定を変えて,撮像をやり直すということもあったが,Smart Exam Breastではそのような術者の操作が必要なくなる。3.0T MRIでも,マルチトランスミットとSmart Exam Breastを併用することで,常に安定した乳房の撮像を行うことができるようになった(図3)。
●Smart Select(標準装備)
現在のRF受信コイルは,多エレメント多チャンネル化が主流であり,広範囲のカバレッジと高SNRをその特長としている。コイルにADCを内蔵したデジタルコイルは,その最新技術である。しかし,特に広範囲のカバレッジを持つコイルは,そのすべてのエレメントを使用する場合もあるが,それぞれの撮像に合わせて,最適なコイルエレメントの組み合わせで撮像することが,最高の画質を得る上で,重要な要素の1つとなっている。不必要に多くのエレメントからの信号を受信しても,FOV外のノイズを拾ってしまい,SNRの低下やアーチファクトの発生などの画質低下を招いてしまうからである。このような理由から,従来もコイルエレメントの自動選択機能は存在したが,その選択は,単に撮像部位ごとに,あらかじめ決められたプリセットを適用するなどの簡易的なものであり,個々の撮像ごとにFOVから最大SNRが得られるように最適化されたものではなかった。Smart Selectでは,それぞれの検査,それぞれの撮像において,設定FOVでのSNRが最大になるように,エレメントの組み合わせが自動で決定される(図4)。一律のパターン選択ではなく,それぞれの状況に合わせて装置側が個別に,どのエレメントの組み合わせを使用するのか“賢い選択”をしてくれるのである。もう少し具体的にSmart Selectの概念を解説していこう。図5は体軸方向に70cmのTorso Coilを使用して,肩関節の撮像を行う場合のコイルエレメントの選択の例を示している。この場合,通常はマニュアルでエレメントの組み合わせを選択することになるが,肩関節のアンテリア側の4エレメントとポステリア側の4エレメントの組み合わせが妥当な選択であると思われる。しかし,Smart Selectを使用すると,経験則や感覚的なマニュアル設定とは異なり,装置側がFOVの位置,大きさ,断面の方向に合わせて,最大SNRとなるエレメントの組み合わせを自動的に算出し,設定してくれる。Smart Selectで得られた実際の肩関節の画像を,参考までに図6に示しておく。Smart Selectのアシスト機能のおかげで,画質追究のためのコイルエレメントの最適な組み合わせについて考える必要はなくなった。装置が自動で,高画質のために個別対応してくれるのである。なお,関節専用コイルや局所撮像用のフレックスタイプのコイルもラインナップされている(図7)ので,特に関節領域を専門としている施設では,さまざまな状況に合わせた最適な運用をしていただくことが可能となる。
今回はSmart Assist機能の中から特徴的で,比較的新しい2つの技術を紹介した。どちらの技術も,単にプロシジャーが自動化されているだけではなく,装置側が,個人差を考慮した個別対応の設定をしてくれるというところが画期的である。シミングや,エレメント選択などの撮像時の設定は,撮像技術としてはあまり目立たない部分ではあるかもしれないが,得られる結果や,検査プロセスの改善には非常に重要な要素であり,その設定には経験や技術的ノウハウが必要であった。しかし,Smart Assist機能の出現によって,それらの最適化を装置側で自動的にできるようになり,MRI検査が徐々に変わり始めている。ルーチン検査の"賢いアシスタント"として,Smart Assist機能をぜひ,活用していただきたい。
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