Innovation Challenge(フィリップス・ジャパン)

2024年7月号

イノベーションで医療課題の解決に挑むフィリップスのグローバル戦略 AI導入に積極的な課題先進国・日本市場の重要性

イノベーションにより医療現場が抱える課題の解決をめざすフィリップスは,近年,課題先進国である日本市場を重視し,コミットメントを深めている。4月に開催されたITEM 2024にはオランダ本社(Royal Philips)から多くのエグゼクティブが来日し,国内の状況を視察した。課題が山積する医療に対して,フィリップスはどのような戦略で挑むのか。画像診断のグローバル戦略や日本の位置づけ,そしてITEM 2024で発表した新製品について,Royal Philipsとフィリップス・ジャパンの画像診断部門のリーダーにインタビューした。

画像診断における3つの戦略

画像診断における3つの戦略

 

AIを積極活用し,世界共通の課題の解決に挑む日本はフィリップスにとって重要なマーケット
サンドル ヴェルスペーク 氏(Head of Growth Region, Imaging, PD, Royal Philips)

サンドル ヴェルスペーク 氏

 

3つの戦略のもと,AIを活用したポートフォリオを構築

フィリップスのすべての行動の中心にあるのは,お客様のニーズに焦点を当てた有意義なイノベーションです。MRとCTを中心にポートフォリオを構築している画像診断領域においては,「患者アウトカムの改善」「ワークフローの最適化」「長期にわたる経済的メリット」の3つを戦略の柱に据えて,取り組みを進めています。
世界中の画像診断にかかわる医療現場では,医療従事者の不足,モダリティから発生するデータの爆発的な増大,非効率なワークフロー,医療コストの増加という共通の課題に直面しています。これらを解決するカギとなるのがAIです。フィリップスのポートフォリオには,すでに多くのAIが組み込まれています。

課題先進国・日本の重要性

われわれの市場調査によると,日本の病院経営者や医療従事者は,諸外国と比べてAIやオンライン診療などのクラウドソリューションに高い関心を持っており,実際に臨床的な意思決定や診断支援,患者のアウトカム改善,ワークフロー改善のためにそれらを積極的に採用しています。高齢化が急速に進む日本は,医療課題の解決に向けて先駆的に取り組む課題先進国であり,われわれにとって非常に重要なマーケットです。フィリップスは以前から日本に対して深くコミットしており,診断・治療,コネクテッドケア,パーソナルヘルスの各領域でマーケットをリードしてきました。これは,モダリティそのものの商品力の高さに加え,プラットフォーム,インフォマティクス,サービスを統合し,総合的に価値を提供するという戦略が功を奏していると考えます。
AIやクラウドソリューションを活用して3つの戦略を実行していくことが,医療現場の生産性を向上させ,患者へのよりよいケアにつながります。フィリップスのイノベーションは,日本の医療現場が求める要件に合致するものです。これからも日本市場を注視しつつ,課題解決に寄与する先進のソリューションを提供し続けていきます。

すべてのステップへのAI導入やヘリウムフリーでイノベーションをリードするMRソリューション
ルード ズヴェリンク 氏(Business Leader MR-DXR-OEM, Royal Philips)

ルード ズヴェリンク 氏

 

戦略実現をめざしたMRソリューションの取り組み

MRソリューションでは,「患者アウトカムの改善」「ワークフローの最適化」「長期にわたる経済的メリット」の各ステップにおいてAIが重要な役割を果たしています。
「患者アウトカムの改善」では,一度の検査で確度の高い診断を行える画像診断を推進する「First Time Right」がコンセプトです。AIを活用した高速撮像技術「SmartSpeed」や定量イメージング「SmartQuant」によるFirst Time Rightの推進,そして後処理からレポーティングまでをAIが支援する「Smart Reading」により患者アウトカムを向上させます。また,スタッフ不足とデータ増大により求められている生産性の向上を可能にするのが「ワークフローの最適化」です。患者セッティングやプランニング,スキャンの自動化,AIによる呼吸波形検知システム「VitalEye」などからなる「Smart Workflow」により,患者とスタッフを中心に据えた効率的なワークフローを構築することができます。「長期にわたる経済的メリット」においては,多くのAIモデルを活用することで,システムの耐用年数全体にわたってパフォーマンスを最大化します。ダウンタイムを最小化する「EasySwitch Solution」や,AI遠隔モニタリングとメンテナンスサービス,システムの運用管理を最適化するマネージドサービス,さらに,導入後も常に最新の状態で使用できる「Technology Maximizer」プログラムを用意しています。このように,MRソリューションのあらゆるところにAIが適用されているのです。

パイオニアとしての誇りを持ちイノベーションをリードする

また,MRに関しては,ヘリウムフリーというイノベーションを起こしたパイオニアであるという自負があります。世界のヘリウム消費の約20%がMRI関連である中*1,従来マグネットの0.5%未満のヘリウムで超電導状態を維持できる「BlueSealマグネット」は,ガソリン車が電気自動車に変わるようなインパクトを業界にもたらしました。すでにグローバルで1000台以上のヘリウムフリーシステムが導入されており*2,マーケットをリードしています。ほかにも,MRの新しいドメインとなる多核種イメージング対応の3.0T装置「MR 7700」も上市しました。われわれはヘルスケアにインパクトをもたらし,意味あるイノベーションを生み出すことをめざしており,それが医療課題を解決し,よりよい価値を提供するものと確信しています。

ソフトウエアにより性能を大きく引き上げたCTシステム「CT 5300」を日本市場に投入
アリ ウッド 氏(Business Leader CT, Growth Region, Royal Philips)

アリ ウッド 氏

 

ITEM 2024で初披露した新製品の「CT 5300」は,特に日本の医療現場で求められるコンパクトさや省電力といった要件に応えるハードウエア設計であるとともに,ソフトウエアによってパフォーマンスを大きく向上させたシステムとなります。CT 5300では,AI画像再構成「Precise Image」により80%の被ばく低減を実現し,同時にノイズの85%低減,低コントラスト検出能の60%改善を達成しました*3。AIによりワークフローも強化し,患者の位置決めなどを自動化することで効率性を高め,少ないスタッフでもよりよい患者体験を提供できるようになっています。また,CTの買い換え年数が延びる中でもシステムを安定稼働させるために,高耐久性のX線管球を搭載するほか,費用負担なしでの管球交換を保証する「Tube for Life」プログラムやTechnology Maximizerプログラムを提供します。
省電力など日本のニーズに応える製品がグローバルにもベネフィットをもたらしますが,逆もまたしかりです。オーストラリアで展開しているモバイルCTでは,開発において振動テストが繰り返されましたが,そのデータは地震活動の多い日本でのCT運用にも役立っています。また,モバイルCTのリモートオペレーションがベースの「CT Collaboration Live」がCT 5300に搭載され,日本でニーズの高まるへき地医療での活用も期待されます。グローバルな事業展開を強みに,これからも患者により良いケアを提供できるイノベーションを起こし,日本の医療現場に貢献していきます。

日本の医療現場の知見や技術を取り入れた新たなイノベーションを世界へ発信,そして製品化へ
門原 寛 氏(フィリップス・ジャパン プレシジョンダイアグノシス事業部 事業部長)

門原 寛 氏

 

「SmartSpeed AI」は,高速化と高画質化を実現した次世代のAIの画像再構成技術です。この製品の販売の数年前から,日本で優先的に製品の改善点や問題点を洗い出すため,日本の医療現場にヒアリングを行い,製品の実用化に至りました。日本の医療現場からのフィードバックをベースに開発された製品は世界でも認められ,日本発の知見や技術はグローバルからも注目されています。
そして,今回ITEMで新たに紹介された「AV-TRANCE」は日本で生まれた技術で,世界で販売される製品になります。この開発の背景には,もともと日本では高い需要があった非造影MRAのニーズが,最近では世界的にも高まったことがあります。特に小児において繰り返しの造影剤投与が問題になっていたため,国内の複数サイトと米国の小児病院とのコラボレーションを行った結果,小児血管検査において不可欠な撮像法だと絶大な評価を得られたことで,今回の製品化に至りました。
今後もさらに日本の医療現場のニーズを理解し,グローバルの開発チームと日本の知見をベースに製品開発に取り組んでいく計画です。

(2024年4月12日取材)

*1 JR Campbell & Associates; USGS.
*2 2024年4月時点の全世界のヘリウムフリーマグネットの稼働台数
*3 臨床の現場では,Precise Imageを使用することで,臨床タスク,患者の体格,解剖学的部位に対応してCT患者の被ばくを抑えることができます。特定の臨床タスクに適した診断画質を得るためには,放射線科医と医学物理士に相談して,適切な線量を決定する必要があります。線量低減の評価は,基準体格プロトコルと1.0mmスライスを使用し,「Smoother」設定で実施しました。試験はMITA CT IQファントム(CCT189,The Phantom Laboratory)で行い,10mmピンの評価を行ってフィルタ補正逆投影法と比較しました。チャネライズドホテリングオブザーバツールの使用により,4つのピンにわたって1つの範囲が観察され,画像ノイズの85%低減,低造影剤量検出能力の0%〜60%改善,線量の50%〜80%低減が確認されました。画像の外観の評価にはNPS曲線のシフトを用い,20cm水ファントムで関心領域の中心50 mm×50 mmを測定したところ,平均のシフトは6%以下でした。

販売名:フィリップス Elition 3.0T
医療機器認証番号:230ACBZX00009000
設置管理医療機器 / 特定保守管理医療機器 管理医療機器
販売名:全身用X線CT装置 CT 5300
医療機器認証番号:306AFBZX00013000
設置管理医療機器 / 特定保守管理医療機器 管理医療機器

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