X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第3回X線動態画像セミナー[2021年9月号]

第1部 技術/外科

呼吸器外科におけるX線動態画像:我々の経験と今後の発展への期待

近藤 晴彦(杏林大学医学部呼吸器・甲状腺外科学教室)

当院では2020年6月,X線撮影装置の更新に伴い,コニカミノルタのデジタルX線動画撮影システムを導入した。本発表では,呼吸器外科におけるデジタルX線動画撮影システムの使用経験とX線動態画像の今後の発展への期待を述べる。

呼吸器外科における検討項目

デジタルX線動画撮影システムについて,当科では,まず術前画像の読影,至適撮影条件の検討,術後回復・術後合併症の確認における有用性の検討,特異な病態の描出などについて,実際の画像で検討を行った。
さらに,現在は臨床研究として,後ろ向きおよび前向きの検討を進めている。具体的には,単純X線写真(静止画)では得られない情報として,肺結節の視認性の向上や,体位・姿勢などによる各臓器の位置変化,呼吸による横隔膜運動の変化(術前・術後の評価),胸腔内癒着の有無・程度,声帯麻痺の非侵襲的観察,気胸症例での肺虚脱(呼吸性変化),気道ステントによる換気改善,などについて評価を行っている。これらのうち,臨床例の一部を以下に提示する。

当科での実地臨床経験

1.肺結節の検出
肺結節の検出に当たり,静止画では,血管・縦隔陰影やニップル,鎖骨・肋骨,横隔膜などとの重なりによって結節影が明瞭に視認できないことが問題となる。一例として,ニップルと判別しづらい陰影についてX線動態画像を確認したところ,右肺下葉S8の微小結節であると明確に診断できた。また,別の症例(図1)では,静止画にて指摘された左上肺野の陰影は,X線動態画像にて肺内結節であることが明らかとなり,さらに,BSxFE-MODE(胸部骨減弱処理x周波数強調処理)によって,病変がより明瞭に描出された。
このように,X線動態画像によって小型病変や淡い病変の検出率は向上すると考えられ,検診などに有用となる可能性が示唆され,今後さらなる検証を行っていく。

図1 BSxFE-MODEによる肺結節の描出

図1 BSxFE-MODEによる肺結節の描出
a:X線動態画像 b:BSxFE-MODE

 

2.体位・姿勢などによる各臓器の位置変化の評価
頸部を撮影したX線動態画像では,背屈に伴い気管が上昇する様子が明らかである。そのため,縦隔内甲状腺腫や気管腫瘍,気管狭窄など,頸胸部の境界病変の術前評価に有用である。
横隔膜運動や換気状態も,X線動態画像にて視認できる。横隔膜運動や換気状態が低下する原因としては,横隔膜弛緩症や腫瘍性病変によるもの,術後の一過性低下などが考えられる。立位と臥位で横隔膜運動が大きく異なることも確認できるため,X線動態画像は横隔膜麻痺の回復を評価するための選択肢の一つになると考える。
図2は,左肺門部腫瘍の症例である。腫瘍浸潤により左気管支が閉塞し,左横隔神経も麻痺している。FE-MODEで呼気時に左肺のair trapのために縦隔が右に変位する様子が確認できるほか,PL-MODEにて左肺の換気が大きく低下していることが明らかとなった。
このほか,X線動態画像では,術後の胸郭・横隔膜運動や血流状態の回復過程の評価も可能であると考える。さらに声帯麻痺の評価も可能で,食道がんのリンパ節転移症例では,気管ステント留置後の経過観察で両側反回神経麻痺が判明し,急遽気管切開を行った。

図2 PL-MODEによる肺換気の評価

図2 PL-MODEによる肺換気の評価
a:FE-MODE b:PL-MODE

 

3.気胸の診断および治療法選択への応用
気胸においては,重症度評価や治療法の選択にX線動態画像が有用であると考えている。図3は左肺の気胸の症例で,静止画では肺の虚脱は軽度と考えられたが,FE-MODEにて肺が大きく萎縮する様子を確認できた。

図3 FE-MODEによる気胸の重症度評価

図3 FE-MODEによる気胸の重症度評価

 

X線動態画像への期待

X線の歴史は,1895年のレントゲンの発見に始まった。その後,胸部単純X線写真の診断学がいろいろと発展し,1980年代にはデジタル化への進展があった。2000年代以降,単純X線写真における診断学や診断能に関してはほとんど進歩がなかったが,ここで,X線動態画像が出現した。X線動態画像には,生理学的な状態が観察可能で機能的な評価ができることや,CTなどと比較して被ばく量が少ないことが期待できる。

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