X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第3回X線動態画像セミナー[2021年9月号]

第1部 技術/外科

呼吸器外科における術前癒着評価:動態XPと手術所見の比較

大内 基史(社会福祉法人聖隷福祉事業団聖隷横浜病院呼吸器外科)

当院は,横浜市のほぼ中央に位置する370床の中規模病院である。呼吸器外科では,肺アスペルギルス症や非結核性抗酸菌症などの炎症性疾患を多く診察しているが,炎症性疾患に伴う癒着や肺がんの浸潤の程度は,手術時間や準備に与える影響が少なくない。そこで,呼吸器外科の術前癒着評価におけるX線動態撮影の有用性について検討を行ったので報告する。

X線動態撮影による術前評価と術中所見の比較

対象は,2020年7月〜2021年4月に当院で肺葉切除以上の手術を行い,術前のX線動態撮影を施行した29例で,疾患の内訳は肺がん17例,肺アスペルギルス症3例,非結核性抗酸菌症4例,巨大肺囊胞症1例,その他4例であった。そのうち,胸膜癒着が予想された炎症性疾患7例(肺アスペルギルス症3例,非結核性抗酸菌症4例)と肺がん5例,巨大肺囊胞症1例について,X線動態撮影の所見と術中所見の比較検討を行った。
術前のX線動態撮影では,BSxFE-MODE(胸部骨減弱処理x周波数強調処理)で血管と胸壁の動きから癒着の判断を行った。また,癒着グレードの判定基準は,0が癒着なし,1が外科的障害のない線維性の癒着,2は部分的だが強い癒着,3は肺野全体の強固な癒着とした。
術前評価と術中所見を比較した結果を表1に示す。肺がんでは,術前評価の正答率は94.1%(16/17症例)で,1症例でグレード3の癒着の見逃しがあった。肺アスペルギルス症では,術前評価の正答率は66.7%(2/3症例)で,グレード3と評価した1症例が実際にはグレード2であった。非結核性抗酸菌症では,術前評価の正答率は50.0%(2/4症例)で,グレード2と評価した2症例が実際はグレード1であった。巨大肺囊胞症などでは,術前評価の正答率は100%(5/5症例)であった。

表1 胸膜癒着例の術中評価

表1 胸膜癒着例の術中評価

 

症例提示

症例1:肺がん症例(慢性閉塞性肺疾患既往歴あり)(図1)
実際の症例を提示する。本症例は肺がんの77歳の男性で,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の既往歴があり,吸入療法を行っていた。術前のBSxFE-MODE評価では腫瘍位置および肺野全体の血管影に呼吸に伴う動きがあった。胸腔鏡手術を始めたところ,癒着があったため開胸術に移行した。癒着は肺野全体に及んでいたものの,軽い線維性の癒着であり,容易に剥離できるものであった。

図1 症例1:肺がん症例(COPD既往歴あり)

図1 症例1:肺がん症例(COPD既往歴あり)

 

症例2:非結核性抗酸菌症(図2)
本症例は49歳,男性で,非結核性抗酸菌症と診断後,6年間放置されていたが,喀血したため当院に紹介された。術前の BSxFE-MODE評価では上肺野の動きが小さいことから癒着を疑ったが,健側肺との差が著明ではないため軽度な癒着であると予想した。術中所見では肺尖部で部分的に強固な癒着が確認され,胸膜外剥離を行った。

図2 症例2:非結核性抗酸菌症

図2 症例2:非結核性抗酸菌症

 

症例3:肺アスペルギルス症(図3)
本症例は54歳,男性で,2年前に肺結核で半年間化学療法を受療後,遺残空洞内にアスペルギルスが感染した。術前のBSxFE-MODE評価では上肺野の動きがほとんど固定されており,強固な癒着があると予想した。開胸した結果,病巣部である上肺野に強固な癒着があり,電気メスによる胸膜外剥離を行った。肺結核の既往などから経験的に全周性の癒着を想定したが,病巣部以外では線維性の軽い癒着が見られたのみであった。

図3 症例3:肺アスペルギルス症

図3 症例3:肺アスペルギルス症

 

まとめ

本検討では,単純X線写真(静止画)やCT,疾患ごとの経験的判断と,X線動態撮影の所見を併せて,総合的に術前評価を行った。肺尖部は健常者でも動きが少なく,BSxFE-MODE評価では肺尖部の判定が困難であるなどの課題があり,現時点では明らかな予測方法は見つけられていない。他院からはFE-MODE所見からリスク因子評価を行うことで,感度95%,特異度96%の癒着予測が可能であるとの報告1)があるため,参考にしたい。今後は,コニカミノルタの新製品に搭載された癒着評価用の新しいモード(LM-MODE)や,腫瘍や血管などの標的部位を用いた客観的な評価を検討する予定である。

●参考文献
1)髙田宗尚:INNERVISION, 35(3):70, 2020.

TOP