X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第2回X線動態画像セミナー[2020年3月号]

臨床研究報告

X線動態解析による肺血流評価:肺血流シンチグラフィとの比較

髙田 宗尚(金沢大学先進総合外科)

髙田 宗尚(金沢大学先進総合外科)

当院では,X線動画撮影システムを用いて肺血流評価について検討を行ってきた。本発表では,肺血流シンチグラフィとの比較を中心に報告する。

肺血流シンチグラフィとの肺血流評価の比較

われわれは,X線動画撮影システムによる血流解析と,肺血流シンチグラフィで計測した肺血流量を比較し,同等の肺血流評価が可能か検証した。対象は同時期にX線動画撮影と肺血流シンチグラフィを施行した呼吸器外科手術症例26例(術前7例,術後19例)で,うち23例が肺がんであった。比較法としては,肺野を6分割して各領域の肺血流量をX線動画撮影システムの改良PH-MODE(相互相関計算処理)と肺血流シンチグラフィで計測した。その上で,肺血流シンチグラフィの肺血流量をX軸,X線動画撮影システムの肺血流量をY軸にプロットして両者の相関関係を解析し,相関係数が<0.2(相関なし),0.2〜0.4(弱い相関あり),0.4<(相関あり),さらにP値<0.05(有意差あり)とした。
右肺血流分布では,右上肺野,右中肺野,右下肺野いずれも有意差をもって正の相関関係を示し,X線動画撮影システムと肺血流シンチグラフィは同様の血流分布であった。一方,左肺血流分布は,左上肺野,左中肺野は相関を示したが,左下肺野は十分な相関を認められなかった。これは心陰影が影響していると思われる。この結果から,X線動画撮影システムは肺血流シンチグラフィと同等の肺血流評価が可能であり,代替検査となりうると言える。
これを踏まえ,症例を提示する。本症例は,78歳,男性の右上葉肺がんで切除術を施行したが,術後3か月目に呼吸困難症状が増悪し,再診となった。シンチグラフィを施行したところ,肺換気,肺血流いずれも右肺が左肺よりも有意に低下しており,X線動画撮影システムでの解析を行った。術前と術後のX線動画撮影システムの画像を比較すると,術後では,改良PH-MODEで右肺野の血管陰影の動きが低下し,横隔膜の動きも不自然であり,PL-MODE(基準フレーム差分計算処理)でも縦隔の動きに異常が認められた(図1,2)。このように,X線動画撮影システムでは,ほかのモダリティでは得られない動的な機能情報をとらえることができる。

図1 右上葉肺がん切除術の改良PH-MODE

図1 右上葉肺がん切除術の改良PH-MODE

 

図2 図1と同一症例のPL-MODE

図2 図1と同一症例のPL-MODE

 

胸膜癒着予測能の検証

当院では,X線動画撮影システムの手術への応用を検討している。そこで,術前胸膜癒着診断への適応を検討するために,術前にX線動画撮影システムで撮影を行ってから呼吸器外科手術を施行した151例で評価を行った。X線動画撮影システムで癒着を示唆する異常因子を抽出し,さらに手術映像から癒着の有無や程度を評価して,X線動画撮影システムの胸膜癒着予測能を検証した。検証に当たっては,胸膜癒着を予測する所見として,肺野血管/気管支運動に異常がある“Gradation sign(G-sign)”,肺野血管/気管支が固定され動きがない“Fixed sign(F-sign)”,索状性陰影が引きつれたように運動する“Tension sign(T-sign)”の3つとした。
この3つの所見の和(0/1/2/3)を胸膜癒着予測スコア(PAPS)とし,また癒着のグレードをGrade 0:癒着なし,Grade 1:限局的な癒着,Grade 2:胸郭1/3以下の癒着,Grade 3:胸郭1/3〜2/3の癒着,Grade 4:全面癒着,の5つに分類した。さらに,PAPSが2以上をカットオフラインとして,中等度(Grade 2)以上の癒着が検出可能かを検証した。
その結果,PAPSが0,1の低リスク群ではほとんど胸膜癒着が見られず,2,3の高リスク群では胸膜癒着が多く,感度95%,特異度96%であった。このことから,X線動画撮影システムで得られたPAPSを用いることで,中等度以上の胸膜癒着の予測が可能だと言える。

まとめ

X線動画撮影システムは,安価で撮影も簡便であり汎用性も高く,また肺血流シンチグラフィよりも被ばく線量を低減でき,肺切除術における術後の呼吸機能の予測や呼吸機能低下の原因検索に有用である。さらに,X線動画撮影システムでは従来評価が困難であった胸郭運動時の動的な異常所見要素の検出が可能である。
これらを踏まえ,X線動画撮影システムは肺血流シンチグラフィの代替検査となりうる可能性があり,また中等度以上の胸膜癒着も予測でき,症例によっては隣接臓器浸潤の評価にも役立てられる。

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