X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第1回X線動態画像セミナー

基調講演

呼吸器画像診断の常識を変えるX線動態画像 ─形態を写す静止画像と生理学を反映する動的画像

工藤 翔二(公益財団法人結核予防会 理事長 / 日本医科大学 名誉教授)

工藤 翔二(公益財団法人結核予防会 理事長 / 日本医科大学 名誉教授)

本講演では,呼吸器画像診断の歴史を踏まえ,今までの常識を変える胸部X線動態画像の可能性と期待について述べる。

呼吸器診断学の歴史

呼吸器診断学の先人たちは,解剖せずに肺の中を知る方法を模索し,1761年の打診法の開発,1816年の聴診器の発明へとつながった(図1)。そして,1895年のX線の発見により胸部画像診断が始まるが,1920年代には相当に普及していたことがうかがえ,胸部単純X線写真が呼吸器診断において重要な役割を担うようになった。
胸部画像診断は,形態をより細かく見たいという要望に応じて,胸部単純X線写真から胸部CT,高分解能CTへと発展してきた。高分解能CTでは肺の二次小葉の構造まで分析できるようになり,さらに高分解能化が進んでいる。“形態を反映した”,より高精細な画像へと発展してきたのが,呼吸器画像診断の歴史の基本的な流れである。

図1 呼吸器診断学の歴史

図1 呼吸器診断学の歴史

 

肺循環への重力の影響と静的画像

一方で,胸部単純X線写真には“生理学を反映する”要素もある。重力の影響を受ける肺は,立位撮影において,健常者では肺門より上方の血管は視認しにくく,これに関しては,J. B. Westが1962年に著した教科書において,静水圧のモデルを用いて説明がなされている1)図2)。
静的な画像において,例えばうっ血性心不全に陥ると,上行する血管も視認できるようになり,生理学的情報を反映した情報も含まれていることがわかる。

図2 肺循環への重力の影響

図2 肺循環への重力の影響

 

胸部X線動態画像の印象

コニカミノルタから初めて胸部X線動態画像の紹介を受けた際の印象は,まず,当然ながら換気とともに動いており,心臓の拍動や横隔膜の動きがよくわかると感じた(図3)。そして,立位撮影であるため重力の影響を受けた生理的情報を反映し,吸気と呼気で濃度が変わる画像を得られる。これらの特徴から,換気と血流の分離ができるのではないかと考えた。
呼吸生理学で特に重要となるのが,ガス交換の生理学である。J. B. Westの教科書に掲載された“立位で測定された換気血流比(VA/QC)”のマッピングは,過去55年間にわたり呼吸生理学のcentral dogmaとしてあり続けているが,これまで誰も検証することができなかった。しかし,X線動態画像により,この検証ができる可能性があると考えられる。

図3 胸部動態画像の印象

図3 胸部動態画像の印象

 

胸部X線動態画像への期待

胸部X線動態画像による横隔膜や胸郭の動きの可視化は,呼吸リハビリテーションの効果測定や横隔神経麻痺,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断に有用である2),3)ほか,立位で血流分布と換気分布を観察することで,血栓性肺疾患,COPDの局所分布異常,うっ血性心不全,などの診断が可能になるだろう4)
胸部X線動態画像は,日本発の技術であり,論文も日本から出始めている今,世界に先駆けて日本が一挙にリードしていくべき領域であると考える。

●参考文献
1)West, J. B. : Regional differences in gas exchange in the lung of erect man. J. Appl. Physiol., 6, 893〜898. 1962.
2)Yamada, Y., Ueyama, M., Abe, T., et al. : Time-Resolved Quantitative Analysis of the Diaphragms During Tidal Breathing in a Standing Position Using Dynamic Chest Radiography with a Flat Panel Detector System(“Dynamic X-Ray Phrenicography”); Initial Experience in 172 Volunteers. Acad. Radiol., 24・4, 393〜400, 2017.
3)Hida, T., Yamada, Y., Ueyama, M., et al. : Decreased and slower diaphragmatic motion during forced breathing in severe COPD patients ;
Time-resolved quantitative analysis using dynamic chest radiography with a flat panel detector system. Eur. J. Radiol., 112, 28〜36, 2019.
4)Yamada, Y., Ueyama, M., Abe, T., et al. : Difference in the craniocaudal gradient of the maximum pixel value change rate between chronic obstructive pulmonary disease patients and normal subjects using sub-mGy dynamic chest radiography with a flat panel detector system. Eur. J. Radiol., 92, 37〜44, 2017.

 

※Va,QcのVとQの上にドット

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