その他のセミナー(コニカミノルタ)

第78回日本医学放射線学会総会が2019年4月11日(木)〜14日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。12日(金)に行われたコニカミノルタジャパン株式会社共催のランチョンセミナー6では,公益財団法人結核予防会複十字病院放射線診療部部長の黒﨑敦子氏が司会を務め,「画像診断の常識を変えるX線動態画像」をテーマに,公益財団法人結核予防会理事長/日本医科大学名誉教授の工藤翔二氏,東海大学医学部医学科専門診療学系画像診断学領域教授の長谷部光泉氏が講演した。

2019年7月号

第78回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー6 画像診断の常識を変えるX線動態画像

胸部動態画像への期待

工藤 翔二(公益財団法人結核予防会理事長/日本医科大学名誉教授)

胸部画像診断学の歩み

今日,われわれが臨床で用いている疾患概念の確立は,病理形態学に始まる(図1)。ドイツのVirchowが1800年代後半に確立した病理形態学によって,疾患の概念の基礎が築かれた。
一方,疾患の情報を得るための技術の進歩も重要である。1761年にはオーストリアのAuenbruggerが打診法を発見し,1816年にはフランスのLaennecが聴診器を発明した(図2)。さらに,1895年にはRoentgenがX線を発見したことで,胸部画像診断が始まった。その後,X線の胸部画像診断への応用は飛躍的に発展していったが,当初は結核の診断に重点が置かれていた。このことに関し,1936年の第32回合衆国結核学会の会長講演においてWaringは,X線の胸部画像診断が進歩しても,打診や聴診を忘れるべきではないとして,X線検査は打診や聴診の価値を高めるものであると述べている(図3)。
さらに,その後,胸部画像診断において革命的な出来事となるCTの発明があった。CTの登場によって,粟粒結核のような微細な病変を描出できるようになり,病理形態学は大きく進歩した。ただし,CT画像は,動的,あるいは生理学的な現象を描出しているわけではない。一方で,立位で撮影する胸部単純X線写真は,肺が重力の影響を受けることで,下葉の血管は描出するものの上葉の血管の視認性が低くなる。これは,Westが1962年に著した論文の中で静水圧のモデルを用いて説明しているとおり,圧の差を反映している1)。例えば,うっ血性心不全の場合,上葉の血管も明瞭に描出されることから,胸部単純X線写真は静止画像でありながら,生理学的な現象を反映した情報を得ることが可能である。

図1 Virchowが確立した病理形態学に始まる疾患概念の確立

図1 Virchowが確立した病理形態学に始まる疾患概念の確立

 

図2 呼吸器診断のための技術進歩

図2 呼吸器診断のための技術進歩

 

図3 第32回合衆国結核学会でのWaring会長の講演

図3 第32回合衆国結核学会でのWaring会長の講演

 

X線動態画像のアルゴリズム

コニカミノルタ社からX線動態画像を提示された際,(1) 換気とともに心臓の拍動や横隔膜の運動が描出できる,(2) 立位で胸部の動態を観察できるため,CTやMRIでは困難な生理学的情報を得られる,(3) 吸気と呼気での濃度変化の情報を得られる,(4) 換気や血流を分離して観察・評価できる可能性がある,と考えられた(図4)。
Westは,肺のガス交換に関して,立位で測定された換気血流比(VA/QC)が,肺の上葉から下葉まで9分割して,それぞれの領域で異なることを前述の論文で示した1)。その成果が約60年間にわたり呼吸生理学のcentral dogmaとされてきたが,これについての検証は今まで行われなかった。しかし,X線動態画像により,それを検証できる可能性がある。
この検証のためのX線動態画像のアルゴリズムは次のとおりである(図5)。まず,呼吸(換気)と拍動(血流)の周期(周波数)が異なるという性質を利用し,(1) 低周波通過フィルタで血流成分を除去する。さらに,(2) 呼気と吸気の濃度差は吸気量(V)に比例することから,(3) それを時間で微分することで,(4) 気流量(V)を算出する。

図4 X線動態画像の可能性

図4 X線動態画像の可能性

 

図5 X線動態画像のアルゴリズム

図5 X線動態画像のアルゴリズム

 

X線動態画像を用いた解析

われわれは,X線動態画像を用いた換気・血流の解析について検討を行った。換気については,左右の肺をそれぞれ上部,中部,下部,横隔膜下に分けて8分割し,時間軸方向に低周波通過フィルタを用いて,吸気・呼気における微分値を算出した。血流についても同様に,左右の肺を8分割して時間軸方向に高周波通過フィルタを用いて,心臓との相互相関値を算出した。さらに,これらの結果をWestの論文と比較した(図6)。
この比較では,Westの論文でパーセンテージで示されたVA/QCから肺胞換気量/分(VA)を5.1L/min,肺血流量/分(QC)を6L/minと仮定した上で,
X線動態画像のVAとQCを算出して,それぞれのVA/QCを比べた。その結果,Westの論文と同等の傾向を示すことが明らかになった。このことから,今後
X線動態画像解析の研究を進めることで,肺換気・肺血流シンチグラフィを施行せずに,VA/QCを測定できるようになると期待される。

図6 X線動態画像の解析とWestの論文との比較1)

図6 X線動態画像の解析とWestの論文との比較1)

 

X線動態画像に関する報告

X線動態画像については,Harvard Medical Schoolの幡生らや慶應義塾大学の山田らなどから,いくつもの英文論文が発表されている。このうち山田らの論文では,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者と健常者の横隔膜運動の評価を行ったところ,安静時呼吸下の場合,COPD患者の方が横隔膜の動きが大きかったと報告している2)。これは,COPD患者の方が肺が軟化して同じ筋力で動かしても大きく動くなど,複数の要因が考えられる。同じく,山田らの論文では,GOLD分類のgrade 2とgrade 4のCOPD患者と健常者の呼気相における最大ピクセル値の変化率を解析したところ,健常者は肺尖部から肺底部までのピクセル値の変化が大きく,COPDの重症度が高くなると変化率が低下して,grade 4の患者ではほとんど変化しなかったと報告している3)。これらのX線動態解析の研究は,海外でも評価を受けており,2016年の北米放射線学会(RSNA 2016)では,山田らがMagna Cum Laudeを受賞し,金沢大学の田中らも受賞している。

胸部領域におけるX線動態画像の将来(図7)

胸部領域におけるX線動態画像は,換気とともに横隔膜と胸郭の動きを観察できることから,将来的には呼吸リハビリテーションの効果判定や,横隔神経麻痺・COPDの診断への適応が考えられる。また,従来核医学検査でしか得られなかった換気分布や血流分布などの生理的な情報を立位で得られることから,低コストで血栓性肺塞栓症(慢性血栓性肺塞栓症,肺動脈性肺高血圧症などの難病診断),COPDなどの局所分布異常,うっ血性心不全の早期診断が可能になると予想される。さらには,West以後,誰も検証していないVA/QCの局所分布の再検証にも期待が寄せられる。

図7 胸部領域におけるX線動態画像の将来

図7 胸部領域におけるX線動態画像の将来

 

●参考文献
1)West, J. B. : Regional differences in gas exchange in the lung of erect man. J. Appl. Physiol., 6, 893 〜898. 1962.
2)Yamada, Y., Ueyama, M., Abe, T., et al. : Difference in diaphragmatic motion during tidal breathing in a standing position between COPD patients and normal subjects ; Timeresolved quantitative evaluation using dynamic chest radiography with flat panel detector system(“dynamic X-ray phrenicography”). Eur. J. Radiol., 87, 76 〜82, 2017.
3)Yamada, Y., Ueyama, M., Abe, T., et al. : Difference in the craniocaudal gradient of the maximum pixel value change rate between chronic obstructive pulmonary disease patients and normal subjects using sub-mGy dynamic chest radiography with a flat panel detector system. Eur. J. Radiol., 92, 37 〜44, 2017.

 

※Va,QcのVとQの上にはドット

工藤 翔二

工藤 翔二(Kudoh Shoji)
1967年に東京大学医学部医学科卒業。92年に日本医科大学第四内科教授となり,その後主任教授を経て,2008年から公益財団法人結核予防会複十字病院院長。2014年から現職。

 

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