技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2024年6月号

Dual Energy CTの進化と深化

Dual energy CTのルーチン使用を支える技術

江藤  剛[GEヘルスケア・ジャパン(株)CTアプリケーション]

dual energy CTは,異なるX線エネルギーにおいて物質の線減弱係数が変化する現象を利用した撮影法で,CT値をベースとした各エネルギーの画像を作成する仮想単色X線画像(monochromatic画像:Mono画像)や,ヨードや水,脂肪などの各種密度値を画像化した物質弁別画像(material density画像:MD画像),また,実効原子番号画像などが作成可能となり,従来のsingle energy CTと比較し,さまざまな臨床的アウトカムを出せる撮影法として,臨床応用が進んでいる。具体的な用途としては,低keVのMono画像やヨード密度画像を利用した造影効果の向上,確認画像をはじめ,MD画像を利用した頭部術後における出血と造影剤の弁別や,実効原子番号画像を利用した結石の種類弁別,また,脂肪密度画像や各keVにおけるCT値解析を利用したプラークの性状評価など,全身に渡ってその臨床応用領域が広がってきている1),2)
GE社では,2009年にfast kV switching方式によるdual energy撮影,「Gemstone Spectral Imaging(GSI)」をリリースして以来,ハードウエア,ソフトウエアの進化を続けており,現在では全国の250を超える施設に導入されている。
本稿では,このように使用が広がってきているGE社のdual energy撮影について,ルーチンでの臨床使用を支えるハードウエアやソフトウエア,また,ワークフローについて概説する。

GE社のdual energy撮影

前述のように,GE社のdual energy撮影はfast kV switching法を用いており,80kVpと140kVpのエネルギー切り替えを超高速(0.25ms差)に行うことにより,2つのエネルギーデータをFOV50cmにて取得することが可能である。
このためGSIでは,時間的・空間的ズレが少なく,エネルギー分解能の良い全身領域でのdual energy撮影を可能としている。

Gemstoneシンチレータ

dual energy撮影を行うに当たり,時間的・空間的ズレの少なさ,エネルギー分解能の高さが求められる。GSIでは,その2つの要素を高いレベルでバランス良く満たすためにfast kV switching方式を採用しているが,それを支える根幹の技術として検出器の開発が必要であった。GE社では,Gemstoneを素材とした検出器を開発しdual energy撮影に用いている。Gemstoneの特徴は以下のとおりとなる。
・従来に比べ圧倒的に高速応答性を持つこと
・非常に安定した物質であること
・放射線によるダメージに強いこと
Gemstoneは,従来のGOSシンチレータと比べ100倍速い応答速度と1/4のアフターグロー特性を持ち,CTにとってさまざまなメリットを生み出すことが可能である。特に,異なる2つのエネルギーを同時に収集することが求められるfast kV switching方式で行うdual energy撮影においては,必要不可欠な技術である(図1)

図1 Gemstoneシンチレータ

図1 Gemstoneシンチレータ

 

X線管球

GSIでは,超高速に80kVp/140kVpを切り替え,それぞれのエネルギー別投影データを収集するため,従来CTで使用されていたハードウエアと異なるものが必要となる。GE社ではfast kV switching方式に適したX線管球を開発している。GE社のフラッグシップモデルである「Revolution Apex Elite」に搭載されている「Quantix」X線管-ジェネレータにおいては,従来dual energy撮影で使用していた管球と比較し,さらに高速で80kVp/140kVpの切り替えが可能となった。Quantix管球により,従来と比べさらに時間的・空間的ズレなくX線照射することが可能となり,80kVpにおけるmA量増加を可能としたため,検出器で検出された80kVp投影データと140kVp投影データの線量比をそろえることが可能となった(図2)

図2 Quantix X線管の管電圧,管電流切り替え

図2 Quantix X線管の管電圧,管電流切り替え

 

3D collimator

GE社フラッグシップモデルであるRevolution Apex Eliteは,160mmのワイドカバレッジ検出器を有し,それに搭載されているdual energyである「GSI Xtream」は80mmのカバレッジでのdual energy撮影が可能である。ワイドカバレッジ検出器において,従来の検出器と比較して最も問題となる点として,散乱線の影響が挙げられる。その散乱線の影響を抑えるため,Revolution Apex Eliteには3D collimatorが搭載されている。3D collimatorでは,従来の1D collimatorと比較し,各DASと管球の焦点を結ぶ線上にそれぞれcollimatorの角度を調整することにより,効果的に散乱線を除去することが可能である。また,X線photonを効率的に収集するために,各DASも焦点を向くように調整されている(図3)
図4に,dual energyにおける1D collimatorと3D collimatorでの水密度画像の精度の比較を示す。これは,35cm水ファントムを撮影した際の5mmカバレッジ検出器と160mmカバレッジ検出器での水密度画像の密度値を比較したグラフであるが,5mmカバレッジ検出器では散乱線の影響が少なく,1D,3D collimator両方でほぼ水の真の密度値である1000mg/mLの値が計測されている。しかしながら,160mmカバレッジにおいては1D collimatorでは散乱線の影響を受け,1005.82mg/mLへ測定値がシフトしている。3D collimatorにおいては,散乱線の影響を抑えることにより,測定値が1000.96mg/mLとそのシフトが大幅に抑えられ,ワイドカバレッジでありながら精度の高いdual energy撮影を可能としている。

図3 3D collimator

図3 3D collimator

 

図4 1D collimatorに対する3D collimatorの水密度精度比較

図4 1D collimatorに対する3D collimatorの水密度精度比較

 

50cm FOV

dual energyを実臨床で使用していくためには,さまざまな患者に対応していく必要がある。GSIでは1管球1検出器であるfast kV switching方式を採用しているため,single energyと同様に,50cm FOVでの画像再構成を可能としている。患者の大きさに制限されることなく撮影が可能であるため,ポジショニングが難しい救急の領域でも制限されることなく実臨床で使用することが可能である。

Dual energy再構成

fast kV switching撮影によって得られた80kVpおよび140kVpのviewデータは,それぞれのサイノグラムに分けられてレジストレーションされる。レジストレーションされたそれぞれのサイノグラムは,すべての物質が水とヨードで構成されていると仮定し,既知の水およびヨードの質量減弱係数を用いることで,それぞれの物質における密度値のサイノグラムに弁別され画像化される。
single energy画像は,一般的に水を基準としてビームハードニングの補正を行うのみであるのに対し,GSIでは水およびヨードそれぞれの物質の密度値サイノグラムにおいて,ビームハードニング補正処理と適切なノイズ低減を行っている。その結果,ビームハードニングのない水とヨードの密度画像を生成し,そのデータを基に図5~7の画像再構成を可能としている。
また,Revolution Apex Eliteにおいては,ディープラーニングを利用した再構成法「True Fidelity Image(TFI)」を用いることにより,GSIの良さである高い精度を保ったまま,ノイズ低減かつ読影のしやすい質感での再構成を可能としている3)

図5 仮想単色X線画像 45keV(a)70keV(b) 70keV画像(b)に比べて45keV画像(a)の方が,病変がよりはっきり描出されている(○)。

図5 仮想単色X線画像 45keV(a)70keV(b)
70keV画像(b)に比べて45keV画像(a)の方が,病変がよりはっきり描出されている()。

 

図6 仮想単色X線画像と物質密度画像 a:55keV,b:55keV画像にヨード密度画像をoverlayした画像 55keV画像(a)に比べて55keV画像にヨード密度画像をoverlayした画像(b)の方が,病変がよりはっきり描出されている(→)。

図6 仮想単色X線画像と物質密度画像
a:55keV,b:55keV画像にヨード密度画像をoverlayした画像 55keV画像(a)に比べて55keV画像にヨード密度画像をoverlayした画像(b)の方が,病変がよりはっきり描出されている(→)。

 

図7 仮想単純画像の例 a:single energy CT 120kVpで撮影された単純画像,b:GSI 70keV造影画像 c:GSI造影画像から生成された仮想単純画像

図7 仮想単純画像の例
a:single energy CT 120kVpで撮影された単純画像,b:GSI 70keV造影画像
c:GSI造影画像から生成された仮想単純画像

 

臨床使用のためのワークフロー

前述した各種技術で実現したGSIの画像クオリティを実臨床において活用していくためには,被ばくの最適化,ワークフローの向上が必要不可欠である。被ばくの最適化においては「GSI Assist」機能がある。GSI Assistは,single energy撮影時でのAEC計算結果をdual energy撮影に反映させる機能であり,single energy撮影時とのほぼ同等の線量でのdual energy撮影を可能としている。また,ワークフローの向上においてはdual energy再構成の高速化が必要とされ,「Xtream Server」「GSI Smart Recon」(図8)が開発された。これらにより,従来と比べて約8倍の画像再構成速度となり,約2500枚の画像を1分弱で画像再構成することが可能となったため,Mono画像やMD画像など,撮影目的に適したさまざまなdual energy画像の臨床活用が実現している。

図8 GSI Smart Reconの概念図

図8 GSI Smart Reconの概念図

 

GSIをリリースして約15年が経過し,その中でハードウエア/ソフトウエア共に改善していくことによって,画像クオリティおよびワークフローを向上し,dual energyが研究目的にのみ使用されるのではなく,実臨床においてルーチンで使用されるようになってきた。実際に,国内においてもほぼ全例をGSIで撮影している施設も増えてきており,さらなる有用性の検討が期待されている。今後も研究のみならず,日常の臨床において貢献できる技術の開発を継続していく。

●参考文献
1) Patino, M., Prochowski, A., Agrawal, M.D., et al. : Material Separation Using Dual-Energy CT : Current and Emerging Applications. Radiographics, 36(4): 1087-1105, 2016.
2) De Cecco, C.N., Darnell, A., Rengo, M., et al. : Dual-Energy CT : Oncologic Applications. Am. J. Roentgenol., 199(5 Suppl.): S98-S105, 2012.
3) Thibault, J.B., Nett, B., Tang, J., et al. :  TrueFidelity™ for Gemstone™ Spectral Imaging.  White Paper, GE Healthcare, 2022.

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