技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)
2023年4月号
Cardiac Imaging 2023 MRI技術のCutting edge
心臓MRI検査におけるdeep learning reconstruction技術紹介
五十嵐太郎[GEヘルスケア・ジャパン(株)イメージング本部MR部]
近年,画像再構成の領域で活用される深層学習(ディープラーニング)の技術は,signal to noise ratio(SNR)の改善など,MR画像における画質向上のブレイクスルーとして大きな注目を浴びている。deep learning reconstruction(DLR)による画質改善は,全身の領域を問わず,あらゆる画像コントラストで活用されている。その中でも心臓領域のMRI検査においては固有の撮像法が多く,DLRの恩恵は画質の改善のみならず,定量画像の信頼性の向上など多岐にわたって活用されている。本稿では,GE社のDLR技術である「AIR Recon DL」を中心に,心臓領域におけるDLRの技術動向を概説する。
■AIR Recon DLの画像再構成パイプライン1)
AIR Recon DLは,ディープラーニングの技術を用いた画像再構成アルゴリズムで,MRIの画質改善に大きく寄与する技術である。MRIにおけるDLRの技術はSNRの改善を図るものが主流であるが,AIR Recon DLはSNR改善だけではなく,画像尖鋭度の向上とトランケーション(打ち切り)アーチファクトを低減させる効果を併せ持っている。
ディープラーニングの学習には教師あり学習が採用されており,多くの学習データを基に理想的な解を導き出すアルゴリズムとなる。AIR Recon DLにおける画像再構成時の理想的な解というのは,ノイズレベルが非常に低く,高い空間分解能を有する画像で構成され,トランケーションを最小限にとどめた画像となる。学習データはMR画像に変換される前にある未加工の複素数データ(rawデータ)が採用されている。学習データには学習の堅牢性を高めるためのデータセットが用意されており,回転と反転,強度勾配,位相,およびガウシアンノイズを含む多様な学習セットから学習処理が行われる。ニューラルネットワークの中間層の処理はconvolutional neural network(CNN)が用いられており,理想的な画像トレーニングデータと取得されたサンプリングデータをペアとして,SNRが改善されつつ尖鋭度の向上,トランケーションアーチファクトが低減された画像が出力されるようなアルゴリズムで構成されている。
AIR Recon DLの画像再構成パイプラインにおいて,画像尖鋭度向上,トランケーションアーチファクトの低減効果は,CNNの過程の中でノイズ除去コントロールとは別に実行されている。したがって,ノイズ低減レベルを変化させても,出力される画像は尖鋭度向上とトランケーション低減の効果が得られる。また,このネットワーク設計は再構成パイプラインへの緊密な統合により,パラレルイメージングや部分フーリエなど,多くの既存の技術とシームレスに動作される。従来の画像再構成アルゴリズムで理想的な画像を得るには,非常に時間をかけて撮像を行っていく必要があったが,AIR Recon DL画像再構成による画質改善により,短時間でSNRが改善された高い空間分解能の画像を取得することができるようになった(図1)。
■心筋遅延造影
心筋遅延造影撮像は,心筋バイアビリティの評価に重要なコントラストであり,心臓MRI検査の診断に欠かせない画像コントラストの一つである。心筋遅延造影では,正常心筋組織の信号をnullにして撮像を行うため,心筋内に散りばめられる白色ノイズは診断の妨げとなる。心筋遅延造影シーケンスであるmyocardial delayed enhancement (MDE)は,AIR Recon DLによる画像再構成を適用することが可能であり,撮像時間を延長することなく画像全体のノイズを低減させることにより,心筋の微細な信号変化をとらえることが容易となる(図2)。また,画像尖鋭度を向上させる効果により,空間分解能が低い撮像条件であってもシャープな画質を得ることが可能となる。MDEにAIR Recon DLを適用することにより,心筋と造影領域の境界が明瞭となり,微細な解剖構造を正確に描出できるようになる(図3)。
また,高速撮像を目的としたsingle shot MDEでは,SNRや空間分解能を犠牲にして撮像時間の短縮が図られてきたが,AIR Recon DLを併用することにより,短時間でも十分なSNRが担保され,かつ尖鋭度が向上した画像を提供する。さらに,AIR Recon DLはphase sensitive MDEにも適用可能であり,呼吸同期と併用することにより,コントラストが改善された自由呼吸下心筋遅延造影を,短時間で取得することができる。これにより,患者負担を軽減しつつSNRの改善とコントラストの向上を実現した心筋遅延造影検査が可能となる(図4)。
■心筋パーフュージョン
心筋へのfirst passの血行動態を観察するために,心筋パーフュージョンにて造影効果の経時的変化を観察する。心筋パーフュージョンでは,呼吸の動きに対してフレーム間の動きを低減する非剛体動き補償アルゴリズム(motion correction:MoCo)により,自由呼吸下でダイナミック撮像を可能にする。MoCoは各スライスで独立して機能しており,短軸像のみでなく,長軸像や四腔像での動きが補償される。また,AIR Recon DLへの互換性もあり,動きへの補償と併せて画質改善が図られ,より精度の高いパーフュージョン解析を実現する(図5)。
■T1マッピング
AIR Recon DLは,組織性状の定量画像であるT1マッピングにも互換性がある。T1マッピングの手法にはsaturation method using adaptive recovery times for T1 mapping of the heart(SMART1Map)とmodified look-locker inversion recovery(MOLLI)があるが,AIR Recon DLは両者とも使用が可能である。複数の飽和回復時間の画像からT1が算出されるため,出力されるT1マッピングの定量画像はおのおのの回復時間の画像に存在する白色ノイズの影響を受ける。AIR Recon DLによってノイズ除去された画像を基にピクセルごとにT1フィッティングが行われるため,白色ノイズによる異常ピクセル値を減少させる。これにより,精度の高いT1フィッティングを実現し,ROI計測において定量平均値を変化させることなく標準偏差を抑えた信頼性の高いT1値の計測が可能となる(図6)。
◎
本稿では,心臓MRI検査におけるAIR Recon DLが果たす臨床への貢献について概説した。DLRはMRIの画質を改善させるだけでなく,定量値の信頼性を向上させる。AIR Recon DLはMRI診断に携わる医師や診療放射線技師の診断への貢献だけでなく,患者負担の軽減につながるような革新的技術である。
製造販売 GEヘルスケア・ジャパン株式会社
SIGNA Pioneer
販売名:シグナ Pioneer
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SIGNA Architectはディスカバリー MR750w類型SIGNA Architectです。
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汎用画像診断装置ワークステーション AW サーバー
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アドバンテージワークステーション
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●参考文献
1)Lebel, R.M. : Performance characterization of a novel deep learning-based MR image reconstruction pipeline. arXiv:2008. 06559, 2020.
●問い合わせ先
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