技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2021年4月号

循環器領域におけるCTの技術の到達点

進化を続ける“Smart Cardiac Technology”

小林賢太朗[GEヘルスケア・ジャパン(株)Imaging本部CT営業推進部Clinical Leader]

「Revolution CT」に搭載されている“Smart Cardiac Technology”は,“Auto Gating”“Smart Phase”“SnapShot Freeze(以下,SSF)”の3つのアプリケーションを軸に構成されており,ここにHigh Resolution Mode,ディープラーニング再構成法“TrueFidelity Image(以下,TFI)”が加わることで,さらなる相乗効果の発揮が可能となっている。なかでもSSFは,冠動脈だけではなく弁,心腔,心筋の動きまでも補正可能な“SnapShot Freeze 2(以下,SSF2)”へと進化を遂げ,弁置換術前CT解析の精度向上などにも貢献できるようになった。
本稿では,検査,治療の低侵襲化といった時代のニーズに応え進化し続けているSmart Cardiac Technologyについて紹介していきたい。

■‌ Auto Gating

Auto Gatingは,⼼臓CT撮影時の被検者の⼼拍状態と検査⽬的に最も適した撮影プロトコールを⾃動設定するアプリケーションであり,オペレータの経験に左右されることなく解析に十分なデータを取得することを可能にしている。また,不整脈を検出して照射を回避する“Adaptive Gating”,照射後の不整脈を検出して照射時間の延長または再照射を実施する“Smart Arrhythmia Management”といった機能も備えており,どのような心拍状態の被検者に対しても安心して検査に臨むことができる。

■‌ Smart Phase

⼼臓CT撮影の次のポイントは最適静⽌位相の検索であるが,撮影終了後,この検索作業に多くの時間を費やした経験がある方も少なくないと想像する。
しかし,Smart Phaseを使用すれば,指定した⼼位相範囲において冠動脈に特化したモーション解析を⾏い,各冠動脈のモーションアーチファクトをスコアリング,全体で最もモーションアーチファクトが少ない心位相を最適静止位相として画像再構成を実施することが可能である。上記の過程はすべてバックグラウンドで自動処理されるため,結果を待たずして次に控える検査に臨むことが可能であり,検索時間の問題やオペレータ間の差異も解決することが可能となった。

■‌ SnapShot Freeze

Smart Phaseによる最適静止位相においても,心拍数次第ではモーションアーチファクトが発生してしまうケースはありうるが,SSFを適⽤することで残存するモーションアーチファクトを低減可能である。
SSFは,ターゲット位相とその前後約60msの,計3つのデータセットによるベクトル動態解析を⾏うことにより,各冠動脈の速度,移動⽅向などといったモーションアーチファクトの原因となる要素を検出,補正し,最終的にモーションアーチファクトが抑制された冠動脈静止画像を再構成することを可能にしたアルゴリズムである。このモーションアーチファクトの抑制⼒は非常に高い効力を持っており,ガントリ回転速度に換算すると0.058秒以下,すなわち実効時間分解能は0.029秒以下を達成している。
モーションアーチファクトを抑制するほかの方法としては,複数心拍からのデータを組み合わせることにより時間分解能を向上させる分割再構成法が知られている。しかし,この方法では,複数心拍のデータを得るために照射時間を延長しなければならず,被ばくの増加に直結するといったデメリットを含んでいる。また,被検者の心拍数に応じてガントリ回転速度を考慮する必要がある,不適切な分割再構成によるミスレジストレーションアーチファクトの発生1)の可能性が否定できない,などといった弱点も存在する。それに対し,SSFはハーフ再構成ですむために空間分解能の犠牲がない上に,Auto Gatingと併用することで,どのような心拍状態に対しても最長1心拍の照射で撮影を完了することが可能であり,被ばくの大幅な低減といった相乗効果も得ることができる。

■‌ SnapShot Freeze 2

SSFのモーションアーチファクト抑制力を強化し,さらに弁,心腔,心筋のモーションコレクトアルゴリズムが追加されたものがSSF2である(図1)。
経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)治療登録数が,ここ数年で急激な増加を見せているが,これは低侵襲治療のニーズの高まりと同時に,弁置換術前CTの位置づけがますます重要になっていることを物語っている。SSF2による術前CT解析の精度向上,時間短縮は,この時代のニーズに応えることができるソリューションの一つだと考える。
また,米国では待機的経皮的冠動脈形成術(PCI)の12%が不適切に実施された2)との報告がある中,これも低侵襲化の流れの一つであるFFR-CTの需要が増加傾向にある。SSF,SSF2はハートフロー社の“FFRCT”に適応する唯一のモーションコレクトアルゴリズムということも併せて述べておきたい。

図1 SnapShot Freeze 2によるモーションコレクト

図1 SnapShot Freeze 2によるモーションコレクト

 

■‌ High Resolution Mode, TrueFidelity Imagingが生み出す相乗効果

Auto Gating,Adaptive Gating,Smart Arrhythmia Managementが照射前から照射中のケアを行い,撮影後にはSmart Phaseが冠動脈に対する最適静止位相の検索を行い,そこにSSF2が心臓全体のモーションコレクトを行うことにより,心臓検査に対する懸念点はほぼなくなると考える。上記機能は,すべてHigh Resolution Mode,TFIと併用することができ,Revolution CTにおける心臓CTの可能性をさらに広げることが可能である。

1.High Resolution Mode
Revolution CTでは,優れた光応答特性を持つGemstoneシンチレータを使用しており,従来のCTと比較して約2.5倍,秒間8914viewのデータサンプリングを行うことで,0.23mmの空間分解能を実現している。特に,オフセンターの領域においてその効果は大きく,心臓領域だけではなく全身領域においてもその恩恵を受けることが可能である。
冠動脈CTにおいては,従来観察することが難しいと言われていたステント内再狭窄や石灰化周辺のプラーク評価などに有効である。

2.TrueFidelity Image
2019年,GEは従来の画像再構成アルゴリズムのメリットを維持しつつも,画質の劣化などのデメリットを解消したTFIを発表した。TFIはディープラーニングの特性を利用し,高品質のFBP画像を教師画像として学習させることによって開発された。これにより,低線量下の撮影においても,低ノイズかつ読影のしやすい質感を両立することが可能となり,また,米国Food and Drug Administration(FDA)からディープラーニングを利用した世界で初めてのCT画像再構成アルゴリズムとして承認を受けるに至った。
図2に,70kVで撮影をした画像を提示する。70kVという低管電圧を使用することにより,使用造影剤量は25mL(使用製剤:350mgI/mL),被ばく線量は0.75mSv(DLP:53.7mGy・cm)と非常に低く抑えることができている。さらに,この例ではTFIを併用することにより,空間分解能をはじめとする画質の劣化を防ぎつつ,ノイズ成分のみを除去した画像を提供することができている。TFIは単に画質を向上させるだけではなく,造影剤や被ばくの低減といったさらなるメリットが得られる。

図2 TrueFidelity Image(70kVを用いた冠動脈撮影)

図2 TrueFidelity Image(70kVを用いた冠動脈撮影)

 

図3に,心筋遅延造影の画像を提示する。この症例は80kVで撮影し,心筋のわずかなコントラスト差を強調するためにウィンドウ幅を100と狭く設定している。通常ならば,大幅なノイズ増加を招くような設定であるが,TFIを併用することにより問題なく診断に使用できる画像となっている。また,SSF2を併用することにより,心筋のモーションアーチファクトも抑制され,診断能をさらに向上させることができる。160mmワイドカバレッジ検出器によりバンディングアーチファクトも発生せず,さらに,TFIにより心筋遅延造影のわずかなコントラスト差を強調することができた症例である。
この症例のように,有意狭窄かどうか判断に迷う高度石灰化症例の場合など,診断の一助になることは間違いないと考える。

図3 TrueFidelity Image(心筋遅延造影とCCTAのフュージョン)

図3 TrueFidelity Image(心筋遅延造影とCCTAのフュージョン)

 

本稿では,心臓CT領域におけるGECTのテクノロジーを改めて紹介した。従来の形態診断の領域にとどまらず,FFR-CTをはじめとする機能評価においても低侵襲で検査可能な心臓CTの重要性は増しており,その根幹を支えるのは高画質CT画像であることは間違いない。GEでは,今後も心臓領域の診断に貢献すべく,お客様のニーズ・課題に沿った技術開発を進めていく。

薬事情報:
マルチスライスCTスキャナ Revolution
医療機器認証番号:226ACBXZ00011000号
マルチスライスCTスキャナ LightSpeed
類型Revolution
医療機器認証番号:21100BZY00104000号

●参考文献
1) Japanese Circulation Society Working Group : JCS 2018 Guideline on Diagnosis of Chronic Coronary Heart Diseases. Circ. J., 2021(Epub ahead of print).
2) Chan, P.S., Patel, M.R., Klein, L.W., et al. : Appropriateness of percutaneous coronary intervention. JAMA, 306(1): 53-61, 2011.

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
CT営業推進部
〒191-8503
東京都⽇野市旭が丘4-7-127
TEL:042-585-9350
http://www.gehealthcare.co.jp

TOP