技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2020年5月号

腹部領域における核医学技術の最新動向

腹部領域に有用なテクノロジー“Advanced MotionFree”

大久保公美子[GEヘルスケア・ジャパン(株)MI営業推進部]

●PET/CT検査の課題

PET/CT検査の50%は呼吸性移動の影響を受け,そのうち5%以下しかその影響が補正されていない,という報告がある。今日,これらはPET/CT検査の課題として認識され,さまざまなデメリットが明らかにされている。具体的には,呼吸性運動による位置の誤認識やボケ,それらが引き起こす分解能の劣化,微小病変検出能の低下,そして定量精度の低下などである1)〜5)。GEでは長年にわたり,これらに対して呼吸同期デバイスを用いたさまざまな解決策を追究してきたが,呼吸同期デバイスを用いる方法では,検査中に患者の呼吸をコントロールしたり,煩雑な前後処理が必要になるなど,臨床PET/CT検査で広く普及しているとは言い難いのが現状であった。本稿では,このような課題の解決のために,今回GEが実現した“Advanced MotionFree”のテクノロジーについて紹介したい。

●呼吸による動きへのデジタル自動体動補正システムAdvanced MotionFree

GEでは,診断の信頼性を高め,より正確な治療を選択できるよう,呼吸性運動による体動補正を自動かつデバイスレスで実現するAdvanced MotionFreeを再構成アルゴリズムに組み込み,「すべての患者にあらゆる状況において使用できる体動補正」を実現した。また,従来の呼吸同期デバイスでは患者の体表面にマーカーを置くことで平面上の動きを追跡するが,Advanced MotionFreeではPETの同時計数データより三次元で臓器の動きを取得し,補正を行う。
Advanced MotionFreeは,PETの同時計数データより呼吸波形を抽出するため,各患者,かつ各ベッドポジションで呼吸性移動の抽出が可能である。そのため,検査中に呼吸性移動があるかどうかを自動検出し,患者ごとの体動補正の要/不要,必要であればそのベッドポジションと収集時間延長の判断がすべて自動的に行われる。そして呼吸性移動が検出された場合には,呼吸周期の静止範囲のデータのみを抽出する“Q.Static”再構成を行う(図1)。そのため,スキャン前後に医療従事者が特別に設定することは何もない上,患者の呼吸コントロールや煩雑な呼吸同期デバイスが不要である。

図1 典型的な患者呼吸波形

図1 典型的な患者呼吸波形

 

●Advanced MotionFreeのアルゴリズム

Advanced MotionFreeは,主成分分析(principal component analysis:PCA)を基にしたアルゴリズムであり,データ内の経時的変化を抽出する。図2に示すように,以下の5つの自動ソフトウエアのステップで説明される。
Step1:PET同時計数イベントを収集する。
Step2:0.5秒ごとのサイノグラムデータを生成する。
Step3:入力としてダウンサンプリングしたサイノグラムデータを使用してPCAを適用し,3つの最大主成分と,そのウエイトファクタ,すなわち時間の関数としての一次元信号を抽出する。その後,呼気側,吸気側を判断し,正しい位相を決定する。それらの信号が呼吸移動を表すことになる。
Step4:一次元信号に,高速フーリエ変換(fast fourier transform:FFT)を適用する。各FFTについて,呼吸周期の範囲(正常の呼吸は2.5〜10秒の周期,0.1〜0.4Hz)のピーク値を計算し,この範囲以上(0.4Hz以上)の平均値に対してピーク値との比を求める。この比は,呼吸信号の強度を表す無単位の指標値「R」であり,データに対する呼吸性移動の影響が大きいかどうかを判断するために使用される。R値が大きければ大きいほど,呼吸性移動が大きいことになる。
Step5:最大のR値を持つ一次元信号を時間領域に変換し直す。そして,周期ごとのトリガーを抽出するために,ピーク検出アルゴリズムが適用される。
もし計算されたR値があらかじめ決めていた閾値を超える場合,呼吸性移動が画質や定量値に影響を及ぼしうると想定し,設定された時間で撮像を延長する。もし,R値が閾値を超えない場合,呼吸性移動の影響が限られており,呼吸性移動補正は効果をもたらさないとして,そのベッドはスタティック画像 (非同期)として再構成され,収集は次のベッドに進む。Advanced MotionFreeは,収集中にR値を算出し,そのR値によって収集時間を延長し,Q.Staticを実行するかどうかを決定する。この自動化された機能により,呼吸性移動補正が効果をもたらしうる場合だけ適用されるので,収集時間を節約し,高いスループットを維持しながら,画像と定量,診断の質のさらなる向上が期待できる。

図2 Advanced MotionFreeアルゴリズム

図2 Advanced MotionFreeアルゴリズム

 

本稿ではAdvanced MotionFreeについて紹介した。新機能Advanced MotionFreeは,定量精度の最大30%向上(SUVmean)や,呼吸性移動による空間分解能の劣化が67%改善(病変サイズの体積測定)など,臨床上の利点も確認されている。また,2019年秋より,現在販売中のすべてのGE社製PET/CTのラインアップに搭載可能となった。Advanced MotionFreeが,より広く日常PET/CT検査に取り入れられ,さらなる価値を臨床にもたらすことを確信している。

*スタティック,体動補正なしデータと比較。OSEMで典型的な呼吸モデルと高速な呼吸モデルにおいてファントムテストにて実証。

※この原稿の内容はホワイトペーパー Advanced MotionFreeを一部和訳,転載したものです。

製品名:
Discovery MIシリーズ(類型:Discovery MI-15,Discovery MI-20)
Discovery IQ 2.0シリーズ
*Advanced MotionFreeは薬事書類上のData Driven Gatingのことです。
薬事認証名称:X線CT組み合わせ型ポジトロンCT装置
Optima PET/CT500,Discovery PET/CT600
X線CT組み合わせ型ポジトロンCT装置
Discovery IQ
医療機器承認番号:221ACBZX00029000,226ACBZX00038000

●参考文献
1) Kesner, A.L., et al. : On transcending the impasse of respiratory motion correction applications in routine clinical imaging – a consideration of a fully automated data driven motion control framework. EJNMMI Phys., 1(8): 1-11, 2014.
2) Callahan, J., et al. : The clinical significance and management of lesion motion due to respiration during PET/CT scanning. Cancer Imaging, 11 : 224-236, 2011.
3) Guerra, L., et al. : Respiratory Motion Management in PET/CT : Applications and Clinical Usefulness. Curr. Radiopharm., 10(2): 85-92, 2017.
4) Walker, M.D., et al. : Evaluation of principal component analysis-based data-driven respiratory gating for positron emission tomography.  Br. J. Radiol., 91(1085): 1-18, 2018.
5) Osman, M.M., et al. : Clinically Significant Inaccurate Localization of Lesions with PET/CT : Frequency in 300 patients. J. Nucl. Med., 44(2): 240-243, 2003.

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
MI営業推進部
〒191-8503
東京都日野市旭が丘4-7-127
TEL:0120-202-021(コールセンター)
http://www.gehealthcare.co.jp

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