技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)
2019年6月号
US Today 2019 超音波検査・診断最前線
次世代の超音波診断装置の核となる“cSound”イメージフォーマー
岩崎真梨子[GEヘルスケア・ジャパン(株)超音波本部General Imaging部]
「LOGIQ E10」は,cSound Architectureを採用した次世代の超音波診断装置である。その核となるのは“cSound”という信号処理技術であり,より広い診断領域へ応用できるよう種々の開発がされた。以下に,これらの原理とその応用となる機能について概説を行う。
■cSoundイメージフォーマー
LOGIQ E10では,多方向から受信・蓄積した膨大な超音波データをリアルタイムに再構成し,コントラスト分解能,リアルタイム性,均一性を飛躍的に向上させるcSoundイメージフォーマーという信号処理技術を採用している。従来では,プローブの各チャンネルで受信されたRF信号群は,瞬時に波面合成処理がなされ1本の走査線に変えられていた(図1上段)。cSoundでは,多様な送信方向からなる大量の受信RF信号が次々にメモリに格納されることになる。これら膨大な信号データを使用して波面の合成を行うと,画像上のすべての位置で最適条件を求めることができる(図1下段)。そのため,今回,送信ビームの音場も含めて均一になるよう補正する信号合成技術(retrospective transmit focus:RTF)を採用した。RTFを利用すれば,すべての画素におけるRF信号の位相を,送信の状態にさかのぼって調整することができ,すべての点が送受信フォーカス点であるような画像を再構成できる。その上,従来は使用せずに捨てていた送信ビームのエネルギーを,より効率的にコンパウンド(重畳)することになるため,コントラスト分解能も向上する。したがって,cSoundイメージフォーマーで得られる画像では,すべてのピクセルでフォーカスされ,かつ高い空間分解能とコントラスト分解能を両立した均一な画像が提供可能である(図1下段)。
■cSoundの有用性
全視野フォーカスを実現できたため,常にBモードのすべての領域において,最適な空間分解能で観察ができる。また,この画像構成法の仕組みは造影エコーにとっても有利となる。造影剤バブルを極力壊さず均質な染影画像を得るためには,送信の段階で太く同じ幅のビームを作るのが望ましいが,空間分解能が犠牲となる。RTFの設計法では,むしろ幅広の送信音場が望ましいため,造影エコーでは両者の相乗効果が期待できる。さらに,cSoundでは,1回の送信でより広い範囲の画像を再構成できるため,フレームレートを数百倍に向上させることも理論上は可能であるが,通常不要である。得られた信号を画像のコンパウンド(重畳)や走査線密度,周波数コンパウンドなどに振り分けることで,例えば,腹部ではコントラスト重視,心臓ではフレームレート重視というように,領域ごとに最適化されたプリセットを多数装備できる。cSoundによる恩恵は,そのほかのアプリケーションにも応用されている。例えば,シアウェーブエラストグラフィのフレームレートも向上しており,より短時間で安定した肝硬度計測が可能である。また,高精細血流イメージング技術である“B-Flow”では,血流信号はBモード用の画像生成プロセスに入力されるため,スペックルパターンの描画性などもBモードに限りなく近づけることができる。
■「XDclearプローブ」とのコンビネーション
XDclearとは,GEが開発した次世代プローブの技術の総称である。性能向上の理由としては,振動素子に高感度の単結晶を採用していることが大きいが,音波を受信した後も,そのエネルギーを散逸させずに装置内へ送り込むため,振動子裏側の整合層にも独自開発した技術が使われている(Acoustic AmplifierとCool Stack技術)。回路設計を一新したLOGIQ E10のプラットフォームと,cSoundイメージフォーマーによって,XDclearプローブの性能をより有効に活用可能である。特に,高周波リニアプローブ「L2-9-D」(図2)は,腹部系のみならず,血管や表在の領域でも性能を発揮できると考える。
◎
次世代の超音波信号処理プラットフォームであるcSoundを搭載したLOGIQ E10が,超音波画像診断に新しい価値を生み出すとともに,検査全体の効率が向上することを期待している。
【問い合わせ先】
超音波本部
TEL 0120-202-021
URL www.gehealthcare.co.jp