技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)
2016年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
肝臓MRIの最新技術
梅原 一浩(MR営業推進部)
CTの多列化が進み任意の方向からの断層画像が入手可能になり,また時間分解能の向上が可能となった現在,MRIにおける肝臓検査の役割は変化してきている。
MRIの最大の特長である優れた濃度分解能を生かし,造影剤を用いなくても撮像シーケンスの組み合わせで形態情報および組織性状をある程度推定できることは既知のことである。また,造影剤を用いることで血流情報の画像化のみならず,近年では機能情報の取得も可能となった。さらに,体内組織の弾性(elasticity)を画像化するMRエラストグラフィの技術が臨床で使用可能となり,MRIは肝臓画像診断上重要な役割を果たしていることは揺るぎのない事実である。
本稿では,2種類の新しい肝臓ダイナミックの撮像法およびMRIを用いた定量的アプローチ法である“IDEAL IQ”,MRエラストグラフィの特長と技術について解説する。
■Turbo LAVA/LAVA-Flex
“Turbo LAVA”“Turbo LAVA-Flex”シーケンスは,k-space充填法とパラレルイメージングを最適化することにより,最大50%のスキャン時間短縮を実現した。また,Turbo LAVA-Flexは,two point Dixon法をベースに,3D region growingによる高精度な水脂肪分離を採用し,横隔膜直下などにおける分離ミスが大幅に減少した撮像法である。
navigator echo法(横隔膜同期)との併用も可能で,特に自由呼吸下での高分解能撮像は,面内だけでなく,スライス方向の空間分解能を飛躍的に高くすることが可能となり,スラブトラッキング技術によって撮像中の呼吸変動による位置ズレも補正されるため,常に安定した画像が得られるのが特長である(図1)。
■DISCO
“DISCO(Differential Subsampling with Cartesian Ordering)”は,two point Dixon法をベースとしたシーケンスを応用し,view sharing(k-space sharing)法を用いることで高速化を実現している。このアプリケーションの特長は,その特殊なk-space充填法で,pseudo random cartesianと呼ばれる複雑な手法を用いて,高い空間分解能と高速撮像を両立している(図2)。結果,空間分解能を犠牲にすることなく,時間分解能4〜5秒の全肝3Dダイナミック撮像を行うことが可能となる(図3)。
また,DISCOによる高空間かつ高時間分解能のスキャンを繰り返し行うため,設定によっては一度のスキャンで数千枚という膨大な計算処理が必要になる。そのため,DISCO撮像時には,新しい超高速リコンエンジン(5万5000枚/秒)と組み合わせることで,ルーチン検査に影響を与えない高速リコンを実現している。
■IDEAL IQ
IDEAL IQは,水・脂肪分離技術であるIDEAL(three point Dixon法)を発展させ,six point Dixon法を用いることでR2*(T2*の逆数)マップの作成・T2*補正を行い,鉄沈着のある患者においても正確な水・脂肪分離を可能としたアプリケーションである(図4 a)。
約20秒の呼吸停止法による撮像で,肝臓全体の水画像,脂肪画像,脂肪含有率マップ(fat fraction),R2*マップが同時に得られ,脂肪含有率マップ上に関心領域(以下,ROI)を設定することでROI内の脂肪含有の程度が表示されるため,脂肪沈着の評価に有用と言われている(図4 b)。
なお,R2*マップは,鉄沈着によるT2*減衰を間接的にマッピングしている画像と考えられる。
■MR Touch (MRエラストグラフィ)
“MR Touch”は,アクティブドライバーと呼ばれる振動を発生させる外部加振装置と,パッシブドライバーと呼ばれる振動を人体に伝播させるためのデバイスから構成される。これらの2つの装置を用いて,肝臓領域に対して振動を与えながらMRIで体内組織の弾性(elasticity)を画像化するMRエラストグラフィの技術を応用して,組織の相対的な硬さを色分け表示できるのが最大の特長である。得られた画像に設定したROIの測定値は,肝臓の相対的な硬さ(弾性)を反映している。
画像化する際は,まずパッシブドライバーを患者の胸に当て,アクティブドライバーで空気の振動を発生させる。空気振動はケーブルを伝わって患者の胸元に誘導され,円盤状のパッシブドライバーが患者の胸壁を揺らす。胸壁から伝わった振動波が肝臓内を通過していく様子を,MRIの位相画像からwave imageとして可視化。可視化した振動波の波長変化から相対的な硬さを算出することで,組織内を硬さによって色分けしたelastogram(弾性マップ)を得る(図5)。
通常のMRI検査を2〜3分延長させることにより,非侵襲的に肝組織の相対的な硬さを広範囲にわたって観察できるため,完治まで長年にわたり何度も診療の必要があった肝疾患の進行度を,患者負担を減らしながら,より高い精度で診断できると期待されている。臨床的には,国内の高齢化に伴い罹患数が増加傾向にある肝疾患の進行度診断に高い有用性が期待されている。
2016年2月現在,日本国内では40施設でMR Touchが導入されている。
*MR Touch Discovery MR750 3.0T, Discovery MR750w 3.0T,SIGNA Pioneer, Optima MR450w 1.5T,SIGNA Explorer,の薬機法認証に含む。
*Discovery MR750 3.0T
薬機法認証上の販売名:ディスカバリーMR750
医療機器認証番号:221ACBZX00095000
*Discovery MR750w 3.0T
薬機法認証上の販売名:ディスカバリー MR750w
医療機器認証番号:223ACBZX00061000
*SIGNA Pioneer
薬機法認証上の販売名:シグナPioneer
認証番号:227ACBZX00011000
*Optima MR450w 1.5T
薬機法認証上の販売名:オプティマMR450w
医療機器認証番号:223ACBZX00032000
*SIGNA Explorer
薬機法認証上の販売名:磁気共鳴断層撮影装置Optima MR360/Brivo MR355,類型 SIGNA Explorer
医療機器認証番号:222ACBZX00009000
*DOC.Innervision-JB37818JA
●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
MR営業推進部
〒191-8503
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