技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2015年9月号

MRI技術開発の最前線

3T MRI:SIGNA Pioneerにおける最新アプリケーション

内海 一行(GEヘルスケア・ジャパン(株) MR営業推進部)

図1 GE社製 3T MRI:SIGNA Pioneer概観

図1 GE社製 3T MRI:SIGNA Pioneer概観

本稿では,2015年4月に国内で販売を開始した3T MRIの新製品「SIGNA Pioneer」(図1)に搭載される最新のアプリケーションの中から,“MAGiC”と“DISCO”の2つを概説する。

■MAGiC(MAGnetic resonance image Compilation)

もし頭部のMRI検査で図2 aのように,T1強調画像,T2強調画像から始まってここに挙げている6種類すべてのコントラストの画像を撮像した場合,撮像時間は合計で15分程度かかる。MAGiCはそのキャッチフレーズである“One and Done”のとおり,4〜5分ほどの撮像を1回行えば,先に挙げたコントラストの画像をすべてポストプロセッシングで再構成可能な技術である(図2 b)。MAGiCはSynthetic MRI(インナービジョン誌2015年9月号16〜18ページ)を原理・原法とし,これをルーチン検査時間の短縮など臨床応用する目的で開発された。

図2 MAGiC:“One and Done”コンセプト

図2 MAGiC:“One and Done”コンセプト
仮に左の6スキャンを実際に行った場合,通常15分ほどの撮像時間がかかるが,MAGiCでは4〜5分の撮像1回で6つのコントラストの画像をすべて得ることができる。

 

実際のMAGiCでは,ユーザーによる任意のTR,TE,TIのパラメータによるコントラストの画像を計算で作成することができる。コンソール上のMAGiCの処理ソフトウエアを起動させると,マウスの動きでTR,TE,TIが変化し,それに連動してあたかもウインドウレベル(以下,W/L)を調整するように画像のコントラストがリアルタイムに変化する。図3のとおり,スタートはTR=100ms,TE=5msのT1強調画像であるが,マウスの動きに合わせてTRを延長させると,画像コントラストはプロトン密度(以下,PD)強調画像になり,次にTEを延ばすことでT2強調画像へと変化していく。また,マウスの動きをTI可変モードに変え2200ms程度へ動かすと,画像コントラストはFLAIRとなる。以上のように,コンソール上の処理モードでは,マウスの動きに合わせてインタラクティブにコントラストが連続的に変化する。また,その際に適正なW/Lで画像表示される。

図3 MAGiC:コントラストの可変(マウス連動)

図3 MAGiC:コントラストの可変(マウス連動)
誌面では連続的にコントラストが変化する様子を表現できないため,Webにて動画を参照のこと。Web検索キーワード:GEヘルスケア MAGiC→関連動画タブへ
http://www3.gehealthcare.co.jp/ja-jp/products/categories/magnetic_resonance_imaging/magic#tabs/tab65B0EFD9BF1F4D6DBF506FDFC1D77BB4

 

実際の臨床現場でMAGiCを日常使用することを考えた場合は,図4のようにプリセット機能を利用するのが便利である。MAGiCのスキャン終了後,プリセットされたパラメータに応じた各種コントラストのDICOM画像は,インライン化されたポストプロセッシングにより自動再構成され,データベースに格納される。

図4 MAGiC:プリセット機能

図4 MAGiC:プリセット機能
インラインのポストプロセッシングにより,MAGiC撮像終了後,自動であらかじめ設定したTR,TE,TIでのDICOM画像が再構成される。

 

MAGiCは,特殊なパルスシーケンスとポストプロセッシングの組み合わせ技術である。パルスシーケンスはmulti delay multi echo(MDME)と呼ばれ,1回の撮像で複数の異なるTIとTEのデータ収集を行っている。得られた元データからピクセルごとにT1値,T2値,PD値,さらにはB1マップが計算される(図5)。それらの情報に基づいて前述のとおり,ユーザーの任意のTR,TE,TIのパラメータによる画像コントラストが計算される。例えば,STIRによる脂肪抑制は別途追加の撮像をすることなく,どのコントラスト画像からも簡単に作成できる。そのほかの特長として,T1マップ,T2マップといった定量画像の作成,phase sensitive inversion recovery(PSIR)法によるT1強調画像の作成が可能である。コンソール上の処理では任意箇所にROIを指定して,そのROI内と同じT1値のピクセルを瞬時にnullにする機能も有している。

図5 MAGiC:パルスシーケンスとプロセッシング

図5 MAGiC:パルスシーケンスとプロセッシング
パルスシーケンスはMDME,プロセッシングではピクセルごとにT1,T2,PDの値のほか,B1マップが計算され,MAGiCの画像再構成に用いられる。

 

MAGiCは“One and Done”というコンセプトを生かしてMRIのproductivityの向上に貢献できる可能性がある。また,「追加のコントラストの撮像が必要だった」というシチュエーションは,ことFSE系のコントラストに関しては心配なくなるため,図6に示す小児の撮像などでも威力を発揮する可能性がある。臨床での今後の活用に期待が集まっている。

図6 小児におけるMAGiC撮像(原法)の一例

図6 小児におけるMAGiC撮像(原法)の一例
(画像ご提供:スウェーデン・Queen Silvia Children's Hospital)

 

■DISCO(DIfferential Subsampling with Cartesian Ordering)

DISCOは,体幹部のダイナミック撮像で用いられる“LAVA-FLEX”,乳腺のダイナミック撮像で用いられる“VIBRANT-FLEX”にview sharingを用いた撮像技術であり,高い空間分解能,高い時間分解能,高精度な脂肪抑制の3点を得ることを目的に開発された。
kスペースのview sharingではpseudo random(疑似ランダム)と呼ぶ特殊なデータ収集法を用いており,本撮像の最大の特長である。これは,図7にあるように,kスペースを中心部分のAと周辺部分のBに分割する。さらに,BはB1,B2,B3の3つのサブセグメントに分割されるが,各サブセグメントはBをあたかもランダムに分割したようなサンプルを取っている。このサブセグメント内のランダム性は,ダイナミックスキャン中の体動の影響などを分散させて,コヒーレントなアーチファクトを低減させる効果がある。

図7 DISCOのkスペース分割

図7 DISCOのkスペース分割
中心部分のAと周辺部分のBに分割され,さらにB1(黄),B2(緑),B3(青)のセグメントがランダム様にBを分割している(pseudo random)。

 

データ収集順序を図8に表す。まず,造影前にA-B1-B2-B3のセットが収集され,造影剤投与後はA-B1-A-B2-A-B3と,AとBのサブセグメントの1つが交互に収集される。ここで,時間分解能は画像全体のコントラストに大きく寄与するAの収集間隔となり,Aが収集される回数分の時相データが画像再構成される。Aのデータ量をkスペース全体の15%とすると,時間分解能は通常撮像に比べて2.3倍向上する。結果,空間分解能を犠牲にすることなく,時間分解能4〜5秒の全肝3Dダイナミック撮像を行うことができる(図9)。なお,DISCOはパラレルイメージングとの併用も可能であり,auto-calibrationにてkスペースの補間を行うARC法を用いてkyおよびkz方向の高速化が併用できる。

図8 DISCOのデータ収集と画像再構成

図8 DISCOのデータ収集と画像再構成
phase3までを提示。phase4以降もA(赤)ごとに各時相の画像が再構成される。

 

図9 DISCOによるダイナミック撮像例(画像ご提供:聖隷浜松病院)

図9 DISCOによるダイナミック撮像例
(画像ご提供:聖隷浜松病院)

 

また,ソフトウエアバージョン“DV25”より,LAVA-FLEX,VIBRANT-FLEXの水・脂肪分離は“3D Region Growing”と呼ぶ新しい位相補正のアルゴリズムが用いられており,よりB0不均一に対して強固な,信頼性が増した分離画像が得られている。DISCOでも画像再構成に本アルゴリズムが用いられている。最後に,DISCOは“Navigator Gating”との組み合わせも可能であり,これを用いた自由呼吸下での造影MRIの試みも始まっている。

*シグナPioneer
医療機器認証番号:227ACBZX00011000

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
MR営業推進部
〒191-8503
東京都日野市旭が丘4-7-127
TEL 042-585-9360
www.gehealthcare.co.jp

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