GE Healthcare Japan Edison Seminar 2019

2019年12月号

GE Healthcare Japan Edison Seminar 2019

【基調講演2】慶應義塾大学病院における「AIホスピタル」の取り組み

陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部放射線科学教室(診断)教授)

陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部放射線科学教室(診断)教授)

本講演では,慶應義塾大学病院が取り組んでいる人工知能(AI)ホスピタル事業について説明する。

当院のAIホスピタル事業の概要

当院は2018年,Society 5.0を実現する内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「AIホスピタルによる高度診療・治療システム」事業の公募に採択され,現在,さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。
内閣府が掲げるAIホスピタル構想には,自動言語処理やビッグデータベースの構築,AI技術を応用した解析,センサリングやウエアラブルの活用などが含まれている(図1)。その中で当院は,センサリングに加えてロボット活用にも焦点を当て,さまざまなICTやAI技術を院内に実装し,患者に安心・安全で先進的な医療サービスを提供しながら,医療従事者の負担軽減を図ることをめざしている。また,近隣地域への展開や産業化も視野に入れて,Connected, Automation, Sensing, data Sharing, E-Consentを示す「CASE」をビジョンとして掲げている。
当院では,2018年5月に新入院棟・新外来棟が竣工し,最新のIT設備や情報ネットワークがすでに装備されており,2017年には慶應メディカルAIセンター(K-MAIC)も設立されている。プロジェクトに取り組むに当たり,既存の環境をベースにK-MAICを管理部門とする体制を構築した。外来や検査,薬剤などの各部門長にカギとなる人物を配置したことに加え,各診療科にもAI担当医を配置し,病院全体が一体化してIT,AI化に取り組む体制とした。さらに,病院長や副病院長,常任理事らを委員とする院内AIホスピタル委員会を設置し,毎月開催する会議で,個別のプロジェクトについて,コストに見合うか否かという観点などから,実装の可否を判定する仕組みを整えた。
現在,音声を用いた医療記録入力システムについて,院内に企業開発拠点を設け,自然言語処理の向上に取り組んでいるほか,GEのVNA(Vendor Neutral Archive)ネットワークを用いた患者医療情報統合システムの構築を進めている。将来の複数病院間でのデータ統合の準備となるほか,データ統合で得られた研究用データを用いて,経営分析や,さまざまな臨床研究を推進していきたいと考えている。また,患者向け情報提供スマートフォンアプリを導入し,胎児の超音波検査画像の提供に加え,外来待合からの呼び出し通知や,院外処方箋の提供なども順次開始する。
そのほかに,高性能ベッドセンサを用いた入院患者のリアルタイムモニタリングシステムや,AIカメラを用いた外来・待合の混雑監視,AI自走車いすを用いた患者の搬走システム,AI自動搬送ロボットを用いた薬剤・検体自動搬送システムなども試験運用を開始している。また,デジタルサイネージを活用し,病院情報のスムーズな伝達や,企業や美術館などと提携した患者を癒やす空間を作るコンテンツ開発にも取り組んでいる。

図1 近未来のAIホスピタルシステムの構築 〔戦略的イノベーション創造プログラム パンフレット2019より引用(一部改変)〕

図1 近未来のAIホスピタルシステムの構築
〔戦略的イノベーション創造プログラム パンフレット2019より引用(一部改変)〕

 

放射線画像AIの実装への課題と放射線科のかかわり

画像診断AIの実装については,偽陽性や偽陰性の問題など,解決すべき課題がまだ多く,現状ではすぐに実装という状況ではなさそうであり,今回紹介したような,ITを主体とした単純作業に対するAIの導入を先行して行っている。
放射線科は,新たな機器や診断技術の導入を担い,常に時代の先端にかかわってきた科であるが,現在は他科に先駆けてAIにかかわりを持っている。また,カンファレンスを通じて全診療科と横断的にかかわっていることを生かして,今後は病院情報ネットワークの中核となり,病院のIT化やAI化を進めていく役割が求められていくと考える。

 

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