Centricity LIVE Tokyo 2017

2017年10月号

GEヘルスケアITリーダーシップ・ミーティング

事例セッション 4 放射線関連データと医療データの可視化から拡がる運営戦略

放射線関連データと医療データの可視化から拡がる運営戦略

鈴木 賢昭(社会医療法人生長会法人本部事務局医療技術統括支援部放射線担当副部長/ベルランド総合病院放射線室技師長)

本講演では,ベルランド総合病院におけるGE社の「Applied Intelligence 医療データ分析サービス」の実証実験の概要や成果を紹介する。

当院の概要と実証実験の経緯

当院は,大阪府堺市に位置し,一般病床400床,特殊病床77床,合計477床を有する地域中核病院として機能している。特色としては,DPCⅡ群病院であり,2016年度の平均在院日数が10.7日,また,1か月の平均紹介件数が2350件と,病院の規模からすると非常に多い。さらに,一部の診療科を除いて病床稼働率は100%となっており,順調に推移している。
これは,当院に設置されている経営分析チームがDPCデータを用いたベンチマークなどの解析を行い,それに基づき長期的な視点に立って業務改善,経営改善を行ってきた成果だと言える。ただし,放射線室の場合,DPCデータの分析だけでは十分とは言えず,RISから収集できるデータも利用していた。しかし,データを収集できても,それを分析するには非常に多くの工程を要する。日常業務の中で高度な分析を行うには,マンパワーが不足しており,さらに,専門的な知識を持った人材を確保するのも困難である。
このような状況を踏まえ,GE社に協力を依頼したところ,Applied Intelligence 医療データ分析サービスの提案を受け,2017年1月にGE社とパイロット契約を結び,実証実験を行うこととした。

サービスの概要と流れ

Applied Intelligence 医療データ分析サービスでは,データ分析プラットフォームでHISやRISなどのデータソースを一元管理・クロス分析し,得られた結果を“ダッシュボード”と呼ばれる画面で可視化して,可視化された情報に基づく業務改善コンサルティングが行われる(図1)。
例えば,紹介患者増加による増収を図りたいといった場合,HISやRIS,地図データのデータを統合して分析を行う。そして,診療科別,検査モダリティ別,紹介元施設別の患者数,紹介元施設と当院との距離などを可視化。紹介元施設が集中・分散している地域の情報から,地域医療連携室がアプローチすべき施設を検討する。また,外来患者数増加による増収をめざす場合,HISとRISのデータを統合して分析し,診療科別,疾患別,検査モダリティ別,診療医別の検査数を可視化し,入院・外来の検査比率を基に,入院検査の外来への移行などを検討する。さらに,最適な人員配置と患者待ち時間の減少を行う場合,HISとRIS,医事会計システムのデータの統合分析を行うことで,予約,予約外,緊急検査の時間帯別の割合や,モダリティ別に検査の集中する時間帯といった情報を可視化する。この情報を基に,最適な人員配置を行い,患者待ち時間の短縮化に取り組む。

図1 データ分析プラットフォーム

図1 データ分析プラットフォーム

 

Applied Intelligence 医療データ分析サービスは,(1) 導入前のアセスメント,(2) プラットフォーム構築・KPI(Key Performance Indicator)の可視化,(3) 可視化に基づく改善提案,の3つのフェーズで進められる(図2)。まず,(1) 導入前のアセスメントでは,施設の課題,必要としている情報などをGE社とともに検討していく。その次に,(2) プラットフォーム構築・KPIの可視化として,データベースを基にしたデータ分析のプラットフォームを構築し,データを可視化するためのダッシュボードの設計をしてもらう。(3) 可視化に基づく改善提案では,ダッシュボードの情報から,課題解決に向けて施設が取り組むべき行動について,コンサルティングを受けながら実践していく。
導入前のアセスメントでは,PDCAサイクルを回しながら,ワークアウトと呼ばれるブレインストーミングの手法で放射線室や医事課のスタッフ,GE社のスタッフが意見を出し合いながら課題を抽出する。この工程において,当院の職員だけでなくGE社の担当者が加わり,第三者の視点から意見を述べることで,スムーズに議論が進むことを経験した。課題の抽出後には,データ検証・データソースの特定を行い,さらにダッシュボードを作成して,再びワークアウトを行うというPDCAサイクルを繰り返していく。ダッシュボードはKPIごとに作成され,多様な角度からデータを可視化し,分析を行える。従来,データの可視化には時間と労力を要していたが,Applied Intelligence 医療データ分析サービスでは,瞬時に表示される。

図2 Applied Intelligence 医療データ分析サービスの3つのフェーズ

図2 Applied Intelligence 医療データ分析サービスの3つのフェーズ

 

放射線室と地域医療連携室における改善例

当院放射線室でCT検査の待ち時間の短縮に取り組んだ例では,まず,放射線室のスタッフだけでワークアウトを行い,次いでGE社の担当者も交えたワークアウトを実施した。さらに,KPIを基に作成したダッシュボードでは,造影・非造影と入院・外来の検査比率,検査室使用割合,曜日別時間別外来検査待ち時間,依頼科別時間別入院検査実施数といったデータを示し,改善に役立てた(図3)。

図3 放射線室におけるCT検査の待ち時間の可視化

図3 放射線室におけるCT検査の待ち時間の可視化

 

また,地域医療連携室でもApplied Intelligence 医療データ分析サービスによる業務改善に取り組んだ。地域医療連携室はスタッフ数も限られており,紹介元施設への活動や連携施設の新規開拓が困難な状況で,そのためのデータも不足していた。一方で,スタッフは,地域医療連携室の病院経営への貢献や,訪問活動の効果といったことを実感できていなかった。そこで,Applied Intelligence 医療データ分析サービスを用いて,紹介の状況を可視化。紹介元施設別の紹介数と入院患者の割合,紹介施設別の紹介実績の前年対比,他病院とのDPC診療群別比較をダッシュボードで表示した(図4)。その結果,従来,スタッフの経験と勘で行っていた訪問活動を見直し,データに基づく的確な訪問ができるようになった。また,訪問先の施設では,当院の強みをDPCデータに基づいた根拠のある数字として示すことができ,納得を得られるようになった。このことは,地域医療連携室のスタッフのストレスを軽減することにもつながった。

図4 地域医療連携室で取り組んだ紹介患者の可視化

図4 地域医療連携室で取り組んだ紹介患者の可視化

 

実証実験の成果

当院での実証実験の結果を踏まえて,Applied Intelligence 医療データ分析サービス導入は,多くのメリットがあると考える(図5)。まず,ダッシュボードにより業務の可視化ができ,分析可能な環境,インフラが整備できることが挙げられる。また,優先すべき経営・運営の課題について,GE社の視点で的確なアドバイスが得られた。さらに,PDCAサイクルによる継続的な改善活動が行えるようになった。これらに加えて,改善活動のノウハウが得られて,スタッフの教育にもつながった。
当院では,十数年前からQC活動に取り組んできたが,多忙な日常業務の中で成果を出すのに時間がかかっていた。しかし,Applied Intelligence 医療データ分析サービスにより,PDCAサイクルが短期間で回せるようになった。PDCAサイクルは,1回のサイクルだけでなく継続して行っていくことでより良い成果を生むが,時としてスタッフの負担になり,疲弊させてしまうことになる。Applied Intelligence 医療データ分析サービスのダッシュボードは,根拠に基づいたデータを示せるため,スタッフ間でも的確に意見を出したり,議論ができたりするので,意欲的に改善活動に取り組めるようになった。また,根拠に基づいたデータは,医師をはじめとした医療従事者にとって納得しやすいので,改善活動への協力も得られやすいという効果もある。
これらのことから,Applied Intelligence 医療データ分析サービスは,医療の質の向上や経営改善に有用なサービスであるだけでなく,スタッフにやりがいを感じさせ,働きやすい職場づくりにも貢献すると言える。そして,スタッフがやりがいを感じる働きやすい職場は,患者にとっても非常に良い環境だと考える。また,当法人では,ケアとキュアは人が行うものであり,それ以外の業務でITや機械で代替できることは積極的に活用していくという方針である。Applied Intelligence 医療データ分析サービスは,その方針に合致するサービスである。

図5 Applied Intelligence 医療データ分析サービス導入のメリット

図5 Applied Intelligence 医療データ分析サービス導入のメリット

 

まとめ

医療機関が抱える課題は,たとえ同じ課題であっても,その要因は施設によって異なる。経営母体や地域特性,規模などの背景を考慮し,それぞれの施設に応じた取り組みが求められる。そして,改善活動にスタッフが意欲的に取り組み,経営効率を上げるとともに,働きやすい環境を築いていくことが重要である。Applied Intelligence 医療データ分析サービスは,それを実現する可能性を持っている。

 

鈴木 賢昭(Suzuki Yoshiaki)

鈴木 賢昭(Suzuki Yoshiaki)
1987年社会医療法人生長会ベルランド総合病院放射線室入職。2006年から同院放射線室技師長。2011年鈴鹿医療科学大学大学院前期博士課程修了。2017年から社会医療法人生長会法人本部事務局医療技術統括支援部放射線担当副部長。

 

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