技術解説(富士通)
2018年7月号
医療関連メーカーのAI開発最前線
医療分野におけるAI活用を加速する知識処理技術の応用と展望
赤堀 光希[富士通(株)第二ヘルスケアソリューション事業本部 第五ソリューション事業部 第一ソリューション開発部]
■医療分野における人工知能の活用
医療分野での人工知能(AI)の活用においては,第三次AIブームを背景に国内外のさまざまな研究開発やビジネスへの応用が活況を帯びており,従来のルールベース型の仕組みから,機械学習を前提としたデータドリブンな仕組みへ,その発展と変貌が確実に進行している。日本においては,政府施策として「未来投資戦略2017」1)が掲げられ,厚生労働省が中心となり,先進的かつ革新的医療の開発,超高齢化社会における健康増進,人口動態や労働力の変遷などの社会動向に対して,人工知能の活用がうたわれている状況でもある。
■医療ICTとAI技術の融合に向けて
富士通(株)では,前述のような高まる医療分野でのAI活用の期待や展望に対して,これまで培ってきた「電子カルテや地域連携システムの医療ICTのノウハウ」と「40年にわたる人工知能や周辺要素の研究開発技術」など,それぞれの分野ごとの知見や技術を融合させた研究開発を推し進めている。本稿では,複雑化/多様化する医療課題と情報・データに対して,それらを統合的に構造化表現し,AIを創出した実証事例,また,「説明可能なAI」2)として,医療・診療分野のAI活用であるからこそ有用となるであろうAIの判定/予測結果に理由づけや根拠提示を行うための技術を紹介する。
■多様な医療情報の構造化とAI
専門臨床医の診断支援を目的としたAI実証プロジェクトとして,「患者の過去の症例情報」と「疾病情報・論文情報等のオープンデータ」や「医師の疾患リスクに関する知識」など多種多様な医療を取り巻く情報を扱い,それぞれのデータ群に対して関連性を包含したグラフ構造データで表現し,精神疾患患者の潜在リスクをAIにて予測する技術の実証検証を行った(図1)。結果として,医師が20分かかるリスク予測を5秒以内(精度85%)で実施する実証結果を得るに至った3)。複雑かつ膨大なデータとそのつながりをグラフ構造で表現した入力情報を,グラフデータ解析技術,セマンティックモデル化技術などの人工知能技術を用い実装した事例である。
■説明可能なAIの医療応用に向けて
現在の人工知能は,一部領域において人の判断・予測性能を上回る実績を上げているが,機械が実施した判定に対してその推定理由や根拠の検証が困難となるケースも少なくない。この問題の解決方法の一つとして,「多様な医療情報の構造化とAI」で述べた医療を取り巻く複雑なデータ群をグラフ表現化した上で,構造データを学習する独自のAI技術“Deep Tensor”の活用を想定する。また,この技術と,学術文献など専門的な知識を蓄積したナレッジグラフと呼ばれるグラフ構造の知識ベースを組み合わせることにより,AIの推定結果に加えて,推定因子の特定や知識構造による根拠をトレースして提示することを可能にする(図2)。特に,診療支援を行うAIにおいては,判定する結果に対して推定理由や根拠の提示を行うことで,利用時の信頼性が飛躍的に向上することが期待できる。このような技術群の医療・診療分野の応用を加速していきたいと考える。
◎
医療分野におけるAI活用が活況を帯びる中で,現実には,実臨床・業務での普及に至るにはいくつかのブレイクスルーが必要となる。技術的な側面においては,本稿にて触れた要素などを応用しながらも,AIが人の健康・生活を支え,健康社会実現の一助となることをめざしていく。
●参考文献
1)未来投資戦略2017─Society 5.0の実現に向けた改革. 日本経済再生本部, 2017.
2)AIの推定理由や根拠を説明する技術を開発. 富士通プレスリリース, 2017.
3)富士通の人工知能技術により, 医師の迅速な意思決定を支援. 富士通プレスリリース, 2016.
【問い合わせ先】
第二ヘルスケアソリューション事業本部 第五ソリューション事業部 第一ソリューション開発部
TEL 03-6424-6215
URL http://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/healthcare