技術解説(富士フイルム)

2024年3月号

腹部領域におけるITの最前線

「SYNAPSE VINCENT」直腸領域への挑戦

峯岸 舞子[富士フイルムメディカル(株)ITソリューション事業部事業推進部3D営業技術グループ]

富士フイルムでは,深層学習を活用したAI技術の開発に取り組み,2018年にAI技術ブランド「REiLI」を立ち上げた。「SYNAPSE VINCENT」最新バージョンでは,REiLIとして開発されたさまざまな画像認識エンジンを搭載している。

■「直腸解析」の開発

骨盤内はさまざまな臓器や血管,神経などが複雑に関係しており,解剖を把握することが難しい領域として知られている。一方で,手術時に損傷すると重篤な合併症となりうる神経や尿管などがあるため,術前に解剖を理解してから手術に臨むことが重要である。
直腸がんに対する手術は直腸間膜全切除(TME)が基本であり,直腸周囲の直腸間膜も合わせて切除する。また,深達度がT3以上の進行がんでは直腸内の腫瘍と切除面との距離(CRM)の評価が重要視され,下部直腸がんにおいては壁外静脈侵襲(EMVI)が重要な予後因子となる複数の報告があることから,CRMやEMVIを評価するため術前MR検査を実施する施設が多い。さらに,直腸手術においては腫瘍領域の切除に加えて,リンパ節郭清を行うことがある。直腸周囲に隣接する生殖腺や排泄系の組織との位置関係を術前に確認するため,MR画像を用いた3D作成を行うことが理想だが,従来の画像認識技術ではMR画像からの各種臓器の自動セグメンテーションは困難であった。
そこでわれわれは,MR画像を対象とした深層学習ベースの臓器セグメンテーション技術の開発と,直腸術前シミュレーションに役立つ機能を搭載した直腸解析の開発に取り組んだ。

■直腸解析の機能

直腸解析は,非造影MR画像(3D-T2強調)から骨盤骨,直腸,直腸間膜,動脈,静脈,神経,尿管の自動抽出,腫瘍,前立腺,膀胱の半自動抽出が可能である(図1)。非造影MR画像からの臓器セグメンテーション技術の実現により,被ばくせず,造影剤を使用しない検査で臨床価値のある術前3D画像の作成が可能となった。
直腸腫瘍については深達度,切除範囲を検討することが重要である。直腸解析では,指定した腫瘍領域と直腸領域の位置関係から腫瘍の壁深達度がT3以上かT2以下かを表示する機能や,腫瘍と直腸間膜の位置関係からmesorectal fascia(MRF)involvementの有無を表示する機能により,術前の画像評価を支援する。さらに,表示モードを切り替えることで,直腸内関心領域と直腸間膜との距離に応じたカラーマップ表示(図2)や,切除面との距離が1mm以下の領域を強調表示(図3)する機能を実装した。これらを用いて術前MR画像から腫瘍の壁深達度や切除範囲の検討を支援する。
また,近年では,カメラポート映像を見ながらの手術方式を選択されることが多く,リンパ節郭清の際には限られた視野で血管や神経の走行を確認する。直腸解析では,作成した3D画像を仮想内視鏡ビューで観察でき,術前にカメラポート映像に近い画像でのシミュレーションや修練医のトレーニングにも活用できると考えている(図4)。

図1 非造影MR画像(3D-T2強調)から各臓器のセグメンテーション

図1 非造影MR画像(3D-T2強調)から各臓器のセグメンテーション

 

図2 腫瘍と直腸間膜の距離に応じたカラーマップ表示

図2 腫瘍と直腸間膜の距離に応じたカラーマップ表示

 

図3 腫瘍と直腸間膜までの距離が1mm以下の領域を強調表示

図3 腫瘍と直腸間膜までの距離が1mm以下の領域を強調表示

 

図4 仮想内視鏡ビュー

図4 仮想内視鏡ビュー

 

REiLIの下で開発された直腸領域の術前シミュレーションソフトウエア直腸解析について紹介した。深層学習技術を用いて可能となった非造影MR画像からの各臓器セグメンテーションや,臨床医の意見を基に搭載したシミュレーションツールが臨床現場で活用されることを期待している。
また,骨盤内には直腸以外にも婦人科系や泌尿器系の臓器も複雑に関係しているため,これらの技術をさらに昇華させ,消化器外科のみならず骨盤内に関連する手術の術前シミュレーションへの進化に期待いただきたい。

薬事情報
製品名:3D画像解析システム SYNAPSE VINCENT
販売名:富士画像診断ワークステーション FN-7941型
認証番号:22000BZX00238000

 

【問い合わせ先】
マーケティング部
TEL 03-6419-8033
https://www.fujifilm.com/fms/

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