技術解説(富士フイルム)
2018年6月号
US Today 2018 超音波検査・診断最前線
「デザイン思考」を実践したモノづくり─人間中心デザインプロセスから生まれた超音波診断装置
山崎 延夫(富士フイルムメディカル(株)超音波事業推進部)
「多くの人にとってデザインという単語が意味するのはほんの表面のベニヤだけ。インテリアの装飾や,カーテンやソファの生地のようなものだ。でも私にとって,デザインよりも深い意味を持つ言葉はない。デザインとは人間の創造の根源となる魂であり,それが結果として製品やサービスの表面を表すということなんだ」
アップルの創業者,スティーブ・ジョブズの名言である。
富士フイルムソノサイトでは,スタンフォード大学の通称d.schoolが提唱する「デザイン思考(design thinking)」をモノづくりに実践している。超音波診断装置の開発における人間中心デザインのプロセスについて紹介する。
■デザイン思考の5つのステップ
スタンフォードのデザイン思考は,5つのステップで構成される(図1)。
1.ステップ1:共感(empathize)
われわれは,超音波診断装置の使用環境におけるユーザーの振る舞いを徹底的に観察し,自ら同じ振る舞いを体験してみる。ユーザーの気持ちに共感することで,ユーザーが本当に求めているもの(潜在的ニーズ)は何かを明らかにしていく。共感は,人間中心デザインプロセスの基礎となる。
2.ステップ2:問題定義(define)
共感することで見えてきた,ユーザーの欲求が満たされていない現状を明らかにし,ニーズとインサイト(本人も気づいていない事実や,外からはわからない潜在的な心の動き)を分解・統合し,どのような状態をめざすべきか,ゴールを定める。正しい問題設定こそが,正しい解決策を生み出す唯一の方法である。
3.ステップ3:創造(ideate)
理想の状態にたどりつくことを支援するアイデアを生み出す。創造のゴールは,幅広い解決策,つまり大量のアイデアと多様なアイデアの両方を探ることである。
4.ステップ4:プロトタイプ(prototype)
生み出したアイデアを実際に形にすることで,うまくいきそうな部分を確認したり,さらにアイデアを得るきっかけにする。考えるために作り,学ぶために試す。
5.ステップ5:テスト(test)
本当に目的を達成できるのかどうか,プロトタイプに関してユーザーからのフィードバックを基にアイデアを検証する。テストは,自分の解決策とユーザーについて学ぶための機会である。
超音波診断装置「SonoSite SⅡ」(図2)の開発において実践した,人間中心デザインプロセスの各ステップでの活動例を図3に示す。
◎
人間中心のデザインでは,まずユーザーを理解することが必須である。われわれが解決しなければならない問題は,あくまでも特定のユーザーが抱える問題である。その特定のユーザーとは,「患者の生死をもあずかる緊迫した場面に登場する,超音波が専門でない医師」である(図4)。ユーザーのためのデザインには,彼らがどんな人で何を大事にしているかについて深く共感する必要がある。われわれは,「デザイン思考」を何度も繰り返し実践し,われわれ独自のデザインプロセスを磨き上げてきた。富士フイルムソノサイトが提供し続ける,「簡単操作」「堅牢性」「耐水性」にこだわり抜いた超音波診断装置は,こうしたデザインプロセスから生まれたものである。
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