地域医療と介護を結ぶ持続可能なICT運営 
─ 北まるnetに見る“ユーザーメード” のネットワーク構築の可能性 
KPMGコンサルティング株式会社マネジャー 上級医療情報技師 
沼澤功太郎さん

2019-11-5


沼澤功太郎さん

持続可能なICTネットワークに必要なポイント

医療と介護を連携する情報連携ネットワークの構築・運営において、成功へのポイントは以下の4点にあると考えます。

(1) 医療従事者・介護従事者のコミュニケーションの存在
ICT導入前の段階で、日常の診療・ケアにおいて関係者間の交流が育まれていることにより、システム企画段階から設計・導入時に至るまで、プロジェクトをスムーズに進めることができます。

(2) 地域固有の課題にフォーカスしたICTの活用
地域を取り巻く環境(人口動態・医療提供体制・行政機関の取り組みなど)は地域によって多様であり、システムに求められる要件も異なります。豪華なシステム仕様を一気に求めるのではなく、地域のニーズに合わせて段階的にシステム化することを前提とした導入モデルをめざすべきと考えます。

(3) コスト低減(初期費用・保守費用)
最も懸案となるコストについては、初期費用・保守費用のコスト構造を把握し、どの程度の投資を行うか目標金額を設定した上でシステム導入計画を立てることが必要です。初期費用として、システム単体の導入費用だけでなく各施設とのデータ連携費用やネットワーク敷設費用なども見込む必要があります。保守費用については、使用機器やソフトウエア構成などによって大きく金額が増減します。上記のとおり、ICTによって解決したい問題を絞り込み、自地域に必要なシステム仕様を利用者自身の目線で見定め、システムベンダー任せにしないことが重要です。

(4) 医療機関を巻き込むための仕組みづくり
医療機関からの情報連携を行うにあたり、地域住民の個人情報を誰がどのように閲覧できるのか、情報セキュリティに配慮したシステムが求められます。情報の閲覧範囲を利用者ごとにきめ細かく限定する「アクセスコントロール」を十分に機能させる必要があります。また、医療機関側のシステムとの情報連携も重要です。

北見市「北まるnet」を支える軽快・柔軟なシステム

北見市の医療介護情報連携ネットワークで最も興味深いと感じた点は、システム利用者自身がシステム開発に主体的に参加し、現場のニーズを取り入れ、余分な機能を省いて無駄のないシステム導入が行われている点です。北見医師会会長である今野 敦先生は、かつてご自身でシステムを自作された経験から「最初から完璧をめざすのではなく、必須機能から段階的に機能を強化していく」という方針を立て、医療機関や北見市との協調関係のもとシステム導入計画を進められました。

システムベンダーとユーザーが協調して開発するプラットフォームとして「FileMaker」を選択された点も大きなポイントです。FileMakerをベースに開発された医療・介護情報連携システム「DASCH Pro」を採用。各職種への情報共有やアクセスコントロールはパッケージ機能を活用しつつ、ケアマネジャーが日常業務で必要とする入院時情報連携のPDF作成ツールをユーザー自ら開発するなど、軽快・柔軟なシステム運用が行われています。その結果として、初期費用・保守費用とも他地域の約1/10に抑えるという、驚異のコストダウンを達成されています。

今後の発展のために、地域中核病院との連携拡充なども視野に入れられており、北見市の医療介護連携を支えていくネットワークとしてさらに成長していくものと考えます。


(ケアビジョン Vol.2(2019年10月1日発行)より転載)
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